ヒットする企画を思いつくにはどうすればいいのか。数多くのベストセラーを手がけてきた編集者の柿内尚文氏は、「いい企画を生み出すには3つの方程式があり、それに当てはめて考えるといい」という--。
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■まずは知ってほしい3つ基本

考えるのが苦手という人にときどき出会います。そんなとき思うのは、「考える」ことを、そんなに難しく考える必要はないんじゃないかということです。もっと「考える」を楽しんでいけたらいいですよね。

考えるのが苦手という人におすすめしたい方法があります。それは「考える方程式」のインプットです。

「考える」には方程式があります。

この方程式を活用すると、自分が想像していた以上の答えが導き出せたり、目の前の課題解決ができたり、いろいろ活用ができます。

先日出版した『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見るかる思考法』(かんき出版)という本で、このことを書きました。

この本でも紹介している「考える方程式」の中で、まずは知ってほしい「『考える』の3つ基本」をご紹介したいと思います。

・基本1 「考える=広げる+深める」
・基本2 「考えると思うは違う」
・基本3 「考えるには、論理的に考えると非論理的に考えるがある」

■「広げる」と「深める」のやり方

ひとつずつ解説していきますね。

基本1「考える=広げる+深める」

「広げる」とは、考えるテーマを真ん中において、さまざまな可能性を考えていくことです。今まで存在しなかったものを生み出したり、新しい価値をつくっていくことでもあります。

「深める」とは、考えるテーマの本質的価値を考えていくことです。「そもそも」を考えることでもあります。

では、具体的にどうやって「広げるか」「深めるか」、その方法を紹介します。

考えを広げる方法
・「かけあわせ法」→スティーブ・ジョブズも使っていた新しいものを生み出す方法
・「数珠つなぎ連想法」→既存のものに新しい魅力、価値を発見したいときに
・「ずらす法」→どんづまりの課題を解決したいときに
・「脱2択」→選択に迷ったら
・「まとめる法」→小さなことを価値に変換できる方法
・「あったらいいな」→思いや夢を実現したいときに
考えを深める方法
・「360度分解法」→「いいところ」「強み」が見つかる
・「ポジティブ価値化」→弱み、短所を強み、長所に変える
・「自分ゴト、あなたゴト、社会ゴト」→説得力がグッと高まる方法
・「すごろく法」→ゴールへの最短距離を見つけたいときに
・「正体探し」→人の心の中にある見えない心理を見つける
・「キャッチコピー法」→たくさんの人に魅力を届けたいときに

■いくつもの方法を絡め合わせる

それぞれの詳しい内容は本の中で解説しています。これらの方法は一つひとつでも使えますが、いくつかの方法を組み合わせて使うと、さらに思考の幅が広がります。例えば、新しい本の企画を立てるとき。僕は「あったらいいな」でまずは考えはじめます。

次に「かけあわせ法」や「数珠つなぎ連想法」「ずらす法」を使って企画の中身を具体的に考えていきます。

企画のベースができたら、「すごろく法」や「自分ゴト、あなたゴト、社会ゴト」などを使って企画の意味づけをしていきます。

また、企業の商品プロモーションの仕事を受けた場合。「360度分解法」で全体を理解し、「ポジティブ価値化」で強みをつくり、それを伝える方法を「キャッチコピー法」「かけあわせ法」「ずらす法」などを使ってプランニングしていきます。

このようにいくつもの方法を絡めながら、考えていくわけです。

ぜひ、あなたのテーマ、課題に合わせて具体的に活用してみてください。

■頭に思い浮かべるだけでは「考える」とは言わない

基本2「考えると思うは違う」

人は1日に6万回、何かを考えているという説があるそうです。すごい思考量です!

ただ、その中身をひも解いていくと、毎日の思考は「考える」と「思う」に分けられ、そのほとんどは「思う」で占められているのではないでしょうか。

「考える」と「思う」の違いはどこにあるのか。

好きな人がいるときのことを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。大好きな人です。「いま、なにやってるのかな?」とか「こないだのデート楽しかったな」とか、頭の中は好きな人のことで占められている、いつも相手のことを考えてしまう。

こんな経験、ないでしょうか? 僕にもあります。いつも好きな人のことを「考えている」。でも、この場合の「考えている」は、「思う」です。

「考える」は目的のために意識的に思考すること。

「思う」は頭に浮かんでくる、感じること。

でも、「思う」を「考える」だと誤解しているケースもあります。

「一生懸命考えたんですが、答えがまったくわかりませんでした」そんなことを言う人がいます。この場合、「考えている」のではなく、「思っている」状態がほとんどです。それだとなかなか答えは出てきません。

基本3「考えるには、論理的に考えると非論理的に考えるがある」

「考える」=「論理的思考」と思われがちですが、「考える」には「非論理的思考」もあります。論理的思考が苦手な領域があるんです。例えば、これまでになかった新しい商品を生み出したいとき。「論理的思考」では壁にぶつかってしまうことがあります。

いままでにないものを考えるということは、未来を考えるということでもあります。「未来」は誰にもわかりません。ロジカルに考えることも大切ですが、それだけだと答えが導き出せないことがあります。

■「ガリガリ君リッチコーンポタージュ」が誕生したきっかけ

非論理的思考をうまく活用しているなと、感心した事例があります。

それが、大ヒットした「ガリガリ君リッチコーンポタージュ」です。みなさんも発売当初、驚いたんじゃないでしょうか。アイスにコーンポタージュって……すごい発想ですよね。

この商品の開発秘話は、『ガリガリ君の秘密 赤城乳業・躍進を支える「言える化」』(日本経済新聞社)という本に出ていますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

この商品を生み出したのは20代の若手社員だそうです。きっかけはガリガリ君リッチシリーズが最近守りに入っているんじゃないかという小売業の方からの厳しい指摘だったそうです。

ガリガリ君を発売している赤城乳業は「遊び心」や「冒険心」を大切にしている会社ですが、このリッチシリーズにそういった要素が感じられなくなっていたことに気づき、原点に立ち返り、新しい商品の企画を考えていったそうです。

コーンポタージュに目をつけたきっかけは、人気のお菓子「うまい棒」のコーンポタージュ味だったそうです。コーンポタージュとアイスを組み合わせたらいけるんじゃないかという思いから企画したそうです。

ロジカルに考えると「コーンポタージュ×アイス」はおいしくなさそう、尖(とが)りすぎという結論になりそうです。でも、思いや直感など非論理的なところから思考することで、常識を突破していったわけです。結果、この商品は大きな話題を生み、ヒット商品になりました。

■出合ったことがないもの同士をとにかく組み合わせる

非論理的思考をするときに使えるのが「かけあわせ法」です。

この「コーンポタージュ×アイス」のように、出合ったことがないもの同士を組み合わせる思考法で、「考える方程式」のひとつです。この「かけあわせ法」、けっこう使えます。

「かけあわせ法」のやり方は、とても簡単です。

まずは中心のキーワードを考えます。あとは、そのキーワードに目にしたもの、思いついた言葉をとにかくかけあわせてみて、奇跡の出合いが生まれるまでそれをひたすら続けるのです。

例えば、「社員の離職率を下げるプランを考える」という課題があるとしましょう。

この場合、真ん中のキーワードは「脱離職」になります。そこにどんどん言葉をかけあわせていくわけです。

・脱離職ランチ
・脱離職休暇
・脱離職表彰
・脱離職プレゼント
・まいにち脱離職
・週一脱離職
・脱離職有名人
・脱離職チャンピオン

思いつくままに書いているので、なんのことかわからないものも出てきます。

でも、こうやってかけあわせることで、「あれ、これってなにかできそうじゃないか」とか「これ実行したら効果ありそうじゃないか」なんてものが出てくるはずです。そしてアイデアの素が出てきたら、今度はさらに具体的に考えていきます。

■「言われてみれば」がヒットの要素

新しいアイデアは、自分の脳の外に出て、思いもよらなかったものを出合わせることで生まれます。

例えば、大ヒットした『うんこ漢字ドリル』。「うんこ」と「漢字」の出合いをつくったことは本当に素晴らしい発想です。

柿内 尚文『パン屋ではおにぎりを売れ』(かんき出版)

言われてみれば、子どもはうんこが大好きです。この「言われてみれば」という部分がヒットするものに共通するひとつの要素です。

今回紹介したのは、「考えるの3つの基本」でしたが、著書『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)ではほかにおいろいろな「考える方程式」を紹介しています。

「人生」=「考える」+「行動する」

どんなことを考えて、どう行動するか、それが自分の人生を作っていきます。「考える方程式」を、人生をよりよく生きるツールとしてぜひ活用してください。

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柿内 尚文(かきうち・たかふみ)
編集者
1968年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。読売広告社を経て出版業界に転職。現在、アスコム取締役編集局長。長年、雑誌と書籍の編集に携わり、これまで企画した本の累計発行部数は1000万部以上、10万部を超えるベストセラーは50冊以上に及ぶ。特に実用書のジャンルで数々のヒットを生み出している。現在は本の編集だけでなく、企業のクリエイティブコンサルティングや事業構築のサポート、講演やセミナーの講師など多岐にわたり活動中。近著に『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)がある。
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(編集者 柿内 尚文)