『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』©2025 Paramount Pictures.

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 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)が、5月30日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で放送される。

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 『ミッション:インポッシブル』といえば、まだスマホが存在しない1996年に第1作が公開されてから、四半世紀以上続いている人気アクションシリーズ。現在公開中の第8作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』まで、イーサン・ハント(トム・クルーズ)をはじめとするIMFのメンバーたちは、無数のスパイガジェットを駆使して達成不可能と思われる任務をクリアしてきた。ハイテク機器が次々に登場するが、リアリティのある演出もあり、現実に存在する最新ガジェット、もしくは近未来の技術だと思わず感じてしまう。しかし、なかには近い未来で実現可能どころか、現実離れした設定も混じっている。一歩先の科学技術のなかに大胆に混ぜ入れられたシリーズ内で最もトンデモな「魔術」とは何か、解説していきたい。

シリーズ中、最もトンデモな科学設定は? 『ミッション:インポッシブル』シリーズには近未来技術が次々に投入されている。分かりやすい一例が、2011年12月公開の第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に登場したBMW「i8」だ。i8は同年のモーターショーにコンセプトカーが出品されたばかりのPHEV(プラグインハイブリッド車)で、予約開始は2013年。約2年、未来を先取りしていた。

 映画内のi8は運転するイーサンがうっかり人を轢きそうになると歩行者検知システムが作動して事故を防ぐ。これは作品から10年以上経った今では市販車に搭載されている技術である。このように正確に考証された近未来技術をガジェットとして取り込み、スタイリッシュに表現しているのが同シリーズの特徴のひとつだ。

 このような近未来技術群のなかにシリーズ最大のトンデモ科学設定……魔術が紛れ込んでいる。候補は2つ。しかも、どちらもシリーズの代名詞ともいえる技術だからたまらない。

 1つ目は、ベリベリとマスクを剥がすシーンが印象的な、化けている本人がバラすまで誰にも見破られることのない「完璧な変装システム」。短時間で本人と同一レベルの変装マスクを作成し、超小型のウェアラブル型ボイスチェンジャーなどと併用することで、ターゲットとする他人に完全になりすます技術だ。2つ目は、どんな形態であっても「この指令は5秒で消滅する」と宣言して完全消滅する「指令システム」である。

元CIA工作員は実現済と証言しているが…… 完璧な変装システムはテレビ版からずっと『ミッション:インポッシブル』シリーズの代名詞といえる伝統芸。イーサンが化けるだけでなく、IMFメンバーや敵までもが活用する最重要技術だが、実際に可能なのか?

 ここに興味深い論文がある。アメリカ科学振興協会(AAAS)の論文サイト『Science Advances』に2025年2月に掲載された「化学流体皮膚」に関する論文だ(※1)。この論文では、人間のカモフラージュや表情表現を可能にする技術を開発したと報告されている。カメレオンの色変化やフグの変形など自然界の生物からインスパイアされており、『X-MEN:アポカリプス』(2016年)のミスティークにも言及しているのが面白い。ご存知のようにミスティークは自分の姿を自由自在に変えられるミュータントだが、イーサンの変装も負けず劣らずである。

 実証実験では顔認識システムで87%の類似度を達成したそうだが、専門的な機器や近距離での観察では見破られる可能性が高く、実用化に向けて、さらなる研究と開発が必要と結論づけられている。完璧な擬態はまだ実現していないようだ。

 しかし、元CIA変装長官のジョナ・メンデスは「変装マスク技術はフィクションではなく、制約はあるが現実に存在する」と、CBS NEWSで発言している。(※2)

 ちなみに、ジョナ・メンデスの夫は、実話を映画化した『アルゴ』(2012年)でベン・アフレックが演じたスパイのトニー・メンデスだ。夫妻で国際スパイ博物館の理事を務めている。

 着目したいのは、『ミッション:インポッシブル』の完璧変装システムは「ターゲットとする特定の人物(別人)に変身して、完全になりきる技術」だが、CIAの変装技術は「自分だと分からないようにカモフラージュして、監視や追跡を回避するための技術」であって、「なりきり変装」をするためのものではないことだ。つまり、変装技術は現実に存在するが、それをトンデモレベル、言い換えるとエンタメレベルにまで拡張している点で異なっている。

 この違いを示しているようなシーンがある。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でイーサンとベンジー(サイモン・ペッグ)がロシア人将校に変装する場面だ。イーサンの見た目はトム・クルーズに似た雰囲気のロシア人に見える。ベンジーが「フル・マスクをつけたかった」と発言していることから完璧変装システムが使われていないことは明らかで、イーサンが変装を解除するシーンで、お馴染みのフルフェイスのマスクではなく、顔の上に貼り付けられた薄い皮膚のような(まるでパックのような)マスクとヒゲを外すことでも確認できる。これが現実に近い変装技術ということではないかと思う。

 さらに、なりすましに重要なリアルタイムの音声変換は、マスクより難易度が高そうだ。すでに生成AIを悪用したディープフェイクによる音声が詐欺犯罪などに使われているが、まだ機器は超小型化されていない。スピーカーなどを使用すれば不自然さから即座に変装が見破られてしまうだろう。さらに映画ではマスクを取る直前まで身長や体型までコピーしているように見えるが、これも現実的ではない。

 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)にも印象深いシーンがある。パリに向かう飛行機内で、イーサンがオーガスト・ウォーカー(ヘンリー・カヴィル)に、ターゲットに変装する手順を小型マスク製造機などで説明する。それをウォーカーは「粗末な手品だ」と鼻で笑うのだ。本来の意味とは違うだろうが、まるで、この変装システムが現実には存在しないと観客に伝えているようで意味深に感じられる。

5秒でメッセージ完全消滅は物理法則に反する また、5秒後で完全消滅する指令システムは短時間でメッセージを伝えた物自体が消失してしまうなど、まるで物理学の質量保存の法則を無視しているかのような一面があり、実現は困難だと考えられる。消滅させることだけを考えるなら、「すぐに溶ける紙に記す」、「ウェハース等々に記して食べて消滅させる」などでも可能だが、秘匿性が低いし、スタイリッシュではない。

 メッセージを消すことだけを考えると、中央大学理工学部の竹内健教授のグループが開発に成功した「忘れられる権利」を実現するメモリシステムがある(※3)。データの寿命を設定することで、指定した時点で自動的にデータが壊れるシステムで、デバイスが再利用できる点に特徴がある。メッセージは消えても、映画のように媒体が消えてなくなることはないため、5秒後の完全消滅は難しそうだ。

 しかし、最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』に登場する、USBと思われるメモリ媒体では事情が異なっている。記録されたメッセージが再生されると、メモリ媒体は焦げて残り、記録部分だけが煙を出して消失するのである。上記の中央大学理工学部の技術もあるし、これなら実現可能な気がする。

 一方、アメリカでは国防省の特別機関DARPAが軍用デバイスの自己破壊システムを研究中だと報じられているが、実用化には至っていないようだ。これを報じたCBS NEWSによると、使い捨ての電子機器が環境に無害な物質に分解されるか、人体に吸収される可能性があるという(※4)。この方法では、媒体が分解されるまで、相当の時間がかかることが予想できるため、5秒で消滅するのは無理に思える。

 こちらも完璧変装システムと状況は似ている。研究・開発中の技術は現実に存在するが、それが映画内でエンタメレベルに拡張されているのだ。

 このように見てくると、『ミッション:インポッシブル』シリーズは近未来技術をトンデモレベルまで拡張したスパイガジェット群を巧みに用いることで、現実とフィクションの境界を操り、観客を魅了してきたことが分かる。これこそが本シリーズ最大の「魔術」かもしれない。

参照※1. https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adq6141※2. https://www.cbsnews.com/news/former-cia-disguise-chief-the-mission-impossible-the-final-reckoning-gadget/※3. https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2015/06/517/※4. https://www.cbsnews.com/news/military-wants-mission-impossible-self-destructing-devices/(文=矢大ボーン)