働き方改革の進展に伴い、自宅などで仕事をするリモートワークを導入する企業も増えてきました。けれど、「会社にいないから評価しない」という昭和上司もまだまだ健在。カドを立てずに彼らを上手に説得する方法とは──。男性学の第一人者、田中俊之先生が教えてくれました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maroke)

■「目の前にいないから評価しない・できない」の不思議

オフィスに行かず自宅で働ける「リモートワーク」は、子育て中や介護中の人が働き続ける上でとても有効な仕組みです。近年は働き方改革の一環として、そうした時間的制約のある社員以外も対象としたリモートワークを取り入れる企業が増えてきました。

しかし、いわゆる“昭和上司”の中には「自分の目の前で働いていないから評価しない・できない」という人も少なくないようです。これは、彼らの評価基準がいまだに「生活態度としての能力(=生活のすべてを仕事に注ぎ込める能力)」に設定されているからだと思います。

この言葉は、1990年代に経済学者の熊沢誠さんが提唱したもの。それから何十年も経ち、多様な働き方が推進される時代になったのにもかかわらず、なぜ彼らは昔の評価基準を捨てられないのでしょうか。

まず考えられるのは、上司の目が届くところで、部下が働くのを最良の仕事法だと思い込んでいる可能性です。彼らにとって最も大事なのは、皆が会社に「いる」ことであり、効率性や生産性は二の次。そのため、部下がリモートワークで成果を挙げても、目の前にいないから評価しない・できないと考えてしまいがちなのです。

加えて、人間は年をとればとるほど、新しいものを取り入れるのがおっくうになります。頭では働き方改革を推進すべきとわかっていても、長年続けてきた仕事法はなかなか変えられません。そんな彼らには、どう対応するのが得策なのでしょうか。

■「ペーパーレス化が進みますよ」

対応策の一つは「待つ」です。この先、働き方改革はさらに進み、昭和上司たちは定年退職していくわけですから、全社員が毎日定刻に出社するような働き方はいずれなくなっていきます。

とはいえ、そんなに長く待ちたくないという人も多いでしょう。その場合は上司をうまく説得してほしいと思います。おすすめは、リモートワークのメリットをわかりやすく伝えること。評価しないことへの不満を訴えるのではなく、上司に“響く”言葉でメリットを説明してあげるのです。

1番目の説得法は「リモートワークを推進するとペーパーレス化が進みますよ」という言い方。自宅など社外で仕事をするには、資料をパソコンに取り込んでおく必要がありますから、自然とペーパーレス化が進みます。近年はこれに取り組んでいる企業も多いので、社の方針であれば上司も納得しやすいでしょう。

■“ペーパーレス化”がわからない上司には……

ただ、ペーパーレス化がよいことだと知ってはいても、実際にはそれがどういうことなのか、よくわかっていない上司もいるかもしれません。私は先日、授業で「子どもの頃トランシーバーのおもちゃで遊んで、とても楽しかった」という話をしたのですが、驚いたことにスマホ世代の学生たちはトランシーバー自体を知りませんでした。

当然、私の楽しかった思い出にも共感してもらえず、少し寂しい思いをしたものです(笑)。それと同じで、世代が違えばわかり合えるポイントも違うもの。そんな時は、少々面倒でもペーパーレス化とは何か、なぜ推進されているのかを丁寧に説明してあげてください。その後押しになるリモートワークへの理解も、きっと深まると思います。

2番目の説得法は「皆のPCスキルが上がって生産性がアップしますよ」というものです。リモートワークは必要書類をデータでやり取りすることが多いため、ExcelやPowerPoint、Wordといったソフトを使いこなすスキルが必要です。部署の中には、このスキルがないせいで生産性が上がっていない人もいるかもしれません。

リモートワークは、個々のPCスキルをチェックする機会になります。さらには、苦手部分を克服して磨きをかける機会にもなります。そうなれば、部署全体のスキルアップ、ひいては生産性アップにつながっていく可能性が高いでしょう。上司自身の評価にもつながる部分なので、こちらも説得力があるかと思います。

■新しい働き方へ踏み出せるよう説得を

昭和上司にとって「リモートワーク」は縁遠い言葉でも、「ペーパーレス化」や「生産性アップ」は響きやすく、かつわかりやすい言葉。いずれも、上司自身が上から推進するように言われている可能性が高く、リモートワークのメリットとして説得力があるかと思います。会社の方針や上司のタイプに合わせて、参考にしてみてください。

そして3番目の説得法としては、これは会社にもよりますが「グループウェア推進のきっかけになる」が挙げられます。グループウェアは、外出先からのスケジュール管理やファイル閲覧など、社員間での情報共有が簡単にできるツール。近年は、業務効率を上げるため導入している会社も少なくありません。

昭和的働き方に慣れている上司は、グループウェアがあっても利用には尻込みしがちです。それでも、会社が導入したのであれば「使ったほうがいい」とは思っているはず。リモートワークの部下とやりとりするには、グループウェアを使ったほうが格段に便利ですから、一歩踏み出すきっかけになるのではないでしょうか。

■“わかってはいるができない”を何とかしてあげる

昭和上司は、昔ながらの仕事法を続けたがるもの。ただ、国や会社の方針も知っていて、頭では「働き方を変えていかなければならない」とわかっている人もたくさんいます。

それなのにリモートワークを評価しないのは、長年慣れ親しんできた評価基準が変えられないから、新しい仕組みがよくわからないから、そして新しいことを取り入れるのがおっくうだから。

これらは世代の違いとも言えるものなので、リモートワークにどんなメリットがあるのか、部署や会社の生産性にどうつながるのかをきちんと説明しさえすれば、「なるほどね」と納得してくれる可能性は高いと思います。

リモートワークは、働く女性だけでなく、男性にとっても仕事と家庭を両立する上でとても効果的な手段。日本社会全体にとって、多様な働き方を実現する上で欠かせない仕組みの一つです。「目の前にいないから評価しない」という男性上司がいたら、これからの日本社会のためにと思ってぜひ説得していただきたいと思います。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 写真=iStock.com)