いまや「ニセ性的画像」の“素材”扱い…生成AIの悪用で“いじめ被害”にもつながりかねない学生時代の「思い出の品」に廃止論争
3月に各地で行われた卒業式。記念品とともに、卒業アルバム(以下、卒アル)が配布された人も多いはずだ。そんな卒アルだが、以前から“悪用”や“目的外使用”の問題が議論されてきた。掲載されている住所が名簿業者に売られるリスクも指摘される。
そして、コロナ騒動以降、急激に深刻度が増しているのが、生成AIを使ったディープフェイクの製作だ。卒アルの顔写真を使って、いかがわしい画像を捏造してしまうのだ。それは悪質な業者によって行われることもあるが、圧倒的に多いとされるのが、クラスメイトなどが“いじめ”のために生成する例である。【取材・文=山内貴範】
10代は生成AIのヘビーユーザー
NTTドコモの社会科学系の研究所である「モバイル社会研究所」が2025年11月に実施した全国調査によると、小学5年生では51%、中学生になると85%以上が自分用のスマホを利用しているのだという。調査によれば、スマートフォンの所有開始時期は男子10.4歳、女子はなんと10歳を下回り9.9歳という結果が出ており、年々、低年齢化が進んでいる。

スマホ所持者の低年齢化に伴って、今や、10代の子供たちは生成AIのヘビーユーザーだ。LINEのアイコン、部活動のチラシ、学級文集の表紙など、様々なものを生成AIで作り出している。彼らは小中学生の頃から当たり前にスマホを買い与えられたデジタルネイティブであり、同時に、生成AIネイティブとでもいうべき存在になっている。
そうしたなかで爆発的に増加し、巧妙化しているのがスマホと生成AIを使った“いじめ”である。一昔前のいじめといえば、校内暴力に代表される殴る蹴る、カツアゲをする、持ち物を隠す、などの表面化しやすい事例が多かった。しかし、今は“地下化”が進み、教師や親も被害を把握できなくなりつつある。
卒アルを使ったディープフェイクの生成
生成AIを使って、アイドルや芸能人、声優の破廉恥な画像を生成する事例がネットで相次いでいるが、生徒の顔写真を使ったヌードを作成される例もまた、多発しているのだという。例えば、LINEのグループで仲間外れにするだけでなく、卑猥な画像を生成して、誹謗中傷する。精神的に追い詰めるスタイルのいじめが、さらに陰湿なものになっている。
ある公立中学校で30年近く教師を務めているA氏が、昨年まで担任をしていた生徒も、こうしたいじめの被害に遭っていたという。相談を受け、いじめの加害者に注意をしたというが、その実態は目を覆いたくなるようなものだったという。
「被害者の子供は小学校の頃の卒アルや、修学旅行の写真を使われ、卑猥な画像を生成されていました。加害者たちの執念は凄まじく、嫌いな相手をいじめるためなら、徹夜してでも画像を生成してしまう。さらに、教師側もデジタルに疎く、そういったいじめがあることを知らない例も多いのです」
災害被災地の様子と称したディープフェイクが問題になったように、現在の生成AIの画像は、一見しただけでは本物と区別がつきにくい。写真はもちろん、動画も本物としか思えないほど精度の高いものを生み出せる。卑猥なポーズだけではなく、悪さをしている画像もいくらでも生成可能だ。まさに、生成AIはいじめの恰好のツールになっているのである。
「卒アルに写真を載せないで」
ちなみに、生徒本人や親から「卒アルに写真を掲載しないで」という相談は以前からあるそうだ。A氏が、こう打ち明ける。
「実際、“卒アルに載せないでほしい”という要請は何回かありました。それはいじめっ子と同じ紙面に載りたくないから、という理由でした。私も学年主任や校長に相談してみたのですが、原則として全員掲載の方針なので、生徒の意向を汲むことはできませんでした。
その生徒は卒業後、“卒アルなんていらない”と言って、ズタズタに切り刻んで廃棄したと聞きました」
また、水面下で問題になっているのが、クラスの集合写真や、学校行事の写真である。中学生、高校生がInstagramやTikTokのアカウントを持っている例は多い。なかには逐一、球技大会や文化祭などの写真を掲載し、“いいね”を貰うのに躍起になっている生徒もいる。
「そうした写真に顔が映り込んでしまうことを、嫌がる生徒は多いんですよ。自分に自信があって“陽キャ”な生徒は、とにかくSNSに画像を載せたがります。一方で、そういった子たちと仲が良くない生徒は、“載せないで”とは言いにくい。なので、私のもとに“先生から止めるように言ってほしい”と相談がありました」(前出の教師A氏)
卒アルの在り方を考える機会に
A氏が知り合いの教師から聞いた話では、クラスの集合写真も撮りたくないと言って、拒絶する生徒がいるのだという。やはり、教師の手が及ばないところで、顔写真が悪用されているのだろうか。今後、生徒の写真の扱い方については慎重な議論が必要になりそうだと、A氏が言う。
「ディープフェイクの問題もあって、自分の顔が悪用されるのではないかと、かなり敏感になっている子供が増えてくると思います。併せて、写真が大量に掲載される卒アルの在り方についても、議論が起こってくるのではないでしょうか」
様々な問題がある卒アルだが、一方で唯一無二の思い出の品物として支持する人は多い。その一方で、「掲載されたくない」という生徒の声も、無下にするべきではないだろう。学校生活の思い出はどのように残していくべきか。生成AIなどのテクノロジーが著しく進化している現在、様々な観点から意見交換がなされるべきであろう。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
