サムスン創業者の孫を従える文大統領

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中国メーカーの台頭で経営悪化 韓国のディスプレイ・サプライヤー

 米アップル社製スマートフォンiPhoneの有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイはサムスンディスプレイが一手に引き受けてきた。しかし、新たに発売されたiPhone12は、1部のモデルでLGディスプレイと中国の京東方科技集団(BOEテクノロジーグループ)が採用され、サムスンディスプレイの独占が崩れはじめた。

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 テレビやパソコンモニター、スマートフォンなどのディスプレイは、サムスンとLGが世界シェアを競っていたが、BOEなど中国勢がシェアを伸ばしており、シャープも好調の兆しを見せている。

サムスン創業者の孫を従える文大統領

 iPhoneのOLEDディスプレイは、サムスンディスプレイが独占的に供給してきた。

 アップル社が2017年にiPhoneXでOLEDディスプレイを導入したとき、アップルの品質基準を満たし、かつ十分な生産量を供給できるサプライヤーは、唯一サムスンだけだった。

 新型コロナの影響でスマートフォンの販売が伸び悩み、契約した発注数を達成できなかったアップル社は、サムスンディスプレイに多額の補償金を支払った。

 一方、コロナ禍以前からサプライヤーの多様化が進められ、iPhone11でLGディスプレイを試験的に採用。iPhone12は1モデルなどで本格採用し、iPhone12miniやiPhone12のパネル予備分としてBOEを採用した。

新型iPhoneの発売を伝えるニュース

 中国メーカーの台頭で経営が悪化していたLGディスプレイはiPhoneに採用されたことで一時的に息を吹き返したが、韓国ディスプレイ業界は危機感を抱いている。

サムスンディスプレイとLGディスプレイは、核心材料を日本に依存

 華為(ファーウェイ)にスマートフォン用OLEDパネルを納入してきたBOEは、米国の華為に対する制裁で、他の供給先を探す必要に迫られ、アップルに売り込みをかけた。

 品質テストで不合格となった後、生産ラインを入れ替えて再挑戦し、基準をクリアしたという。

 19年第4四半期のスマートフォン用OLEDの世界シェアはサムスンが81・
2%、LGが10・8%で、BOEは1・6%にとどまった。

サムスンディスプレイ本社

 しかし、BOE幹部が5年以内には40%以上のシェアを目指すと話しており、iPhone13以降、BOEの納入量が大幅に増えるなど、さらにシェアを伸ばす可能性は捨てきれない。

 サムスンディスプレイとLGディスプレイは、核心材料を日本に依存している。昨年8月、日本政府が韓国をいわゆるホワイト国から除外したとき、LGディスプレイは1兆ウォン相当が影響を受けると試算した。

 韓国政府は、ディスプレイ素材の国産化を支援する予算を計上、サムスンディスプレイとLGディスプレイは素材を国産化する速度を早めた。

 19年10月10日、サムスンが忠清南道のディスプレイ工場で中小企業と協力する覚書を締結すると、文在寅大統領が駆けつけて「特定国への依存度が高いディスプレイの核心素材・部品・装備の自立化に向けた重要な契機」と豪語した。

LGディスプレイも入るLGタワー

ふた言目どころか、ひと言目から国産化を叫ぶ文在寅政府だが

 その直後の10月15日、韓国メディアはLGディスプレイがフッ化水素の100%国産化を完了したと一斉に報じ、日本の輸出管理強化から100日余りで「日本依存から脱皮」と沸き立ったが。

 LG社が国産化を完了したのは、輸出管理対象外の低純度フッ化水素を加工したエッチングガスで、それまで日本から最終製品を輸入していたが、物流効率化のため、日本から素材を輸入して韓国内で加工する方式に切り替えたのだった。

台頭する中国のBOEとファーウェイ

 ふた言目どころか、ひと言目から国産化を叫ぶ文在寅政府だが、韓国製の核心部品は日本企業の韓国工場と、サムスンやLGが日本企業と合弁で設立した工場の製品が大半を占めている。

 ディスプレイの前面ガラスは日本と日本企業の韓国工場がほぼ100%で、LGディスプレイは日本電気硝子に依存している。

 滋賀県に本社を置く日本電気硝子は、2005年、LGフィリップスLCD(現・LGディスプレイ)と合弁で、LGディスプレイの企業城下町となった京畿道坡州市に坡州電気硝子を設立、日本で製造した板ガラスを加工して、LGディスプレイに供給した。

 LGディスプレイは2009年以降、大型パネルの出荷量世界1位となり、日本電気硝子は2013年、日本企業の韓国進出で過去最高額の14億ドル余りを投資して韓国工場を設立した。工場が稼働するとLG社の日本電気硝子への依存度は50%前後まで倍増した。

実情は下請け工場と変わらない韓国企業

 サムスンディスプレイとLGディスプレイが日本に依存する一方、日本の家電メーカーも普及価格帯のテレビなど、韓国企業製ディスプレイを採用している。

 日本企業が素材や部品を供給し、韓国企業が組み立てたディスプレイを日本メーカーが買い戻してテレビに組み込んでおり、表向きはサプライヤーだが、実情は下請け工場と変わらない。

 半導体やディスプレイなど、複数企業の素材等を組み合わせて、部品が作られる。

 1つの素材を開発しても、他社の素材と組み合わせたときに期待通りの結果が得られるかなどを検証し、問題が見つかれば、どの素材とどの素材の組み合わせが原因か、パズルを解く必要がある。

 ギャラクシーノートの発火で多額の損失を出したサムスンにとって、トラブルの事前防止は必須だが、中国や台湾の企業と競争にさらされている昨今、時間をかけてパズルを解く余裕はなく、日本からの継続的な調達頼みというのが韓国大手の本音である。

 先端素材の国産化を唱える文在寅政権は、サムスンやLG、現代自動車などに中小企業への技術開発支援と韓国製品の調達を強要する。

 しかし、電機メーカーの幹部は「韓国企業も作ろうと思えば作れるだろうが、歩留まりが悪くて採用は難しい」「生産技術は日本企業に一日の長があり、短期間で成果を上げようとしても、うまくいくかはわからない」と話している。

 実際、サムスン電子やSKハイニックスに半導体部品を供給するある日本企業は、物流を効率化するため韓国で製造したことがある。

 が、歩留まりが悪すぎて、日本で製造する方が、トータルコストが安く済み、またトラブル時のクレームを考えると、日本で作って輸出する方が良いと判断して韓国内の製造をやめたという。

韓国企業は大口販売先を失うことになりかねない

 日本の家電メーカーが、サムスンやLGを採用する一番の理由は、求める品質基準を低コストで実現しているからだが、同時に核心材料を日本に依存、つまりは日本の家電メーカーの目が届く部品で作られている安心感もあるだろう。

 BOEがアップルへの供給を安定化させた暁には、実質的な下請け候補として名乗りをあげる可能性は否定できない。

 となれば、単価の高いサムスンやLGを採用する理由はなくなり、韓国企業は大口販売先を失うことになりかねないのだ。

 そうはいっても韓国にとって最も確実な国産化は、日本からの輸入を日本企業の韓国工場製に切り替える方式である。日本に依存している実態が当面変わることはないだろう。

佐々木和義
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、プランナー兼コピーライターとなる。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月28日 掲載