「お金がないから受けられない」難関大受験が許される年収額

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難関大学を受験するには学力以外にも、乗り越えなければならない壁がたくさんあります。MSAマスタードシードアカデミー主任講師の中澤一氏は、体験談などをもとに「難関大学合格のためのメンタル強化術」を執筆しました。そのなかの「受験生の前に立ちはだかる障害の数々」の章から、5つの障害のうち2つの障害を抜粋し紹介します。

難関大学への挑戦を阻む障害

難関大学に合格するのは始めから偏差値の高い生徒ばかりではありません。高校3年生の春、あるいは浪人決定の時点では偏差値が30、40台であっても、勉強をコツコツと続けることによって合格を勝ち取る受験生もたくさん見てきました。

しかし、ここ5、6年は、そうした「伸びる」はずの受験生が、難関大学に挑戦しにくい環境になってきたように感じます。

(※写真はイメージです/PIXTA)

東京大学や、早稲田・慶應といった名立たる大学を受験しようと思っても、実は、親や学校・塾の教師をはじめとする周囲の大人たちが、それを許さないケースがあります。

もちろん周囲の大人たちは、受験生の可能性を摘み取ろうと意図的にしているわけではありません。経済的な事情もあるでしょう。あるいは、親や教師の先回りした、受験生のためにはならない「やさしさ」が、結果的に伸びる受験生の学力向上を阻んでしまうこともあります。

経済的にも精神的にも余裕のない親

親であれば、本気になっている子供を応援したくなるもの。ましてや受験となると、少しでもいい大学に合格させたいと思うことでしょう。

しかし、すべての家庭が、子供の可能性を伸ばす支援ができているかといえば、残念ながらそうではないのです。

受験生を抱える世帯年収が減少

厚生労働省が2012年にまとめた「国民生活基礎調査」によると、子供のいる世帯年収は年々減少しています。

過去最も多かったのは1996年で、世帯年収の平均は781万円でした。それが、2010年では658万円まで下がっています。

世帯年収は下がる一方、塾に通わせる費用は変わっていません。入学までにかかる費用は、大手予備校の入学金で7万円程度。難関大学コースを受講する場合は、1年当たり60万円以上もかかります。

しかも、大学の一つの学部を受験するのに、私大文系で平均3万5000円の受験料がかかりますから、5、6校受けるなら20万円は必要です。2011年に「東京私大協連」という組織が調査した「受験から入学までの費用」の結果によれば、大学受験そのものを経済的に「許せる」家庭は、平均世帯年収が895万8000円。

その多くの家庭では、8割以上が共働きで収入を得ています。この水準は、かなり収入の多い部類に入ると思いますが、それでも年収の3割以上。このうち2割の家庭は平均160万円ほどの借金をして学費を調達しています。

このような受験による経済的負担を、全体の40.1%が「大変重い」と感じています。「重い」と答えた50.1%を合わせると、およそ9割の家庭が、受験が金銭的なプレッシャーだと感じているのです。無理をさせず、確実に現役合格できそうな大学を進めてしまうのも、無理はありません。

しかし、大学側も様々な奨学金を用意しています。それに、アルバイトなどで何とかやりくりすることも決して不可能ではありません。実際私が教えた生徒ですが、地方から上京し、都内の私大を親から一切仕送りを受けず、奨学金とアルバイトだけで卒業し、今は教師として活躍しています。

【かわいさ余って成績に過剰に反応】

最近では、精神的に余裕のない親が増えてきました。失敗に過剰反応する傾向が強く、たった一度の模擬試験がうまくいかなかっただけでも「うちの子は、どうして成績が良くないのか」と、ヒステリックになることなどまだ序の口です。

このような親は、子供の成績を自分の子育ての評価だと、勘違いしているのだと思います。また、夫婦関係がうまくいっていないと、特に母親は男の子に対して異常なほどのエネルギーを傾けるようになることがあります。いびつな家庭内の関係が、親の子供に対する度を超した干渉になる例は、数えきれないほど見てきました。

「子供の失敗=自分の失敗=自分の面目が丸つぶれ」という図式が、親の内面に潜んでいるため、子供が失敗するようなことがないように「安全」を通り越して、「安易」な道を選ばせるケースが多くなっています。

最初から「つまずきの石」を親が先回りして、子どものために取り払ってしまうのです。親は自分では「良い親」であるという満足感が高まりますから、ますます子供にとっては悲惨です。

受験生は「自分の人生なのだ」という明確な意識と覚悟のうえで、自分の想いを親に伝えることが必要でしょう。たとえ、親とぶつかってでも。

「高い進学率」には裏があった

進学率に縛られてしまう高校教師

高校の教師は、親と並んで、自分の将来について親身になって相談してくれる存在でした。しかしながら、少子化に伴って大学進学は当たり前になり、時間的な余裕がないためにじっくりと個々の生徒の相談に乗ることができず、「妥協」ともいえる進路指導がなされることも現実に起こっています。

【合格するのが当たり前の受験事情】

文部科学省の「平成24年学校基本調査」によれば、20年前には約30%だった大学進学率は、少子化の影響もあって2012年には47.7%に上昇。およそ2人に1人は大学にはいれるようになりました。大学を選ばなければ、ほとんどの受験生が合格できることから「全入時代」ともいわれています。

以前は大学が学生を選んでいましたが、今ではそれが逆転し、定員を確保できない大学が急増しています。

「日本私立学校振興・共済事業団」の調査によれば、2013年度、定員に達しなかった大学は約40%。地域別にみれば、東京、愛知、京都、大阪、兵庫といったエリアは倍率が6倍〜10倍程度と高く、定員補充率も100%を超えています。しかし、北海道、東北、甲信越、近畿、四国、九州といったその他の地域では、定員の80%から90%しか学生を集めることができていないのです。

受験料を払って願書を出せば、それでまず間違いなく合格できるのです。倒産する私大や、合併する国公立大など、少し前までは考えられないようなことが現実に起きていますし、これからますます増えていきます。

こうして「入学できて当たり前」の大学が増えたため、現役受験生を抱える高校の先生にとっていかに現役で合格させるかが大きなプレッシャーになっているのです。

【学校の都合に合わせた進路指導】

高校にしてみれば、すべての生徒を現役合格させたいわけですが、それは決して生徒の望み通りの進学先とは限りません。一部のトップランクの大学を除けば、あくまでも現役で合格することが重要なのです。

東海地方の某県立高校の話ですが、この高校は入学難易度からすると、トップ校のすぐ次のランクに位置しており、相当レベルの高い大学に入学できる力を持った生徒が多く集まっています。おっとりした生徒が多いのですがちょっと背中を押してあげると東工大や一橋くらいまでは届く生徒が少なくありません。早慶上智あたりも十分に狙えるのです。

ところが、ある年、新しい校長が赴任してから「浪人はさせない。とにかく現役で合格させる」と宣言。PTA受けはよかったのですが、ふたを開けてみたら「どこでもいいからとにかく現役で入れることが先決。中身は問わない」という方針だったのです。

確かに、この高校から浪人する生徒は激減。この高校出身で浪人する生徒が多く通っていた地元の予備校は、経営が傾くほどでした。

もちろん、高校の先生にしてみれば、偏差値が低いのに「難関大学を目指したい」と言い出す生徒には困ってしまうでしょうし、そこまで指導している余裕もありません。事情を察することは十分にできます。もし受験に失敗してしまえば、その年の現役合格率が下がり、高校自体の成績が落ちてしまうわけですから。そこまで思わないにしても、大学に進学しやすい中で「浪人してもいいから挑戦してみなさい」と受験生の背中を押すことは、なかなかに難しいでしょう。

そのため、本来は学力が伸びるかもしれない受験生であっても「無理をしないで、自分の偏差値にあった大学を目指せ」と、現実的なアドバイスに終始してしまうわけです。