写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●男性議員の育休に批判が出る「窮屈な国」
NPO法人ファザーリングジャパンは1月18日、「どうなる? 議員の育休〜永田町が変われば、日本の子育て・WLBが変わる〜」と題した緊急フォーラムを東京都・日本橋にて開催した。フォーラムには、育休の取得を宣言している自民党・宮崎謙介衆議院議員をはじめとして、過去に男性として育休を取得してきた成澤廣修・文京区長、青野慶久・サイボウズ代表取締役社長らが出席。国会議員の育休取得が社会にどのような変化をもたらすのかについて議論を交わした。

○目立つ人が育休を取得すれば空気が変わる

「少子化が進んで、女性の社会進出も進む中で、男性の育児参加をやっていかなくてはいけない。私が目指すものは、日本の風土を変えること、雰囲気を変えること、制度を充実させていきたいということ」。

冒頭の宮崎議員のあいさつを皮切りに、この日開かれた緊急フォーラムは始まった。「国会議員の育休の是非を問う会ではない」という今回のフォーラムでは、参加者が、宮崎議員の育休取得宣言とその反響から読み取れる社会の現状や課題について語った。

司会者からはじめに意見を求められたのは、2010年に育児休業を2週間取得した経験を持つ成澤廣修・文京区長だ。成澤氏は「育休の取得を宣言したとき、"男は外で仕事、女は家を守るべき"と批判されたことがあり、性別役割分担意識がまだこの国に根付いているのかと思った。宮崎さんの問題提起については大賛成で、子どもとママにしっかり向き合ってほしい」とエールをおくった。

一方で、「大事なのは、男性議員の育休を制度化することが目的ではなくて、働き方の見直しをしっかりやって、どうしたら男性も女性も家事に取り組むことができるのか議論をすること」とも提言。子育てしやすい柔軟な働き方を考えることが大事だと訴えた。

また、これまでに3度の育休を取得しているサイボウズの青野慶久・代表取締役社長は「目立つ人が育休を取得すれば空気が変わる」と自らの経験をもとに、宮崎議員の育休取得宣言を評価。「3人目の子どもがうまれた去年、半年間16時退社をしていた。社長が最初に帰宅するので、時短で働いている社員も元気良く退社できる。この会社では子育てをしてもいいんだという空気ができる」とその効果を語った。

○女性はずっと直面してきた問題だ

会場では、野党である民主党の議員も議論に加わった。選挙で落選し、浪人中に育児を経験したという民主党の寺田学衆議院議員は、「宮崎さんが育休を取りたいと言ったことに国会内や世の中から批判が来るのをみて、窮屈な国だなと思った。その根底に何があるのかと思うと、育児に対する社会的な地位がものすごく低くて、男性が取りたいなんていうと、そんなの女性にやらしとけばいいだろうっていう全体の空気があると思う」と分析。

その上で「1カ月どっぷり育児に専念してほしいし、歳費は堂々ともらってほしいと思う。歳費をもらわなかったら、育休を取ることに対する後ろめたさの現れになってしまう」と主張した。

これらの男性の意見を受けて、女性の立場から発言したのが経済ジャーナリストの治部れんげ氏だ。「日本はこれから人口を増やしたいんでしょ? 子どもを育てることが大事なことだと認められるべき。国会議員という大事な仕事より、自分の子どもの方が大事に決まっている。こんな簡単なことを議論しなければいけないということに腹が立った」と憤りをぶつけた。

そして、「女性はずっと直面してきた問題だ。私より少し上の世代は、産むか仕事かの選択を迫られた。仕事を辞めるか、マタハラにあうか、子どもを産まない、家族を持たないという選択をしてきた。その立場に今、男性がさらされるようになってきた。だから男性にがんばっていただきたい。絶対に育休を取ってください」と訴えた。

さらに、病児保育サービスなどを運営しているNPO法人フローレンスの駒崎弘樹・代表理事は、「試されているのは宮崎議員だけじゃない。ここで、宮崎議員の苦闘を高みの見物をして面白いねと笑っているだけでは社会はアップデートされない。男性も子育てに参加し、社会で子どもを育むことができる未来がほしいんだということを高らかに言っていきたい」と、この出来事を人ごととして捉えるのではなく、当事者意識を持ってほしいと語った。

●議論を受けた宮崎議員の決意とは
○育休取得は乗り越えられるリスク

議論の中では、男性議員の育休取得に対するバッシングについて、登壇者から多くの意見が寄せられた。

経営者としての目線でサイボウズの青野氏は、「今回の問題について批判している経営者がいるが、勘のいい経営者は(育休に理解を示す)方針転換をしている。子育て環境を整備することで人を採用しないと、事業を縮小しないといけないって気づいている。これからは頭の切り替えられなかった会社が沈没していくのをみていくことになると思う。だから今育休を取得することは、乗り越えられるリスクであると確信しています」と理解を示した。

またNPO法人マタハラネットの小酒部さやか・代表理事は、「マタハラの被害者として顔や名前を出したときもすごいバッシングがあった。しかしそれ以上に応援メールも届いたし、無言の賛同がたくさんある。黙っているけれど心の中で賛同している人がたくさんいると思うので、バッシングをばねにがんばってほしい」と励ました。

同じ衆議院議員である寺田氏は本質的な国会議員の仕事について意見を述べ、「国会議員はそれぞれが抱えた問題意識を解決することが求められていると思う。宮崎さんが育休をとって、育児のつらさや当事者意識を持って、制度を考えていこうと進めていくのが本質的な議員の役割だ」と訴えた。

○育休取得は働き方改革の中の1つ

最終的に、育休取得の議論は「子育てをしやすい働き方を考えるべき」という方向へと移っていった。少子化ジャーナリストの白河桃子氏は「日本は進撃の巨人の世界のように、3つの壁に囲まれている。性別役割分業、長時間労働、仕事こそが一番尊いという3つがあって、その中で窒息しそうになっている」と指摘。

成澤文京区長は「東京都の認証保育所は13時間以上保育。そういう子育てを日本は引き続き求めていくのか。延長保育や早朝保育を使わなければ、結果的に可処分所得も増える。子育てにとって幸せな社会になるように、働き方の見直しが必要だ」と訴えた。

これらの議論を受けて、駒崎氏は「男性の育休は、働き方改革のコンテクストの中の1つ。多様な働き方ができる社会を考える上で育休がある。時代時代に合わせた働き方をデザインしていくという発想がすごく必要だし、あるべき働き方は何なのかっていう議論につなげていきたい」と話をまとめた。

最後に「育休を取得すると宣言したという中で、知らないこともいっぱいあった。多くの方からいろんな意見をもらい、重たい議席を預かっているということを再確認しつつ、どんな仕事をしなければいけないのかっていうことはしっかり考えてやっていきたい。皆さんと共に日本の未来につながることをやりたい」と話した宮崎議員。今回の問題が1つの騒動として終わるのではなく、子育てしやすい環境づくりにつながる機会になることを切に願う。

(横山茉紀)