【二階堂 運人】「昨日まで月収100万円、今日から無収入」も…現役タクシードライバーが明かす「3つの地獄」

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「手取りで100万円を超えました。前職の倍です」

今や友人の中でも一番の稼ぎ頭と自慢をする20代のタクシードライバーだ。SNSには、給与明細のスクリーンショットとともに、札束や高級時計の写真が躍る。かつて「失業者たちの終着駅」と揶揄されたタクシー業界は今、令和のゴールドラッシュに沸いている。都心部での深刻な車両不足と配車アプリの普及が、未経験の若手でも月収100万円を狙える「異常事態」を作り出したのだ。

前編記事はこちら→タクシーで「月収100万円」は本当に稼げるのか…現役ドライバーが明かす「1日14万円」売上の過酷すぎる条件

しかし、その熱狂の輪から一歩外れれば、暗部が広がっている。ハンドルを握りながらおにぎりを詰め込み、尿意を殺し、AIの指示に追い立てられる20時間。手に入れた大金と引き換えに、彼らは何を失っているのか。

「これは夢じゃない。命の切り売りだ」

現役ドライバーの告白から、華やかなバブルの裏側に隠された、残酷なまでの「不都合な真実」を浮き彫りにする。

稼げるドライバーを襲う「第一の地獄」:健康の崩壊

「降りた瞬間、足に電流が走ったんです。立てなかったです」

そう語るのは、転職して半年で月収100万円を達成した40代の新人ドライバーだ。翌朝、彼を襲ったのは激痛。診断は深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群だった。

長時間の座りっぱなし。慢性的な水分不足。トイレに行く時間すら削る働き方。それらが積み重なり、「稼ぐ身体」は静かに壊れていく。さらに深刻なのは睡眠だ。隔日勤務という名の長時間拘束は、実質的に昼夜逆転を強いる。帰宅後すぐに眠れず、短時間の睡眠で再びハンドルを握る。

「常に頭がぼーっとしている。信号を見落としそうになる瞬間がある」

このような体験は、決して稀なことではない。多くのドライバーが経験することだ。自律神経は乱れ、慢性的な倦怠感と頭痛に悩まされる日々。それでも彼らは休まない。いや休めない。休めば、その分だけ売上が落ちるからだ。

『稼いだ金が、整体代ならまだいいが、病院代や薬代で消えていく……』

本末転倒という言葉では足りない現実が、そこにはある。

稼げるドライバーを襲う「第二の地獄」:プライドの磨耗

深夜の六本木、歌舞伎町。高額運賃を払う客の中には、『客=神様』を盾に、人格を踏みにじる者も少なくない。「理不尽なルート指示」、「意味不明なクレーム」、そして、「酒に酔った暴言」。彼らはサンドバッグだ。反撃すれば、自分の首を絞めることになる。それでもドライバーは笑うしかない。売上のために……。

多く稼ぐにはこのような繁華街を攻めていかなければならない。リスクも倍増する。こうやって、ドライバーのプライドは削れ、やがて感情そのものが摩耗していくのだ。

稼げるドライバーを襲う第三の地獄:「免許証」という全財産の喪失

「一瞬でした。本当に……明日からどうやって生活していこうかと」

売上を追うあまり、無理な車線変更を繰り返した30代ドライバー。結果は、累積点数による免許停止。その瞬間、彼の収入はゼロになった。タクシーの仕事は、当たり前の話だが、運転免許がないと仕事ができない。事故違反は、タクシー生命だけではなく、今後の生活の命とりとなりかねないのだ。

「ほんの一瞬の出来事が、すべてを失う」

しかし、ドライバーがもがき苦しんでいても、タクシー会社は、いたって冷静だ。

「事故・違反は自己責任です」

運転免許がなかったら、会社は、ドライバーを守りたくても守ることができない。タクシーの仕事は、保障も猶予もないのだ。

「昨日まで月収100万円。今日から無収入」

この落差こそが、タクシーバブルの最大のリスクだ。すべては「免許証一枚」に依存している。

パパは「月収100万の幽霊」になった

「なんのために働いてるんだろうなって、思うんです」

そう漏らしたのは、小学生の子どもを持つドライバーだ。教育費を稼ぐために始めた仕事。

しかし現実は、家族と顔を合わせる時間すらない。帰宅は深夜、出発は早朝。子どもは寝ており、もちろん会話はなく、寝顔を見るだけだ。食事は、コンビニか車内。ある夜、彼は営業中にカップ麺をすすりながら気づいたという。

「俺、家族と一緒に飯食ったの、いつだっけ」

妻との関係も変わった。会話は減り、やがて必要最低限になる。

「お金入れてくれればいいから」と勝手に思い込むようになり、自分の役割が『ATM』になったと悟ったという。銀行口座の残高は増えていく。だが、家庭での居場所は静かに消えていく。

「たくさん稼いで、家族にいい思いをさせたいのですが……そこまで家族がもたないかもしれないですね」

月収100万円を続ける代償は、あまりにも大きい。

それでもあなたはハンドルを握り続けるのか

タクシーバブルは確かに実在する。努力と根性次第で、未経験からでも高収入に手が届く数少ない仕事だ。だが、その裏側には、健康の崩壊・精神の摩耗・一発退場のリスク・家庭の喪失という、あまりにも重い代償が横たわっている。

「夢の仕事」か、「命の切り売り」か。

その答えは、ドライバ一人ひとりの中にしかない。ただ一つ言えるのは、この仕事は、「楽して稼げる世界」では決してないということだ。

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