ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

写真拡大

守備で手にした日本シリーズMVP、「甲斐キャノン」の“誕生秘話”

 文句なしのMVP受賞だった。ソフトバンクの甲斐拓也捕手が、日本シリーズ史上初となる育成選手出身で、シリーズ最高殊勲選手に輝いた。第1戦から2年連続日本一が決まった3日の第6戦まで、驚異の6連続盗塁阻止。広島が武器とする機動力を完璧に封じ込め、チームを2年連続の頂点に導いた。

 第1戦の9回に代走・上本が仕掛けた盗塁を阻止すると、そこから刺し続けた。第2戦は鈴木、第3戦では田中、そして第4戦では安部。第6戦では初回に田中の盗塁を阻止し、2回には安部も刺して6連続盗塁阻止。日本シリーズ新記録を樹立した。シリーズでの打撃成績は14打数2安打で打率.143。シリーズMVP獲得者の中で最少安打、最低打率と、まさに守備で手にした栄冠だった。

 歓喜の胴上げ後に、MVPとしてインタビューを受けた甲斐は「機動力は使ってくると準備していた結果です。自分1人の力だけでは取れなかった。監督やコーチの力もありますし、投手の力もあってのことなので、感謝したいと思います」と語り、宿舎に戻った後の会見では「まだまだ力不足なところはたくさんある。もっともっと勉強して投手をリードできるように力をつけていきたいです」と言った。謙虚で、かつ貪欲。これが育成選手から這い上がってきた男の真骨頂である。

“甲斐キャノン”。この日本シリーズの活躍で、一躍脚光を浴び、すっかり全国区となったが、いつから、そう呼ぶようになったのだろうか。記憶と過去の記事を遡ってみると、2017年6月28日に初めて“甲斐キャノン”のフレーズを記した。甲斐のスローイングを安定させる“一工夫”に迫ったのだが、その時に初めて“甲斐キャノン”と使った。

人気漫画「機動戦士ガンダム」の「カイ・シデン」から…

 もともと、ソフトバンクの球団関係者や報道陣、ファンの間で甲斐の強肩ぶりは有名だった。出場機会を掴み始めた2017年シーズン序盤には、一時は盗塁阻止率7割超という驚異的な数字を叩き出していた。その時には、まだ“キャノン砲”という表現を使っていたが、メディアの中でも“甲斐バズーカ”や、ただ単純に“強肩”とされていた。

 ただ、何かスッキリしない。もっと“キャッチー”な愛称はないだろうか、と考えた。その時に、ふと頭に浮かんだのが、人気漫画「機動戦士ガンダム」。巷で言われるように、あまりに安直なのだが、その中で登場するキャラクター「カイ・シデン」から着想を得た。

 カイ・シデンが主に乗っていたモビルスーツが「ガンキャノン」。ここから「甲斐拓也のキャノン砲=甲斐キャノン」とした。その後は何度もこの“甲斐キャノン”を用いた。全くもって広まっていかなかったものの、今季4月からは、ヤフオクドームでスタジアム演出も行われるようになった。ホークスファンには浸透していたとはいえ、日本シリーズでの甲斐の圧巻の活躍がなければ、これほどまで認知されることはなかっただろう。

 甲斐は11月に日米野球を戦う野球日本代表「侍ジャパン」のメンバーにも選ばれている。甲斐の魅力はこの“甲斐キャノン”だけにあらず。ショートバウンドを止める技術は一級品であり、リード面も格段に向上している。打撃にも一発長打のパンチ力を秘め、なにより、いつもひたむきだ。侍ジャパンでも、そして来季以降も、そんな甲斐に注目してほしい。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)