明らかに連絡は届いているのに、「既読スルー」のまま返事をしない人がいる。ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは「『気乗りしないオファー、断ることが明らかな打診には、一切レスをしない』という人は、“大人の中二病”をこじらせており、一言でいえば“痛いオッサン”だ」と断じる──。
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■「大人は立派」なんて大嘘

幼い頃、「大人は立派なもの」だと思っていた。「大人はそれなりの分別と常識をわきまえた存在であり、だからこそ子どもは大人の言うことを聞かなければならないのだ」といったことを教えられた記憶もある。

だが、自分が実際に大人になってみてわかったのは、決してそんな立派なものではない、という事実だ。わかりやすいところでは、昨今話題の「あおり運転」だろう。いい大人が感情をコントロールできず、運転で怒りや苛立ちをあらわにする。痴漢や下着泥棒は「ムラムラして、つい……」と犯行動機を語り、街中や電車内で暴力行為に及ぶものは「ムシャクシャした」などと供述する。これのどこが「立派」なのだろうか。むしろ、子どもよりも未熟である。

自分のことを振り返ってみても、「酒はやめろ」と何度言われても飲んでしまうし、酒量がかさんで数年に一度くらいは路上で寝てしまったりもする。まったくもって、バカである。

■いい年こいて「痛い」ヤツがいる

かくして、大人といえども一概に立派ではないことを日々痛感しているわけだが、最近、「大人の中二病」とでも評すべき、くだらない自意識をこじらせたバカな大人が想像以上に多いと、改めて感じるようになった。

大人でも「ずぼら」「怠惰」「信頼感がない」「嘘つき」「約束を守らない」「ドタキャン癖」といった自分本位な一面が目につく人は少なくないし、度が過ぎれば呆れられたり、距離を置かれたりするものである。ただ「大人の中二病」の場合、周囲は「この人、いい年こいて、なんでこんなに『痛い』の?」と感じて、呆れるよりも憐れみを覚えてしまうのだ。

この「大人の中二病」について話を進める前に、「中二病」について軽く説明しておこう。まずはWikipediaからの引用である。

〈中二病(ちゅうにびょう)とは、「(日本の教育制度における)中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング〉

また、ニコニコ大百科では「症状」として「愛想が無くなり孤独を好むようになる(いわゆる“孤高”)」や「突然ブラックコーヒーを飲みだす」などの振る舞いを紹介し、こう解説する。

〈共通するのは自分を良く見せようとする自己顕示欲、あるいは自己陶酔、少年期による心の悩みなどである(中略)「本当の自分を探す」等と言いはじめたら危険。即座に治療を開始する必要がある。〉

■「大人の中二病」、たとえばこういうケース

話を「大人の中二病」に戻そう。先日、私が実際に遭遇したケースである。

2019年10月、私はとある広告関連のイベントにプランナーとして関わった。このイベントに、いわゆる「インフルエンサー」(SNSフォロワーの多い人)を招くことになり、知人のA氏にも声をかけることにした。

A氏はイベントで紹介する商品の周辺事情についてそれなりに造詣が深く、SNSではインフルエンサー的な立ち位置でもある。そこで、イベントの趣旨やギャランティの金額など詳細を明記し、メールで参加をオファーした。

私ともう一人のプランナーで手分けをし、当日は総勢20人のインフルエンサーをイベントに呼ぶことになっていた。声掛けをした人はすべてリスト化し、参加について「○」「×」で整理。未確定の先約が入っていたり、業務状況次第で予定が流動的だったりする人たちには「まだ答えられない」を意味する「△」をつけた。

ノルマである20人を達成するべく、「×」の人が出れば別の候補をクライアントに提案し、その都度、呼んでも構わないか判断を仰いだ。

■皆がきちんとレスするなか、唯一、返信しない男

A氏も含め、最初に声をかけた20人のうち19人からは2日以内に「○」か「×」か「△」の返事が来た。そこで「×」の人数を考慮しつつ、「△」の人には「○月×日までにお返事ください」と確認のメールを送る一方、別の候補者にも声をかけていき、リミットの数日前までには19人の参加者が確定した。唯一、返信がなかったのがA氏である。

こちらとしては「Aさん、忙しいのだろう」と判断し、クライアントには「A氏は『×』ということにしましょう。あと一人は、責任をもって当日までに見つけます」と伝えた。仮にA氏が直前になって「○」と言ってきたとしても1人分のギャラが増える程度なので、予算のバッファー内で十分処理できる。

だが、最終的にはイベント開催時までA氏からの返事はなかった。とはいえ、20人目の参加者は問題なく見つけることができたし、イベント自体は非常に盛況だったので、クライアントも満足してくれた。少なくとも、参加者への打診や調整に関して我々に特段、問題はなかったはずだし、A氏に対して礼を欠くような振る舞いがあったとも思えない。

■「一切返事をしない」というポリシー

そうして、A氏から返事がなかったことなどほとんど忘れていた1カ月半ほど後、突然、A氏のことをよく知る共通の友人(X氏)から電話が来た。ちょうどその時期、私が精神的に落ち込んでしまったことをあるコラムで書いており、X氏はそれを読んでくれたらしい。

「最近、落ち込んでしまったそうですが、もしかしてAさんが影響していますか?」
「えっ? 何の関係もありませんよ! なんだか突然、ドーンと気持ちが落ちてしまったんです。これまでも数年に一度くらい、この手の落ち込みを経験しているので、持病みたいなもの。大丈夫ですよ!」
「そうですか。ひとまず安心しました……。いや、実はここのところ、Aさんは『気乗りしない案件とか、断る案件には一切返事をしない』というのをポリシーにしているそうなんです。落ち込むときって、些細なことが原因になる場合もあるじゃないですか。もしかしてAさんからメールの返信がなかったことが、中川さんが落ち込んだ一因になったのではないかと心配になったんですよ」
「いやいや、そんなことは何も影響ありません。『Aさん、忙しそうだな』くらいの印象しか持ちませんでしたし、落ち込みには何も関係ないです」

こんな調子で、X氏とは簡単に会話を終えたのだが、A氏の妙なポリシーに関する情報は完全に寝耳に水である。そして湧いてきたのは「Aって『大人の中二病』の痛いヤツだな……」という呆れと憐憫の情だ。ちなみにA氏は、アラフォーのいい年をしたオッサンである。

■A氏の思考を想像してみると……

この「気が乗らない案件、断る案件には一切返事をしない」というポリシーから浮かび上がってくるのは、以下のようなA氏の思考だ。

【1】オレ様のようなすげー人間から、必ず返事をもらえるなんて思うんじゃねーぞ
【2】お前ごときがオレ様と一緒に何かをしようなんて、1兆年早いわ
【3】オレ様に「うん」と言わせたかったら、もっと条件のよいオファーを出せ
【4】オレ様は売れっ子なので、別にお前ごときから仕事をもらう必要もない。こちらにも仕事を選ぶ権利がある
【5】オレ様が手掛けている仕事のほうが、お前から来るクソ仕事より社会的意義がある

まぁ、実績や知名度などあらゆる面でユニークな、堀江貴文氏レベルの独自性を備えた人物であれば上記のような考え方でも理解できるところはあるし、こちらも基本的にはレスをもらえない前提で打診する。万が一、返信でもあれば「えっ? マジで返事が来た! ああ、よかった」となるだろう。

しかしながら、A氏はいくらでも代替が効く程度の存在である。当然、私としてもA氏に何かを依頼したり、連絡を取ったりすることは金輪際ないだろう。いま、どれだけ調子よく仕事が回っているのか知らないが、将来、お前に対してオファーが激減して実入りが減ったとしても、そのバカげたポリシーを実践し続けろよ、と思う。いやはや、それほどまでの実力派だったとはお見逸れしました。素晴らしいですね(棒)。

私の知り合いでこの話にピンときた方、おそらくあなたが思い浮かべている人物は、たぶんA氏で間違いない。A氏はおそらくこの数カ月程度のあいだに、多くの打診や相談に対して返事をせず、相手を困らせたりしているのだろう。

■「電話やメールはオワコン」とうそぶくオッサン

思えば2010〜2011年ごろ、「オレは最近、連絡にはツイッターかフェイスブックのメッセンジャーしか使わないんですよね。もう電話とかメールなんてオワコンなんで」などと得意げにのたまうオッサンがけっこう出現していた。これは「最新鋭SNS(笑)を使いこなすオレ、かっこいいぜ!」という自意識の表れだったのだろう。

ただ、この話でいうと、会社によってはセキュリティを考えて、独自ドメインからのメール送信と電話のみを外部との連絡手段として許可し、SNSのメッセンジャーでは業務上のやり取りを禁止している例もあるのだ。相手の事情や合理的な情況判断にもとづいて臨機応変にツールを使いこなすのが、本当の意味で賢いビジネスパーソンである。

これを「新しい時代の流れに即していないし、柔軟さに欠ける」「頭が堅い」「バカじゃないの」などと腐すのは簡単だが、相手には相手のルールがあるもの。そして、そのルールやポリシーをきちんと尊重しあえる大人どうしでビジネスをおこない、しっかりと利益をあげているのである。

■「大人の中二病」は、あまりにダサい

こうした「大人の中二病」的所業は、日々さまざまな場所で見ることができる。

「エレベーターに乗ったら絶対に奥へ行き、ボタン押し係にはならない」「分煙ではない店で『すみません、タバコの煙をこちらに吹かないでもらえますか?』などと言われたら、『この店は喫煙可ですよね?』と毅然と返す」「電車のドア付近にいても、駅での乗降時には絶対に外に出ないようその場で踏ん張る」「飲み会で自分が会話に入れなかったり、話題がつまらなかったりしたら、遠慮なくスマホに集中する」……いずれも「大人の中二病」患者らしい、痛々しさやダサさ1000%を表す行為である。

そしてA氏の振る舞いが決定的にダサいのは、周囲に対して自分のポリシーを(おそらく嬉々として)吹聴していることである。X氏から私に対して「もしかしてA氏に連絡したけど無視されて、傷ついたのですか?」という連絡があったことからも、それが想像できる。

「オレ、中川淳一郎からのオファーを無視してやったんだよね。あんなヤツのオファーなんて受けられるかっつーの。オレを軽く見るんじゃねーよ! オレ様のいまのポリシーからすりゃ、中川なんて蚊帳の外よ!」とでも周囲の共通の知り合いに触れ回っているのだろうか。だとしたら、真性のバカである。

A氏から私へのオファーは過去に何度かあったのだが、私からA氏に仕事を依頼したのは今回が初めてである。私としては、A氏がインフルエンサー的立場になったことを嬉しく思い、これまでの仕事でのお付き合いに対するお礼の気持ちも込めて、誠実に打診したつもりだった。

正直なところ、私はA氏になんの悪感情も抱いていなかった。しかし、失敬なポリシーやら、それを周囲に吹聴しているだろうことを思うと、今後は“痛いオッサン”事例として遠慮なくネタに使わせてもらうつもりだ。おかげで、こうして今回のコラムのネタにも困らずに済んでいる。

■要するに、くだらないマウンティング

ところで、「大人の中二病」をこじらせた人々の根底に潜んでいるのは、どのようなメンタリティなのだろうか。私は結局のところ、自意識過剰さに由来する、一種の「マウンティング」なのだと捉えている。実にくだらない。

「大人の中二病」患者の態度から見え隠れする感情は、たとえば以下のようなものだ。

【1】やりたくないオファーに反応したら負け。「無視」が一番カッコいい!
【2】忙しい人のほうがエライ
【3】いろいろなオファーが来ているオレ、すげー!
【4】自分に馴れ馴れしく声を掛けてくるヤツは無能な暇人。優秀で忙しい売れっ子は、そう簡単に反応しないことを知れ
【5】相手が不快に思ったとしても気にしない。オレのことを重用する人は他にいくらでもいる
【6】深い人間関係、幅広い交流なんか不要。オレ様の才能にはそれ以上の価値がある。いちいち対応が丁寧だったり、ペコペコしたりするヤツは無能
【7】オレ様に出動を仰ぐのであれば、よい場所をお膳立てして厚遇しろ

■「常識的である」ことがアドバンテージになる

こうしてアラフォーのオッサンが「中二病」に罹患している事例を見ると、「さっさと治せよ」とつくづく思う。

私自身は「挨拶ができる」「返事(返信)ができる」「お礼が言える」「約束を守る」程度の幼稚園児でもできること(そして「大人の中二病」患者にはできないこと)を忠実に実践し続けてきただけで、20年近くフリーランスとして生き残り、仕事に困らない程度には売れることができた。そう考えると「常識的である」というだけで、ビジネスの世界では十分アドバンテージになると見ることもできそうだ。

いまは仕事の引き合いが殺到していて、奇妙な自分ルールを周囲に強いても容認してもらえているかもしれないが、そうした状況は、よほどの天賦の才でもない限り、長くは続かない。自分が圧倒的能力を備えた孤高の天才だと思えないのであれば、「常識的」であることだけは忘れないほうが、最終的に得をする。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・「大人の中二病」とでも評すべき、自意識過剰で傲慢なメンタリティの中年が増えているように感じる。
・今は仕事の引き合いが重なり、多忙だとしても、将来はどうなるかわからないのだから、おごりを捨てて何事も誠実に対応するべきだ。
・最終的に自分を助けてくれるのは「常識的な言動」であることを忘れてはならない。

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中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)