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特集は、中東情勢の影響で工事が止まる現場も出てきた建設業界についてです。「私たちの声は届いていないのではないか」。これはある建設業者の声です。経営を維持できるか、生活していけるのか。切実な訴えをお聞きください。

【写真でみる】「私たちの声は届いていないのか」止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声

「材料ない」止まる工事現場

5月20日、山形市内にあるアパートのリフォーム工事現場。足場が組まれたままの状態で、職人の姿はない。

本来なら間もなく工事は終わる予定だったが、2週間前に止まった。

現場責任者に話を聞くと…

池田塗研 鈴木清敬 部長
「何もできないです。こちらからは。物が来ないと何ともならない」

村瀬健介キャスター
「現場で足りないのは何ですか?」

池田塗研 鈴木清敬 部長
「仕上げの塗料。仕上げの塗料がまだ滞っていて」

村瀬健介キャスター
「色が変わっている所がありますね。これは作業の途中で止まってしまっている?」

池田塗研 鈴木清敬 部長
「止まっちゃいました。本来であれば1週間ぐらいで(塗料が)届くという算段だった。そこが急遽、出荷停止になってしまって」

外壁に使われている薄い色の仕上げ塗料が途中で無くなり、これ以上、作業が進められないという。

この現場では、仕上げに水性塗料を使っている。だが、その塗料が入手できなくなった。

原油から精製されるナフサ由来の塗料が不足した影響で、水性塗料の需要が高まったとみられる。

池田塗研 鈴木清敬 部長
「お客さんの問題とか私達の問題でなくて、本当に『材料がない』というので止まったのは初めてです。山形は冬場は雪が積もるし、今スタートして、冬前までガッチリ仕事をしなきゃいけない状況なんですけど」

アパートは2階建てで、3世帯入ることができる。すでに売り出しの準備が整っていた。

アパートの所有会社は…

西王不動産 真田正則 次長
「ある程度覚悟してたものの身近で聞こえてくると、山形にも来たかと。工事がストップするほどっていう部分では、過去にはなかったかなとは思います」

この現場の塗装を行っている「池田塗研」。職人は約60人いる。

現在、塗料不足の影響で、合わせて10か所の現場が止まっているという。

池田塗研 鈴木清敬 部長
「異常だと思いますね。これが続くと本当に怖くて、死活問題ですね」

会社には、塗料に関連した「価格改定」や「出荷停止」などの通知が相次いでいる。

池田塗研 鈴木清敬 部長
「電話じゃなくて、全部紙1枚で送られてくるだけなので。何の説明もなく、そこにうちらは合わせて、材料に関して考えていかなければいけないという事態です。何とかなりませんかね、本当…」

池田塗研の社長は、工事が終わらないことで経営にも影響が出ていると話す。

池田塗研 池田佳貴 社長
「前金をもらってないお客様、ローン組まれているお客様なんかは、完工しないと銀行から入金にならなかったりするので、キャッシュフローが結構大変な状況。東日本大震災だったりコロナの時よりも、今まで会社経営してきた中で、一番本当に最悪というか、大変な状況です」

「私たちの声届いていないのか」追いつめられる建設業者

さらに厳しい状況に置かれているのが、小規模の建設業者だ。

5月21日、池田社長のもとを訪れたのは、かつての仕事仲間、鈴木啓泰さん。いまは職人2人を抱える塗装会社を営む。

塗料不足の影響が広がる中、池田社長に仕事を求めた。

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「塗料入ってこないからね。塗装屋としては致命的だよね」

池田塗装 池田佳貴 社長
「せっかくコロナが明けてやっとという時に、こういうことになってしまって」

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「ぜひ池田さんのところの仕事を、またお願いできたらなと思って」

鈴木さんの会社でも、2つの現場が足場を組んだままの状態で止まっているという。

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「すごく苦しいです今。現場が終わらないと我々は集金できないので。2〜3か月超えると本当にやばい。もう大変なことになるなと思って」

塗装業は雪解けから暑い夏が来るまでが最盛期だ。この時期に向けて仕事を多く受注していたという。

塗料が入らないか、卸業者に問い合わせてみると…

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「サビ止めの入りとかってどうですかね?まだ変わりないですか?やっぱり変わりはないんだ。なるほど、4月の上旬に頼んだものが、いま入ってきているような状況…」

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「あったものがどんどん目減りしていって、底をつきそうな感じなので。最悪のシナリオは倒産。毎日ドキドキしながら生活、仕事をしている状況」

危機的な状況に鈴木さんは、政府に対して実態にあった支援を求めている。

TOSyOKU 鈴木啓泰 社長
「2か月間に少しでも良くなっていればいいが、完全に悪化している状態なので、私たちの声は全く届いていないんじゃないか。コロナの時のようなゼロ金利の融資であるとか、給付金とか、そういったところはちょっと考えていただきたいなと思います」

生計立てるためにフードデリバリーも…一人親方の訴え

全国に約50万人いるとされる建設業の一人親方にも大きな影響が及んでいる。

横浜市に住む工藤修司さん(61)。軽ワゴンに機材や資材を積み、現場に赴いて働く個人事業主だ。

主にマンションの屋上や、戸建て住宅の屋根の防水工事を専門としている。工藤さんの工事には、ナフサ由来の溶剤を原料とするウレタン防水材が必要だ。

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「『イラン情勢の悪化に伴う製品の価格改定、及び供給に関するお願い』という形で、我々の方にはお知らせが来ています。我々の方に満足な流通(資材が)手元に届かなくなった」

さらに防水材を希釈するのに使用するのが、ナフサ由来のシンナーだ。

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「最初に足りなくなり始めた代表格がシンナー。シンナーがないと仕事にならない。そのぐらい重要な材料。この程度だとなかなか仕事にならない。本当にこの程度の量を少しずつ使っているというのが現状」

資材が十分にないため、工藤さんは防水工事を請け負えない状況だという。

2026年2月、3月の仕事のスケジュールを見ると、2月は19日、3月は16日、防水工事が入っていたが、4月に入ると4日に激減。5月は予定も含めて6日に減っている。

このままでは生活が成り立たないと考えた工藤さん。5月21日、車から防水工事で使う機材を運び出していた。

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「(車で)1日走り続ける。それを考えると、なるべく車の中を軽くしておいて、車の負担と燃費の方にもやさしい走り方をしたい」

ーーいま、どこに向かっているのですか?

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「フードデリバリーの業務をきょう、これから開始していく。どうしても現実的に仕事がないと生活ができない。貯金などを圧迫していて、生活費が賄えない状況が発生してしまいました。生計を立てるため、食べていかなくてはなりませんから。この年になってフードデリバリーをやるとは思いませんでした」

フードデリバリーの仕事は5月から始めた。

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「いまオファーが入りました。それでオファーを受けました」

牛丼店で商品をピックアップし、向かった届け先は5階建てでエレベーターのない団地だった。

ーー何階まで行った?

防水工事“一人親方” 工藤修司さん
「5階です。足で上っているということ。なかなか大変」

配達を終えると、すぐに別のオファーが届く。

ーー疲れますか?

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「いろんな分からない場所を探していったり、精神的にも結構きついものがあって。『どこなのだろう。これ分からないよ』と10分、20分迷って右往左往したことがたくさんある。フードデリバリーの仕事は本当に大変だなと思います」

仕事開始から約10時間、日も暮れた。ライトを片手に配達先を探す。夜は建物名が見えづらく大変だという。

この日、工藤さんは朝10時から仕事を開始。終わったのは夜8時で13件配達した。1日の収入は1万751円。ガソリン代は持ち出しのため、実質1万円をきる。

防水工事“一人親方” 工藤修司さん(61)
「建築の仕事、施工してお金を稼いでいた人間。これ僕が(仕事の)腕が悪かったり、人気がなく仕事がないのであれば、僕の責任ですから納得のいく話。いまは材料が滞ってしまっているので、仕事をしたくてもできないという状況が発生している」
「これは平時の問題でしょうか。当然、死活問題です。先行き不透明な状況で、これは死活問題でなく何なのか。日本国民全員を守るのが政治の力であるなら、僕個人1人だけじゃなし、多くの日本国民がいま、ものすごく困っているということを、軽く考えてはいけないと思う」

8割超が中東情勢「影響あり」建設業界の苦境に政府は…

建設業界の苦しい状況に、政府はどう対応しているのか。高市総理は…

高市総理(21日・中東情勢に関する関係閣僚会議)
「建設・住宅資材につきましては、一人親方や工務店を含む川下の事業者の皆様が目詰まりを感じておられると認識しています」

政府は「ナフサ由来の石油製品は日本全体として必要な量は確保できている」として、現場で製品が不足しているのは「流通の過程で目詰まりが起きているため」との説明を繰り返している。

一人親方については、国交省が窓口となって、政府の側から積極的に情報収集を行う方針を新たに示した。

高市総理(21日・中東情勢に関する関係閣僚会議)
「特に情報の届きにくい一人親方に対しては、地方ごとにプッシュ型で調達・供給状況を把握する仕組みを構築し、対策を強化しています」

一人親方などを中心に、約59万人が加入する建設産業最大の労働組合「全国建設労働組合総連合」。最大の組合員数を抱える東京都連の中村隆幸執行委員は…

全建総連東京都連 中村隆幸 執行委員
「川上、川中、川下どこで詰まってるのか。目詰まりだというなら、どこが詰まっているのかはっきりさせて、流せるようにしてくれとずっと言っているにもかかわらず、それがない状況。やりますという回答がない。物が出てこない。融資の回答は『まだ調査中です』『どういう状況か情報だけ収集してます』では全く話にならない」

5月、全建総連がまとめたアンケート結果によると、回答した900を超える事業者のうち86%が中東情勢の「影響がある」とした。

特に入手困難な資材として、シンナーや塗料、屋根用の防水シートがあげられた。また、税負担の軽減や雇用を維持するための助成制度など、財政支援を求める声もあがった。

「さらなる返済無理」建設事業者は国に支援要請

5月8日、「全建総連」に加盟する団体などは、国に対し財政支援などを要請した。

建設関連の事業者
「経営が成り立たないと本当に困っているのは、中小零細事業者です。『この状況があと1か月続いたら倒産する』とはっきり言っています。生命保険を家族に残すしかないと。そこまで考えている」

建設関連の事業者
「私自身もコロナの時に借入している。それを今まだ返している状況なので、また融資を受けても今度は返し切れない」

国は、中東情勢の影響を受けている事業者には、政府系金融機関から融資を行うことは可能だとしているが…

全建総連東京都連 中村隆幸 執行委員
「これ以上借り入れて、また返さないといけないと言ったら、返せない。今は仕事がない。コロナのときの融資を受けて、それも返済が始まって、ダブルやトリプルで払っている状況の中で、更なる返済はもう無理だという声が仲間の中では多い。本当に切実な思いだと」

全建総連の要望について、取材に対し国土交通省は、価格高騰対策や資材の安定供給の確保などの要望は認識しているとしたうえで、「必要に応じて他の省庁と共有して対応していきたい」と回答。

中小企業庁は、財政支援を含めた要望について「政策を検討するうえの材料とさせていただく」と回答した。

「物価高倒産」は過去最多に

中小零細企業は、中東情勢が悪化する以前から厳しい状況におかれてきた。

帝国データバンクが2026年4月に行った調査では、物価高が原因で倒産した企業の件数、いわゆる「物価高倒産」が108件。ひと月あたり過去最多の件数となった。

帝国データバンク 情報取材課 篠塚悟 課長
「今倒産しているのは、企業規模が比較的小さい企業です。売上で5億円未満ぐらい、負債で1億円前後の事業者」

山本恵里伽キャスター
「働いている方の人数は?」

帝国データバンク 情報取材課 篠塚悟 課長
「10名未満というところ」

4月に発生した「物価高倒産」のうち最も多かった業種は建設業で、全体の3割を占め、製造業や小売業が続いた。

4月末までの時点で、中東情勢の悪化を要因とする倒産は発生していないが、長引く円安などが影響したとみられている。

帝国データバンク 情報取材課 篠塚悟 課長
「仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁できないところで、利益がとれず、資金繰りが苦しくなり、行き詰まる企業が増えている状況です」

今後、中東情勢の影響が広がることが懸念されている。

帝国データバンク 情報取材課 篠塚悟 課長
「取引構造を見ると、約4万7000社がナフサ由来の製造に関わっている」

帝国データバンクによると、ナフサに関連する企業は、主要石油化学製品メーカー52社をはじめとしてサプライチェーン全体で4万6741社にのぼる。

これは、製造業全体の約3割にあたるという。そのほとんどが、資本金1億円未満の中小企業ということも明らかになった。

帝国データバンク 情報取材課 篠塚悟 課長
「主力の事業を縮小せざるを得ない、そういう状況は出てくると思う。中には、事業を諦めざるを得ない事業者も出てくるのではないか」