興梠慎三(左)が一言アドバイスを送った直後、矢島慎也(右)が痺れるスルーパスを放つ。写真:佐藤明、サッカーダイジェスト

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[ACL 準々決勝] 浦和 4-1 川崎/9月13日/埼玉
※2戦合計5-4で、浦和がベスト4進出
 
 19分、川崎フロンターレに先制点を奪われた時には肩を落とした。延長に持ち込むには、あと3点、逆転するには4点が必要という厳しい状況に追い込まれた。
 
 それでも1点返せばきっと何かが起きるはずだと希望だけは捨てていなかった。浦和レッズの最前線に立つ興梠慎三は、とにかく身体を張るからタイミングよくパスを入れてほしいと周りに要求。しかし、横パスやバックパスの目立つ“あの”選手に一言強く伝えた。
 
「とりあえず、前を向け!」
 
 4-1-4-1のセンターハーフで先発した矢島慎也に対してだった。
 
「アイツにはこれまでもずっと要求してきた。バックパスや横パスが多くなっていたけど、前を向いてこそ生きる。だから、この試合中に、『とりあえず、前を向け!』と言ったら、その直後のプレーで、ゴールが生まれた」
 
 35分、左サイドでボールを受けた矢島が前方をルックアップ。すかさず川崎の背後のスペースに抜け出した興梠の動きを察知しスルーパスが放たれる。興梠は冷静にGKチョン・ソンリョンのポジションを感知し、冷静にシュートを流し込む。
 
「言ってみるもんだね(笑)」。興梠は嬉しそうに振り返った。
 
 これで、この試合のスコアは1-1。そして、その直後に興梠の顔面を蹴ったとして車屋紳太郎がレッドカードで退場処分に追いやられた。
 
「(先制点を奪われた時は)折れそうだった心が、1点返して復活して、あの退場劇でさらに復活できた」
 
 興梠から矢島へのアドバイスが、今回の浦和の大逆転劇の『出発点』になった。その一言がなかったら、もしかすると、その後の退場劇や選手交代などを含め、試合展開は変わっていたかもしれない。
 
 前を向け――。そのメッセージは、矢島だけに止まらず、浦和のチームメイト全員に伝播。そして9月13日の夜、4ゴールを奪う伝説が生まれた。
 
取材・文:塚越 始

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