『ガルクラ』なぜ反骨精神溢れる傑作に? 花田十輝に聞く、キャラを立たせる脚本術
この春、大きな注目を集めたオリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』は、反骨精神を体現するような異色の主人公で話題となり、イラストルックのCGによる多彩な日常芝居と迫力の演奏シーンは、日本アニメに新たな新風を吹き込んだ。
参考:『ガルクラ』『響け!ユーフォニアム』花田十輝が無双 2024年春アニメ総括&夏アニメ展望
リアルサウンド映画部では、シリーズ構成と全話の脚本を担当した花田十輝にインタビュー。大胆不敵なガールズバンドアニメがどのようにしてに生まれたのか、話を聞いた。
■『ガルクラ』が反骨精神旺盛な理由
ーー本作の企画は音楽ものであることは先に決まっていて、上京ものとバンドものにするアイデアは花田さんが出されたそうですね。
花田十輝(以下、花田):そうですね。アイドルの音楽ものはたくさん書いたので、今までやっていないバンドものを提案しました。上京ものに関しては以前から書きたいと思っていて、町や新居、人との出会いを描く始まりの物語をやりやすいので、この機会にやらせてもらえればという感じでした。
ーー『ガルクラ』は反骨精神のある物語ですが、これはどなたのアイデアなんですか?
花田:どちらかというと僕がそうしたいと言った感じですが、バンドものって本来、こんな感じだと思うんです。『BECK』とか『日々ロック』とかもそうでしたよね。そういう気持ちで第1話のシナリオを書いたら意外と驚かれて、それは昨今のガールズバンドアニメがそうじゃないからでしょうけど、普通に僕がイメージするバンドものを書いたらこうなったんです。
ーー花田さんの音楽観も反映されているのでしょうか?
花田:それはあるかもしれないです。パンクが好きですし、世代的にTHE BLUE HEARTSが直撃でいっぱい聴いていましたから。
ーー第1話で中指を立てる描写が大きな話題になりました。あれは特に反対されなかったんですか?
花田:最初の1話だけで2話から小指に変えるので許してください、なんならコンテで上手い具合に隠してもらっても構わないんで、と言って書きました。
ーーあれは本作の方向性を決定づけるような描写なので削れないという判断ですか?
花田:削れなかったです。酒井監督と前回一緒に作ったのが『ラブライブ!サンシャイン!!』だったので、それとは違うものだと1話で強めに出すべきだと思っていました。その他、桃香の同居人が男性だというのも、これは男が一人も出てこないタイプの作品ではないよというのを見せようと思ったからです。
■トゲアリトゲナシは家族のよう?
ーー主要キャラクターについて一人ずつお伺いします。主人公の井芹仁菜(CV:理名)は、いわゆる美少女アニメの主人公としては珍しいですね。
花田:最初は、もうちょっと引っ込み思案でみんなに好かれるタイプとして書こうと思っていたんですけど。
ーー全然言うこと聞かないキャラになってしまった?
花田:言うこと聞かなかったですね。こういう過去とシチュエーションで上京してきたと設定を作り始めると、「これはそんなに物分かりがよくないな」と思い始めて、書いていくうちにあんな感じになったんです。書きながら、「これは反発されるんじゃないか」と思ったんですけど、みんなに愛される子にしちゃうと軸が定まらないんですよね。その意味ではみなさんの心の広さに助けられたし、手島nariさんのキャラクターデザインが素晴らしかったおかげですね。
ーー桃香(CV:夕莉)は猪突猛進な仁菜と対立するキャラクターでした。
花田:桃香は、現実の壁を知り、情熱と理想だけでは思い通りにいかないことを経験してしまっています。本編中でも言っていますが、仁菜を昔の自分に重ねて、昔の自分に追い詰められていくというイメージでした。なので、情熱はあるけれど、臆病になっているという感じを意識しています。
ーーこれから飛び込む若者と、経験を積んで現実を知った人の対比が物語を推進していくわけですね。
花田:これは学校の部活の話ではなく、社会と接点を持つ物語なので、見ず知らずの大人が出てくるより、社会の壁を一度経験した先輩という描き方の方が良いかなと思ったんです。
ーーでは、すばる(CV:美怜)についてはどうでしょうか?
花田:すばるは、仁菜と桃香の間に入る子なので、不器用な2人に対してある種の器用さを持たせています。でも、それだけでは面白くないから、彼女なりに抱えているものがあるという感じで作りました。
ーーキャラクターの配置を考える時、物語を転がしやすくするようなバランスで配置を考えますか? それともキャラクターを先に固めますか?
花田:もちろんどちらも大切にはしているのですが、どちらかと言うと、前者の方が強いかもしれないです。でも、バランスで作るだけだと都合が良すぎてしまうので、方向性を決めてからキャラクターを作り込む感じですね。すばるで言えば、「嘘つきで器用な裏にはおばあさんとの葛藤がある」というのは後から考えました。
ーーでは、智(CV:凪都)はどうですか?
花田:智は、仁菜よりさらに心の殻が固い子がいた方がいいと思って書きました。バランスの話とも重なりますが、主人公の殻が一番固いとみんなで主人公をケアする話になりがちで、サークルの姫みたいになっちゃうんです。だから、主人公以外にこの子にケアが必要だよね、というキャラを置いています。
ーー智はなかなか重たい過去でしたね。
花田:学校に通わず上京しているのはどんな状態だろうって、自分の中にはありました。裏設定ですけど、彼女は一応、親から預金通帳は預かっていて、極貧ではないです。ただ、捨てられているに近い状態。要するに、通帳のお金で何とかしろと言われている状態です。
ーーミックスルーツのルパ(CV:朱李)を登場させたのは、川崎には外国人も多く住んでいるというのも関係していますか?
花田:それもあると思いますが、今の物語をやるなら、5人集まればミックスルーツの子がいるのは自然な時代だと思います。僕らが小学校時代には珍しかったですけど、今は学校のクラスにも普通にいますからね。
ーールパは、5人の中で一番しっかりものという立場ですね。
花田:そうですね。あの5人は揃うと家族みたいな感じで、桃香がお父さん、ルパがお母さんなのでああいう感じなんです。すばるは長女で仁菜がその下の長男、一番下が智ですね。お父さんと長男がいつも取っ組み合いの喧嘩してる家族なんですよ。ルパに関しては、自分の傷のことを理解して自立しているし、周囲がその傷を理解できない、自分も他人の深い傷を理解できると思っていないんですけど、だからこそ、お互い一緒にいられる、そういうキャラクターであってほしいと思っていました。なので、視聴者にもあまり開示しないでおこうという意識もありました。
ーールパ単独のエピソードはなかったですね。
花田:最初は1本入れるつもりで書いていたんですけど、結局仁菜にたくさん使ってしまい、書けなかったんです。でも、逆転の発想で、よりミステリアスに、断片的にして奥行きを持たせようと無理にエピソード入れるのはやめておきました。
■リアルな川崎を感じてほしいとみんなでこだわった
ーー本作は川崎を主舞台にしています。川崎のリサーチはどうされたのですか?
花田:ロケハンは監督たちと随分しました。川崎はほとんど降りたことがなかったんですけど、いい感じに地方感があってすごく愛着が湧きやすいし、住んでいるイメージがしやすい場所でしたね。
ーー生活感のある描写が多かったですね。
花田:そうですね。その前の『ラブライブ!スーパースター!!』が表参道で、いくらロケハンしても住んでいるイメージが作りにくかったのと比べると、川崎はイメージしやすかったですね。表参道にも住んでいる人はいますけど、やはり住むというより、遊びにいく場所。というイメージが強いので。
ーーロックを描くから川崎というわけではないんですか?
花田:平山(理志)さんはどう考えていたかわかりませんが、僕は川崎を提案された時、ライブハウスのクラブチッタとかあるし、全然問題ないと思いました。
ーー実際、クラブチッタなどが実名で登場しますが、脚本段階からリアルな場所を出していく方針でしたか?
花田:リアルな町を感じてほしいとみんながこだわって、平山さんたちが交渉をがんばってくれたおかげですね。これはオリジナルアニメの「あるある」ですけど、ロケハンしている時に同じ場所を見ているので、打ち合わせの時に「あの場所です」と言えばイメージが共有しやすいんです。
ーーリアルな場所で言うと、吉野家も出てきますが、あれがよくあるカフェのチェーン店では作品のカラーに合わないわけですよね。
花田:女の子がよく行く定番とは違うところがいいだろうと思っていました。牛丼屋にしたのは舞台が川崎に決まる前だったと思います。ロケハンの時にこの牛丼屋さんに許可がとれるか確認しようとか、そういう話をした覚えがありますので。作品とキャラクターの方向性を考えるとおしゃれなカフェより牛丼屋のような場所がいいよねと。桃香に「並とビール」と言わせたかったのもあります(笑)
■花田十輝が全話脚本を書く理由ーー本作は原作のないオリジナル作品です。原作ものとオリジナル、それぞれの大変さや面白さはどんなところにありますか?
花田:その2つは全然違いますね。原作ものはテーマや伝えたいことなどを原作者から話を聞いたり、原作を読んでくみ取って、それをアニメで表現していく作業になります。オリジナルは、やはりイチから作れる自由度がある分、話作りの建付けからやらないといけないので、かなり異なる作業ですね。
ーーオリジナルの方が作り手の資質が問われやすいでしょうか?
花田:好き嫌いは当然出やすいですね。何より、思っていないことは書けないですし。極端な話、原作ものは自分と考えが正反対であっても、書けるんです。言ってしまえばディベートのお題を渡されるようなものなので、このお題をどう説得力を持って伝えればいいかという作業になるので。でも、オリジナルはそうはいかないというか。そういう意味では個人の色は出やすいですね。
ーーあと、花田さんは近年、シリーズ構成だけでなく全話の脚本を自ら書かれていますけど、何か理由があるのですか?
花田:昔からなんですが、後になってやっぱりこうじゃなかったとひっくり返してしまうことが多いからです。書いていくうちにどうしてもキャラクターが膨らんできて、他のライターさんに変更の指示出すのもお互いにストレスなので、自分で書いちゃうんです。
ーーそうなると執筆量がすごいことになりますよね。
花田:そう言われるんですけど、他のライターさんの個性を引き出し、いいシナリオを書いてもらう作業というのもとても時間がかかり、大変な作業なので、かかる時間はあまり変わらないです。自分が書いている時間は確かに増えちゃうんですけど。
ーーそれは筆が早くないとできないですよね。最近、花田さんの名前をやたらと見かけますけど、全ての作品で全話書いていますよね。
花田:それは、ここ数年、書いていたものがたまたま今年全部放送になっただけ、という理由です。書くのが早いというか、「まず書いてみますので、それからみんなで考えませんか」とはよく言いますね。僕はどうせいくら考えても頭の中で出来上がらないので、とりあえず忘れないうちに紙に記録して、それから考えるタイプ。なので直しは何度も重ねます。本作でも例えば10話は決定になるまで15稿まで修正していますね。(文=杉本穂高)
