【佐藤優×津田大介】貧乏人は“炎上”しない!? 現代ネット社会の特徴と注意点【対談】

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社会の恩恵を感じ難い構造となっている現代。
この閉塞状況を打破するためのヒントを探るべく、作家の佐藤優が若き知識人たちと語り合う。

情報過多時代をうまく生き抜く!ライフスタイルをシンプルにするための必読書6

著書『右肩下がりの君たちへ』(ぴあ書籍)より、ジャーナリストの津田大介氏との対談「情報を見極めること」から抜粋して紹介。

ネットの「エコーチェンバー現象」に注意

津田 ツイッターに限らずですが、ソーシャルメディアがニュースネットワークとして広がっていくと、問題もあります。例えば自分の好きな情報にしかアクセスしなくなると、自分の近しいコミュニティの数人が話題にしただけでも、まるで世界中の多数派の意見のように感じてしまう。

よくエコーチェンバー現象といわれます。音が響く屋にいると、小さな声でも反響して何度も聞こえてくる。ソーシャルメディアにはそれと似たような部分があると。

佐藤 そういえば、モスクワの友人に聞いた話ですが、スターリンの特別会議室には声が反響する特別な仕掛けがあったようですね。

地下壕を数十メートル降りて行ったところにある大きな部屋で、声を発すると、時間差で何度も声が反響する。スターリンと会談していても、自分の声が何度も何度も聞こえてくる。結果として追い詰められたような気分になる。そうして来訪者を萎縮させる効果があったのでしょう。

津田 そうした神秘的な効果、洗脳的な効果も狙えるでしょうね。自分でフォローやフォロワーを選ぶソーシャルメディアではそこまでの強制力はありませんが、自分で視野を狭くしていくものではあると思います。

わかりやすいのがいまだと「ネット右翼」と呼ばれるような新たな保守層です。実際には、世間的にそこまで多くはないと思いますが、ネット上ではなんとなく中国や韓国によくないイメージを持っている若い人たちが増えていますよね。ほかのことでもそうですが、周りにそういう話をする人ばかりだと、極端な意見であるほど影響を受けると思うんです。

佐藤 そうですね。逆の立場に立って物事を分析できるような人なら、そうはならないだろうけど。

津田 結局ツイッターは、自分が好む意見を集める、自分自身の「世間」をつくるメディアだと思います。

東日本大震災が起きたときに、住所別に東日本と西日本のユーザーの投稿をチェックしてみたんですが、落ち込んで激しく悲観的なムードの東日本に対し、西日本ではごく日常的な話題が繰り広げられていました。例えば今日見たアニメの感想とかを、普通に投稿している。

佐藤 興味深いですね。

津田 それはそれでいいと思うんですよ。自分の身近な価値観、心地いい空間を共有し合えるって大事なことですから。

ただそれだけだと「自分の意見は社会全体からしたら少数派かもしれない」という客観的な視点がなくなってしまいますね。一般的には、現実の社会や読書経験によって自分と社会の偏差に気付くのですが。

よくネットでは「マスコミは情報操作をしている」という話題が出てくるけれど、ネットはネットで偏りがあるんです。

ロックフェラーの言葉は炎上防止の役に立つ

佐藤 それとネットを見ていて不思議に思うのは、なぜか貧乏人は罵らないんですよね。あれだけ罵詈雑言があふれているから「黙れ、この貧乏人が」という捨て台詞もあるだろうと思うんだけど、出てこない。

津田 その傾向はありますね。

佐藤 書き込む人が貧乏人かどうかはともかく、「ネットを見ている人にも貧乏人はいるんだ」という共通意識があるんでしょうか。思うままに書いているように見えて、意外と自己検閲が働いているんですよね。

ほかにも不思議な文化タブーがあるように思います。「貧乏」に限らず経済的な話ってあまりしませんよね? 「いますごく貧乏なんだ」という話も、「株でいくら儲けた」という話もあまりないような。

津田 もともと日本の文化って、金の話を嫌いますよね。金持ちが「これくらい財産あ
ります」なんていうと、まず間違いなくたたかれる。

佐藤 その話で思い出しました。余計なことかもしれないけど、これから稼ぐ若い人は、『ロックフェラー回顧録』を読まれるといいと思う。この中にロックフェラー3世が、祖父であるジョン・ロックフェラーに言われた言葉があります。

いわく、誰でも億万長者になることはできるが、その富を3代維持するのは難しい。なぜなら、大衆のやっかみによって反発に遭うか、国家権力につぶされる。あるいは両方によってつぶされるから。

津田 それは堀江さんの事件と照らし合わせると、すごく示唆的ですね。

佐藤 では3代目以降は富の維持のために何が必要かというと、ポイントはたったふたつなんです。ひとつはチャリティーをすること。大衆にお金を配れば、やっかまれずに済む。

もうひとつは、国家の役に立つこと。お金は力になりますから、資産家は当然、国家に警戒されます。納税はもちろんのこと、そのほかにもお国のためになることをいくつもしていれば、目を付けられにくいというわけですね。根本的な考え方はきっと、ネットで炎上しないコツとも近しいと思っているのですが。

津田 佐藤さんはそういったことで、何か意識的にされていることはありますか。

佐藤 私は若い人への学習支援にお金を使っています。ほとんどが大学生ですね。資格試験を受けたいけれどファミリーレストランのアルバイトが忙しくて勉強時間が十分取れないとか、ダブルスクールをしたい大学生だとか。個別に会って話を聞いて、何人かの具体的な問題を処理しています。

成果も上がってきているんですよ。公務員になったり、公認会計士になったり。

津田 そういった若者とはどこで知り合うんですか?

佐藤 私の母親が沖縄出身なので、その関係の、沖縄系ネットワークが中心です。あとは私の講演に来た人で、中学生のときにドロップアウトしてから学校に行ってないという大学受験希望者もいました。

とても頑張り屋なのでなんとかしてあげたいということで、『月刊日本』の副編集長と一緒に勉強を見たら、半年で世界史の偏差値が80くらいになった。いま同志社の神学部に進学して私の後輩になっています。

まあもともと成績がいい人のサポートは比較的簡単だけれど、そうでない人の場合は、ちょっと大変ですね。あとは家に元野良猫と元捨て猫が5匹います。全部訳ありの雑種です。

津田 雑種もかわいいですよね。うちも実家で飼ってます。

佐藤 それから友人との関係で注意をしているのは、自分が友人に勧めた本を渡すときは、お金を取らないこと。「いい本が見つかったから」といって、タダで贈る。原稿はいくつかの例外を除いてタダでは書きませんが。

津田 そうなんですね。勉強になります。

津田大介
1973年生まれ。ジャーナリスト、メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。
社会問題からメディアのあり方まで、SNSを利用し新しい情報発信を行う。
主な著書に『情報の呼吸法』(朝日出版)、『Twitter社会論』(洋泉社新書y)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)など。

佐藤優
作家、元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に上梓した『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。

2006年には『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。世界・経済情勢はもちろん、愛する猫についても語る「知の巨人」。

右肩下がりの君たちへ

著:佐藤優 1,058円

社会の恩恵を感じ難い社会構造となってる今、この閉塞状況を打破するためのヒントを佐藤優と、若き知識人たちが語り合う。

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