2018年12月、ニュージーランドを訪問し、ジャシンダ・アーダーン首相と握手する韓国の文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)


 次期大統領の有力候補だった朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長のセクハラ疑惑と自殺事件が国民に大きな衝撃を与えている韓国で、3年前に韓国の外交官が犯したセクハラ事件が外交問題にまで発展している。

 7月28日、韓国の大統領府は、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領とジャシンダ・アーダーン・ニュージーランド首相との電話会談が行われたと発表した。大統領府によると、この日の主な議題はWTO事務総長選挙とコロナへの対応に関する両国間の協力事項だった。文大統領はアーダーン首相にWTO事務総長に出馬した柳明桓(ユ・ミョンヒ)氏に対する支持を要請し、アーダーン首相は「貿易を重視する国であるニュージーランドはWTO事務総長選出に関心が高い」、「柳氏が非常に優れた資質を備えたと聞いており、関心を持って見守っている」と答えた。コロナ・ワクチン開発および生産、公正な供給などコロナ対応にも協力することも論議されたそうだ。大統領府は、全体的にアーダーン首相の発言は「徳談(幸運と成功を祈る話)ばかりだった」と自評した。

 しかし、実はこの日の電話会談は、「徳談ばかり」とは言い難い、“深刻な”議題が含まれていた。3年前、駐ニュージーランド韓国大使館で発生した韓国外交官のセクハラ事件について、ニュージーランド側から問題提起があったのだ。韓国の大統領府では「両首脳が韓国外交官のセクハラ疑惑についても意見を交わした」と簡単に言及しただけだったが、ニュージーランドの現地メディアはこの問題について特筆大書し、韓国政府の非協力的な態度を非難する事態となった。

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現地の男性職員にセクハラ

 2017年12月、駐ニュージーランド韓国大使館に勤務するニュージーランド人男性が、A公使参事官からセクハラを受けたと問題を提起した。A氏が尻や胸などに不適切に接触してきたという内容だった。被害者はA氏に問題を提起したが、その後も大使館のエレベーターの中でA氏に股間などを触られたと主張した。

 韓国外交部によると、A氏は接触した事実は認めながらもセクハラの意図はなかった、と否認したという。だが、韓国外交部はA氏を2018年2月にフィリピン大使館に異動させた。

 その後、2018年10月に外交部がニュージーランド大使館に対する定期監査を行った際、被害者がA氏によるセクハラ事件を再び問題提起。外交部は再調査後、2019年2月にA氏に対して「1カ月減給」のペナルティを課した。

 しかし、被害者はこれに納得できないとし、現地警察に被害事実を届け出、2019年9月からニュージーランド警察が事件捜査を開始していた。ニュージーランド警察は韓国大使館内のCCTV(防犯カメラ)や内部文書の確認を要請。さらに韓国外交官たちを参考人として取り調べることを求めた。これに対して、韓国外交部は「免責特権」を主張し、ニュージーランド警察の要請を黙殺してきた。今年2月に、ニュージーランドの裁判所がA氏に対する逮捕状を発付してからも、だ。

ニュージーランドは首相、副首相、外交部が相次ぎ韓国批判

 この問題が再び浮上し始めたのは、7月10日の朴元淳氏の自殺後だった。ニュージーランドのマスコミは朴氏事件とともにA氏事件を扱い、韓国社会の性犯罪の実態にスポットを当てる報道を相次いで掲載しはじめたのだ。

 ついには7月25日、ニュージーランドの某放送局がA氏の名前と顔を公開するに至った。こうして外交官によるセクハラ事件は外交問題にまで飛び火することになった。番組では「A外交官は最大で懲役7年に値するセクハラ行為を計3回犯した疑いが持たれている」「しかし韓国はニュージーランドの裁判所が出したA氏に対する逮捕状執行、事件発生当時に撮影された韓国大使館CCTV資料提供を拒否している」と報道した。この番組に出演したニュージーランドの教授は「韓国政府の捜査協力拒否は“正義に対する拒否”と思われる」と指摘した。

 そうした中で行われたのが、7月28日の文在寅大統領とアーダーン首相との電話会談だ。アーダーン首相は電話会談の中で、この問題に対する韓国政府の協力を強く要請したが、その時の文大統領の反応はアーダーン首相を満足させるものではなかったのだろう。電話会談から2日後の30日、ニュージーランド外交部は、アーダーン首相が文大統領との電話会談で「韓国政府の対応に失望を表現した」と明らかにした。

 ニュージーランドの批判はこれだけにとどまらなかった。8月1日にはピータース・ニュージーランド副総理兼外交部長官が番組に出演、「この問題はもう最高位まで上り詰め、文大統領も知っている事案」「韓国政府はA氏に外交官免責特権を放棄させ、ニュージーランドに返すべき」と要求した。さらに2日にはニュージーランド外交部スポークスマンが「昨年の9月、韓国大使館に対する警察の証拠調査が行われるように韓国政府に外交官免責特権放棄を要請したが拒否された」「がっかりする決定だ」と重ねて明らかにした。ニュージーランドの首相、副首相、外交部まで乗り出して韓国政府を猛非難したのだ。

 これには韓国政府も黙っていられなかった。

3年も放置したことで問題が大きく

 韓国外交部は3日、フィリップ・ターナー駐韓ニュージーランド大使を呼びつけ、「両国間の公式的な司法手続きを活用せず、マスコミを通じてのみ問題を提起するのは外交慣例上非常に異例のことだ」「望ましくない」という立場を伝えたと発表した。つまり、ニュージーランドに対して「言論プレー」を警告したものだと韓国メディアは伝えた。

 韓国内の政権寄りのメディアも援護射撃をした。

 聯合ニュースは「ニュージーランド政府が今年9月の総選挙を控え、国内政治の目的のために『韓国叩き』に出たのではないかという見方も存在する」という疑惑を報じた。またやはり政府寄りのKBS放送は、韓国の外交部関係者の話として、「2020年初め、A氏と被害者が仲裁を図った」と明らかにした。「当時、被害者の主な要求は金銭的なものだった」「被害者は精神的、経済的被害補償を望んだが、条件が合わず(仲裁が)決裂した」という内容も伝えた。

 だが、韓国政府もニュージーランド政府の要求に「ゼロ回答」を貫き通すことは難しいと判断したようだ。韓国外交部は、ニュージーランド大使を呼んで抗議した3日に、「A氏に対し、本日付で直ちに帰任するよう発令を出し、最短時間内に帰国するよう措置した。ニュージーランド側から公式な要請がある場合、刑事司法協力と容疑者引き渡しなどの手続きに沿って協力する」と明らかにしたのだ。

 韓国内では、朴元淳市長事件の影響もあって、外交官の行為や韓国政府のこれまでの対応について、非難する声が日ごとに大きくなっていた。政府や外交部もその声に抗し切れなくなり、外交官A氏を差し出さざるを得なくなったのだろう。

 ただ、3年間も蓋をしてきたことが、外交官のセクハラ事件を外交問題にまで発展させたと言える。メディアでは、この事件を「国際的恥さらし」とまで評している。改めて韓国国民は、韓国外交の無能さを感じているに違いない。

筆者:李 正宣