プロランナーとして世界を飛び回って活躍する尾藤朋美さん【写真:本人提供】

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世界の過酷なマラソンレースに挑むプロランナー・尾藤朋美さんの異色キャリア第3回

 世界の過酷なマラソンレースに挑み続ける異色のプロランナーがいる。尾藤朋美さん、34歳。その脚ひとつで人生を切り開いてきたキャリアに迫る。全3回の第3回は「女性としてのライフプラン」。保育士から転身し、世界で最も過酷と言われるサハラ砂漠マラソン250キロや世界すべての大陸を7日間で回り毎日42.195キロを走る世界7大陸マラソンを完走。競技を続ける中で女性としてある選択をした。(取材・文=佐藤 俊)

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 世界7大陸マラソンやサハラ砂漠250キロなどステージレースに参戦し、世界で戦う尾藤朋美さん。自分の人生を懸けての挑戦は今もつづいているが、マラソンを始め、アスリートの女性選手の中にはパフォーマンスを最大限に発揮するために、ピルなどを飲用し、生理日を遅らせるなどして管理している人もいる。尾藤さんが参戦するステージレースは過酷ゆえに、身体への影響が心配されるが、何か対応をしていたのだろうか。

「私は、ピルで生理を調整することは一切していないです。レースに生理日が重なりそうになったら、その時はその時だよねっていうタイプです。基本的に自分の体の中に余計なものを入れたくないので、サプリメントもほとんど摂らないですし、コロナ禍の時もワクチンを打たないとモロッコに入国できないので仕方なく打ったぐらいです。幸い、生理はそれほど重くないので、あえてコントロールする必要もないんです」

 23年のサハラ砂漠250キロのレース前、尾藤さんは、モロッコに入る直前のフランスで生理が始まった。生理3日目がレースの初日になった。

「あー始まっちゃったなぁと思ったんですけど、経血量が少なかったんです。なんか終わったぐらいの感じで、こんなパターンがあるんだって思いました。持参した生理用品はレース中に生理になった子にあげました。でも、レースが終わった最終日、砂漠から町に戻る途中にもう1回、生理が始まったんです。薬とか使用していなかったんですけど、奇跡といいますか、知らないうちに体がコントロールされていたんだなと思いました」

 レース中での生理は、パフォーマンスに何か大きな影響を与えたのだろうか。

「私の場合、生理が重く、腹痛や腰痛で走れなくなるとかもなく、パフォーマンスに大きな影響はなかったです。レース中は体調が最悪だったので、もう生理どころじゃなかったですね(苦笑)」

卵子凍結を選択 競技生活を優先しながら「ママさん選手になってまた走るのもいい」

 生理前の不調や生理痛でパフォーマンスが低下する場合、ピルで調整する選手がいるが、気にならないのであれば尾藤さんのような思考でレースに臨んでも問題はない。怖いのは、どうしたらいいのか分からずに心理面の負担が大きくなり、競技に集中できなくなったり、パフォーマンスに影響が出たりしてしまうことだ。

「生理との向き合い方は、人それぞれでいいんですけど、ただ情報は伝えていきたいですね。私は、こうだったよということで、参考にしてもらえるといいかな」

 尾藤さんは、生理はコントロールしていないが、妊娠出産は重く考えている。今は競技に集中しているので現実的ではないが、現在、34歳という年齢と将来の妊娠に備え、「卵子凍結」を行った。卵子凍結とは、不妊治療をするための受精卵凍結と異なり、若い状態のまま卵子を保存、加齢による影響が少ない卵子での妊娠を実現するためのものだ。

「アスリートとして、今しかできないことをやりたいですし、サハラ砂漠250キロで優勝したいので走っているんですけど、その目標を達成したら次、ワクワクすることって何だろうと考えたんです。私は、保育士をしていたのもあって子どもが好きなんです。人の子どもでもかわいいので、自分の子どもならもっとかわいいじゃないですか。子どもを産み、ママさん選手になってまた走るのもいいかなと(笑)。また、女性アスリートの可能性を広げていきたいのもあって、卵子凍結を決めました」

 アスリートではスノーボードでソチ五輪銀メダリストの竹内智香、フィギュアスケーター小松原美里らが行っている。いずれも競技をつづけ、自分のライフプランを考える中で、将来の妊娠出産を考え、卵子凍結を行ったが、国内ではまだ少数派だ。

卵子凍結は、すぐに出来るもんだと思っていたのですが、簡単にできるもんじゃなかったです。体の負担を考えるとオフの時にやるしかなかったので、レースを終えて空港から直接クリニックに行きました。生理が来てから2日以内に行かないといけないので、そこは外せないと思い、初めてピルを飲んで生理日をコントロールしました」

体験した卵子凍結の実情「手軽にポンとできることじゃないですが、それでも…」

 生理後、卵子を成長させるためと排卵を防ぐために注射と薬の内服を行う。そうして排卵を促し、2日に1度、クリニックに行った。卵胞を育て、卵子がある程度の大きさにならないと採取できないので、検査でそれが流れないように成長状態を確認する必要があるからだ。経過観察する中で採卵日を決定していく。

「けっこう頻繁にクリニックに通わないといけないので、こんなに行かないといけないのって思いましたし、時間を取られるのでバリバリ働いている人は厳しいなと思いました。排卵を促す際も自分で注射を打たないといけないので、そこに抵抗がある人もいると思うんです。それに費用も45万円ぐらいかかったのでバカにならない。手軽にポンとできることじゃないですが、それでも自分のライフプランを考えるとやって良かったと思います」

 尾藤さんは、1回の採卵で13個の卵子を採り、凍結した。個人差があるので、人によっては2、3個しか採卵出来ないケースもある。また、凍結費用も15個までは月3000〜4000円で済むが16個以上になると倍額になるケースもある。費用や通院などで二の足を踏む人もいるだろうが、東京都では18歳〜39歳の年齢を対象に20万円の補助金を出しており、今後はこうした施策が自治体で増えていくかもしれない。

「いろんな難しさがあって、まだまだ浸透しているとは言えないと思いますが、言い続けていかないと伝わらないし、広がらないと思うんです。私のYouTubeでも卵子凍結について話をしたらロイター通信や名古屋のテレビからも取材がきました。これからも卵子凍結に限らず、女性の体のことについては発信して、いろんな考え、いろんな選択肢があるというのを理解して、選択のひとつとして考えてほしいなと思います」

(終わり)

■尾藤 朋美 / Tomomi Bitoh

 プロランナー、インフルエンサー。1990年12月11日生まれ。東京都出身。大学卒業後、保育士として4年勤めていたが、友人の紹介で始めたトレーニングにハマりトレーナーに転職。タレントの藤森慎吾がマラソンでサブ4を達成したことに刺激を受けてマラソンに挑戦し、自身も2018年にサブ4を達成。以降、ウルトラマラソンやトレイルランニングなどに積極的に挑戦し、世界で最も過酷と言われるサハラ砂漠マラソン250キロ、世界全大陸を7日間で回り毎日42.195キロを走る世界7大陸マラソンなど完走。4月に日本人初優勝を目指してサハラ砂漠マラソン250キロに再び挑戦する。

(佐藤 俊 / Shun Sato)

佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)など大学駅伝をはじめとした陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。