偏差値で慶應を凌駕!早稲田の入試が大激変…受験生減少いとわず数学必須化「巨大リスク」背負った結果

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 創立150周年(2032年)に向け、早稲田大学がさまざまな改革を進めている。その流れのひとつに、2025年より、早稲田大学の入試形態が大きく変わる。変わることは受験の話だけではない。時代に迎合しないスタイルで学内を闊歩する「バンカラ大学生」も今や昔、洗練されたものに変化しているという。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が“令和の早稲田事情”を解説するーー。

早稲田大学の「バンカラ気質」も今や昔

「質実剛健を身にまとった雑草魂」「磨り減った下駄の音が刻む早稲田の青春」といったバンカラなイメージのあった早稲田大学が大きな変貌を遂げている。

 例えば、早稲田大学の入学者構成だ。現在では首都圏出身者が全体の7~8割を占め、私立中高一貫校出身者が大半を占めている。現役入学率は8割を超え、「早稲田といえば、地方出身の浪人生」などというイメージは極めて稀なケースとなった。入試形態の変化も著しく、学校推薦や総合型選抜、内部進学者が全体の約半数を占める一方、一般入試の割合は過去30年間で80%から55%へと減少している。

 合格者における東京圏出身者(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の割合は増加を続けている。2009年度には63%だった割合が2024年度には76%まで上昇し、付属校や系属校からの内部進学を含めると、その割合は80%近くに達すると推測されている。15年間で東京圏の高校出身者の割合が拡大し続け、地域間の受験格差が広がる結果となっている。

 総合的な合格者数は減少傾向にあり、ピーク時の2012年度には2万2192人を記録していたが、近年では1万5000人前後で推移している。高い授業料や下宿費用が経済的負担となり、地方からの進学が困難になっていることが、東京圏出身者の割合増加の背景にあるとされる。文部科学省の調査によれば、私立大学の平均授業料は95万円を超え、国立大学の約2倍である。

 河合塾、東進、ベネッセの偏差値分布表などを参考にすると、今年の受験生が抱く難関私大のイメージは、以下のようになる。

 まず、早稲田が最上位に位置し、慶應が僅差でそれに続く。同志社や上智がその下に並び、さらに立教、明治が続く。中央大学法学部や法政はやや差が開き、青山学院、中央大学の非法学部、国際基督教大学、学習院が続く。

早稲田と慶應、W合格の場合は慶應進学が優勢

 偏差値で慶應に僅差で勝っているとはいえ、ダブル合格者ではまだ慶應を選ぶ人も多いようだ。河合塾によると、早稲田大学と慶應のW合格者の進学先では、全体では慶應が60.9%と優勢だが、学部別では特徴がある。経済、商、文など文系主要学部では早稲田が優勢であり、一方、法学部では慶應が強い。早稲田は13学部を擁し、いわゆる「下位学部」とされる学部が多いため、それらと慶應にW合格した場合、進学先として慶應が選ばれる傾向が強い。

 歴史的に見ると、1990年代に慶應が実施した改革は、早稲田大学に対する優位性を確立する重要な契機となった。しかし近年では、早稲田大学が再び改革を進め、その地位を取り戻しつつある。例えば、2008年以降の入試制度改革や学部新設は、学生人気の向上に寄与している。慶應が導入したAO入試や文理融合型カリキュラムも、現在では一般的な制度となり、かつての新規性が薄れつつあるようだ。

「日本の入試は79.8点が79.7点より上という考え方に縛られているが、これは本当に優秀な学生を取るのにふさわしい選抜制度ではない。早稲田から変えられる」と述べたのは、早稲田大学総長・田中愛治氏だ。1月10日の大隈重信没後100年記念式典後の記者会見のことだ。

 しかし、この言葉を額面通りに受け取ってはならないと筆者は感じる。田中総長は自身の改革について間違ったことは言っていないが、学力試験を避けたというのは、入試改革の全体を表現した言葉ではない。一般入試での入学者は減ったとはいえ、全体の50%を超えている。

現在グローバル入試、英語学位プログラムなど多種多様な入試制度が存在

 早稲田大学の躍進は、外形的には、まず入試制度の戦略的な改革にある。従来、慶應や東大・京大などの国立大学とのダブル併願で優秀な学生を奪われることが課題だったため、内部進学や推薦入試の割合を「多様性」の名のもとに増加させ、一般入試の枠を縮小した。この方針によって一般入試による競争が激化し、結果として偏差値の上昇を実現した。

 かつての早稲田は一般入試が大半を占めていた。現在では指定校推薦、グローバル入試、英語学位プログラム、共通テスト利用入試など、多様な方法が導入されている。例えば2021年度の政治経済学部では、一般選抜が300人、共通テスト利用入試が50人、グローバル入試が60人、指定校推薦が約90人となっている。9月入学の英語学位プログラムで100人を受け入れており、全体の募集定員はかつての1080人から900人に削減された。

付属校も佐賀にまで拡大

 附属・系属校の役割も変化している。1980年代には都内の3校のみだったが、現在では本庄高等学院や早稲田佐賀中学・高校などを含む7校に拡大している。これにより内部進学者の割合が増加し、2021年度では高等学院から110人、早稲田実業から70人が進学している。附属・系属校出身者は、学業成績が優れているという。

 しかし、早稲田の入試改革の視線は、慶應ではなく、東大や京大の入学希望者に向いているようだ。テレビや新聞は早稲田と慶應を並べて比べたがるが、早稲田が本当に欲しいのは、慶應ではなく、東大・京大へ行くような人材だ。

 その証拠に、入試制度の大規模な改革を通じて受験生層を刷新し、学問的評価を高める変化を遂げている。その代表例として挙げられるのが政治経済学部の入試改革である。この学部は2021年度から、従来の文系3教科型受験から共通テストの導入および数学必須化に踏み切った。この改革により、暗記型の受験生から、国立大学志望者を含む幅広い層を取り込むことに成功している。

入試形式の変更は短期的にはリスクを伴う

 かつて早稲田大学の入試は、暗記型のマークシート試験やマニアックな知識を問う問題が多く、文系3教科型受験が一般的であった。この形式は、知識を詰め込む力が重視される一方で、幅広い学力を持つ学生の受験を妨げる要因ともなっていた。そこで、大学は大胆な改革に乗り出し、政治経済学部を皮切りに、試験形式や出題範囲を大幅に変更した。共通テストの採用や数学必須化により、東京大学や一橋大学などの国立大学を併願する受験生もターゲットとする入試制度が実現した。この改革により、偏差値の維持のみならず、受験生層の質の向上も達成している。

 入試形式の変更は短期的にはリスクを伴うものであり、実際に政経学部の受験生が2021年に前年比で28%減少している。この点について早稲田は「志願者が減るのは織り込み済み」と朝日新聞(2021.12.17)に回答している。従来の暗記型試験から総合問題型への移行は、受験生に論理的思考力や多角的な学力を求めるものであり、国立大学の試験形式に近づく内容となっている。現在の田中総長以下の執行部は「(国立大学のような)質」を重視しており、短期的な収益を捨て、長期的な教育価値の向上に注力しているわけだ。

 早稲田大学の田中愛治総長は創立150周年記念事業の骨子を発表した。2032年に迎える創立150周年を見据え、早稲田大学を「世界人類に貢献する大学」として進化させる構想を打ち出した。短期的な利益を追わないことで、優秀な学生の獲得に成功しつつある早稲田の改革への覚悟は、質実剛健を身にまとった雑草魂の名残であろうか。