「がんなんてウソでしょ」「点滴の位置がおかしい」“診断書を出せ”と言われたことも⋯精巣がんになった36歳・ゲイ男性を襲った『SNSの怖い誹謗中傷』〉から続く

「このまま死んで何が残るんだろう」――。

【衝撃画像】「アソコがハムスターくらい大きくなっていた」

 精巣がんの手術直後、抗うつ剤を飲みながら配信を続けていた36歳のインフルエンサー・たたさん。再生回数、いいね、フォロワー数――数字に追われる日々の中で、ふと立ち止まった。

「頑張ってきた先に、何が残るんだろう」

 がんをきっかけに揺らいだ価値観。“数字の奴隷”から抜け出すまでに何があったのか。(全3回の3回目/最初から読む)


インフルエンサーのたたさん。数字を追う生活から抜け出せたワケとは?(写真:本人提供)

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「このまま死んで何が残るんだろう」

──精巣がんの手術直後で動くのも大変なのに、ダイエットインフルエンサーとしての動画を求められる状況にあったんですね。

たた そうですね。手術痕が痛くて動けないし、歩くのも大変で。だから動画チームの人に「何もできないんですけど」と言ったら、「じゃあ『病室のベッドの上でできる痩せ体操3選』をやれ」と言われて⋯⋯。鬼だな、と。

──それはひどい⋯⋯。

たた 打ち合わせの時は元気そうに見えたんでしょうね。けれど、夜になると気持ちが沈んでいました。「今まで頑張ってきたのは何のためだったんだろう」と思って。頑張っている自分ってすごい、とずっと思ったんですけど、このまま死んで何が残るんだろう、と。抗うつ剤を飲んだりもしました。

──自分に自信を失ってしまった。

たた でも、動画運営の関係者からは「楽しそうにしろ」と言われて。こんな状況になってまで自分を偽らなきゃいけないのかと、と。ポジティブな自分でいなさい、という風潮にすごく違和感があって。

──運営の関係者とは、どんな人ですか?

たた 動画についてアドバイスをくれる人たちですね。僕は直接契約関係にあるわけじゃないんですけど、彼らにとっては動画再生を増やしてプラットフォームを盛り上げることが使命なんです。

 復帰一発目のミーティングで言われたので一番ショックだったのが「がんは摘出したんですよね? 今体の中にがんがないなら、一般人と変わらないのでもっと頑張ってください」と⋯…。悪気はないと思うんですけど、まだ手術して1週間だったから結構ショックで。心配されると思ったんですよ。

──普通は心配しますよ。

がんでも「動画」を続けた理由

たた 誹謗中傷がすごくても「仲のいい知り合いには誤解されていないから大丈夫」って自分に言い聞かせて耐えてきたんです。

 でも、運営の人に「元気そうだから頑張れ」と言われた時に「みんなそう思ってるんじゃないか」と愕然としたんです。コメント欄で中傷してくる人だけじゃなくて、身近にいる人もみんな心の中でそう思ってるんじゃないかって思うようになって。それで、もっと気持ちの浮き沈みが激しくなって⋯…。それぐらい衝撃的な一言でした。

──実際、退院してすぐにエクササイズ動画を再開していますよね。

たた コラボ撮影も決まっていて、何かやらなきゃいけないとなったんです。コラボ相手に迷惑をかけないためにも、明るい投稿をしなきゃいけない。それで、僕と言えばやっぱりフィットネスだ、やるしかないって。それで、家の中でやれるフィットネスをやって。コラボ相手にもすごく心配されたんですけど⋯⋯。

 しかも、誰にも言っていないんですけど、実はその翌日ががんが転移しているかどうかの診断日だったんですよ。編集の都合上、「転移がなかった」と診断された翌日に出したんですけど、実際に撮影している時はまだ診断されていなくて、不安でいっぱいだったときだったんです。

──それはつらい⋯⋯。

心の支えになってくれた「タレント」とは⋯

たた そうですね。でも撮らなきゃいけなかったから、平常心を保っていられたところもあるんです。

 がんになって、人の良いところも悪いところも見えました。「どんなことがあっても側にいるから」って言ってくれる友達もいたし、知らない間にフォローを外された人もいたし。がんの投稿が鬱陶しいって思ったのかな。相互フォロワーの友達が30人ほど減りました。

──そんな人がいたんですね。

たた 今までコラボしてた子とかも、病気になってコラボすることがもうないと思ったのか、利用価値がないって判断されたのか、フォロー外されることもあったんです。

 そんな時に、友達のゆしんちゃんに言われた一言が大きくて。

──ジェンダーレスタレントのゆしんさんですね。

たた そうです。ゆしんちゃんは「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)ですごく有名になった子なんです。ある時ゆしんちゃんに「いつまでダイエットのたたでいないといけないのかな」って相談したら「ロンハーに出て11年経つけど、今だに“ロンハーのゆしん”って言われるよ。でもそれはそれでいいんじゃない? 頑張った証しじゃん」って。

「新しいことをやりたいならやればいい。でも、ダイエットをやってきたことは絶対間違ってなかったと思うよ」って言ってくれて。それまでは「ダイエット動画をやれ」と言われることが多かったから、自分の中で勝手に縛りを感じちゃっていて。ダイエットをやらないとみんなに嫌われるという不安が、その一言で一気になくなりました。自分の人生の転機になった言葉ですね。

──素敵です。

たた 「これをやったらこう思われちゃうかな」という思いから、「なんと思われてもいい、自分がやりたいことをやろう」に変わったんです。それを良いと言ってくれる人と付き合っていけば良いや、と。離れていった人は、離れるべくして離れたんだな、って思えたんです。

数字に囚われていた

──今はどんなことにチャレンジしたいんですか。

たた 講演会です。がんで入院して、病室で「明日死ぬとしたら、今一番やりたいことはなんだろう」って考えたんですよね。それはダイエットでもなければ、コンビニオーナーでもなくて。自分の人生を伝えたいなって思ったんですよ。それで誰かに何かを感じ取ってもらいたい。そう思っていたら「講演会やりませんか?」って話をいただいたんです。

──引き寄せてますね。

たた 以前は「再生回数100万回行きたい」「いいね何万件ほしい」とか思っていたんですが、今は「1人でも良いから自分の話を聞いて、人生がプラスに転じてくれる人がいたら嬉しい」という思いに変わったんですよね。フィットネスをしている自分も、がんの動画も、どれだけ再生されても、別に誰の人生も変えてない。そう気づいてからは「誰かの人生を変えるキッカケになる」そんな投稿をしたいという思いに変わったんです。

 先日もオンラインの講演会をやったんですけど、Zoomの中に自分の話を聞いている人が映っていて、うなずいてくれたり、笑顔になってくれたり⋯…。その人たちの顔を見て、改めて「やりたかったのはこれだな」って。

 顔が見えない人から誹謗中傷をされて、悩んだりしたんですけど。自分のことを好きでいてくれる人たちにもっと元気になってもらえるように考える方が楽しい。自分が登壇したらその人たちも嬉しい、見てくれる人たちも嬉しいし、今度は自分を採用した企業さんたちも喜ぶし、良いことしか起きていないなと。そういうことを突き詰めていきたい、とがんになったからこそ思えた。がんになっていなかったら絶対に思っていなかったことです。

──がんが良い転機になったんですね。

がんになって「原点」に戻れた

たた 時々企業さんから「うちで一緒に何かやりましょうよ」と声をかけてくださっていたんですが、「僕なんか」という気持ちが強かったんです。たまたまダイエットでバズっただけで、管理栄養士でも、インストラクターでもない。「自分はそんなに価値ないですよ」と。

 ゲイやコンビニの仕事って、世間から低く見られがちじゃないですか。そういうイメージを払しょくしたいとSNSで発信を始めたはずなんです。それがだんだん、賞とか取ってインフルエンサーとして認められたりするうちに、目標が変わってしまった。

 がんになって原点に戻れました。講演会をやるとなったら、来てくれるのは50人とか100人程度。以前だったら「これだけフォロワーがいるのにこの規模ってしょぼくない?」と引け目を感じていたかもしれない。でも今は、50人でも見てくれるんだったらやりたいと思えるようになったんですよね。

──人数ではなく、一人ひとりに伝えようという思いになったんですね。

たた そうですね。今はさらに人生が楽しくなりました。だから自分にとっては、がんになったのはプラスだったなと思います。

世界は変えられる

──以前のインタビューで、当初たたさんがコンビニオーナーになろうとしたときは、本部の社員さんから「金髪でオーナーになるなんて⋯…」と言われたとお話しされていましたね。

たた そうですね。でも「どんな髪型や見た目でも、オーナーとして働ける」と伝え続ければ、評価は変わっていくと感じました。オーナーになるのも、以前は結婚していなかったらなれなかったのが、少し前に「パートナーシップ制度を取っていればOK」に制度が変わったんです。

 ただ、まだ本部の社員さんも少し耳にしたことがある程度で⋯⋯。もっと知ってもらいたいな、と。それで、自分が今伝えるべきことはこれだ、と思いました。これからはちゃんと意味がある発信がしたいな、と思っています。

(市岡 ひかり)