『ハンドク!!!』©TBS

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 二宮和也主演の日曜劇場『ブラックペアン シーズン2』の放送を記念して、二宮出演作のひとつ『ハンドク!!!』(2001年/TBS系)がTVerで配信中だ(TVerでは8月4日までなので未見の方は急いでほしい)。

参考:長瀬智也の役者人生を振り返る 『白線流し』に『IWGP』、『俺の家の話』に至るまで

 主人公は、元ヤンキーの研修医・狭間一番(長瀬智也)で、二宮は一番の弟分の坂口信幸、通称・ノブを演じている。元・池袋のギャングだった(長瀬のヒット作『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)を思わせる)一番は、国家試験に合格し、研修医として杉田玄百記念病院(SMH)で働くことになった。

 院長の新堂一子(沢村一樹)は心臓外科のエキスパートで「神の手を持つ男」と呼ばれている。『ブラックペアン2』で二宮が演じている天城雪彦みたいではないか。だが、天城と違って、新堂は病院の名誉と儲けを優先していて(ん? 天城もそう違わない?)、誰でも平等に助けたい一番とは反りが合わない。

 脚本は、現在、NHK大河ドラマ『光る君へ』を書いている大石静で、金儲け主義の病院の経営陣や首脳陣と、医者の本質ーー病人を平等に治療することを大事にする熱血人情・医師のぶつかりあいという医療ドラマの王道を、ときにからりと、ときに湿度をあげながら、うねらせていく。

 演出の一人の堤幸彦は、これでもかとギャグと小ネタや数々や斬新な画を繰り出して、医療ドラマのアップデートに余念がない。アップの方向がまっすぐ上でなく、あっちこっちに向いている感じではあるのだが、それが堤演出。なんの変哲もない院内を天井の分量多めに撮影するなど画に凝っていたし、一番とノブの下宿先の新聞取次店の店先に常にいる謎の老人や、洋服ダンスのなかに仏壇を入れていたり、登場人物がやたらとなにか食べているなど、ユニークな工夫が満載で、隅々まで飽きさせない。一番が遠視で手術のとき、へんなメガネをかけているのもおもしろかった。

 タイトルの『ハンドク!!!』の「!!!」は最初ふつうに「!!」の予定だったが、画数が運勢的によくないので(当時、堤の制作会社オフィスクレッシェンドには占い師・安斎勝洋が所属していた)、ひとつ足して、「!!!」になった。また、スタッフクレジットにやたらと「~~上等!!!」と入れたり、視聴率によって植田博樹プロデューサーと堤監督が坊主になるという企画をやったり、大手を振ってスタッフの内輪ノリをやっていた。ドラマが元気な最後の時代であろう。

 出演者たちは濃いメンツが集まっている。一番と同じく研修医役の佐々木蔵之介、喫煙ボックスのなかにぎゅうぎゅうに入ってタバコを吸いながら語らう(このアングルもいい)外科医四天王たちに、矢島健一、半海一晃、佐藤二朗に今江冬子と個性派がそろっている。

 佐々木はいまでは想像できないナンパで軽薄な坊っちゃんキャラを生き生き演じていて、半海演じる医者は、ことなかれ主義ながらいざ手術となると豹変するギャップがカッコいい、矢島はちょっと嫌味な人物を演じさせたら右に出る者なし。佐藤二朗は2000年に『ブラック・ジャック2~天才女医のウエディングドレス』(TBS系)で堤に見出され、ここではレギュラーを獲得、飄々とした演技を披露している。今江冬子は劇団健康やナイロン100℃で中国人のヤン先生役が当たり役で、『ハンドク!!!』では、役名は山田・ベン・桂子・ケーシー。おそらくハーフ設定で日本語が若干、カタコトふう。ドラマにアクセントを効かせていた。今江は今年、亡くなり、ファンを悲しませた。ほかに、野際陽子、大杉漣など、いまは亡き名優たちがドラマを引き締めていることにしみじみするのは、ドラマが死を題材にしているからなおのことかもしれない。先述の安斎先生や医療指導の堤邦彦も鬼籍に入っている。

 さて、二宮演じるノブである。彼は医療パートとは別の、一番の日常パートに関わる存在だ。「4号線の鬼殺しのノブ」と呼ばれやんちゃしていた時代がある。髪は根本に少し黒の残った茶髪で、頬にはうっすら傷跡が残り、やんちゃ時代の痕跡を感じさせつつ、いまは新聞配達を粛々とやっている。

 一番の弟分ながら、素朴なまでに純朴な一番よりもノブのほうがしっかりしているというか、クールに世の中を俯瞰しているのだろうと感じさせるのは、二宮の持ち味であろう。

 2002年に出版された堤監督の書籍『堤っ』(角川書店、現KADOKAWA/企画編集取材は筆者)のなかの堤と植田の対談で、堤が二十代のときに経験した死にまつわる出来事がその後の人生観に影響を与えていると語られていて、その体験はなかなかヘヴィーなものであった。それゆえか、医療の現実や死の本質を目の当たりにした者だけがわかる諦念のようなものが『ハンドク!!!』のなかに流れている。堤は植田世界が濃厚に出ていると対談で語っているが、植田の本質に堤の本質が引っ張り出された形かもしれない。そして、二宮こそが重要なほのぐらい部分を担っているようにも思えるのだ。

 世の権威や資本家たちがのさばる世の中に背を向けている存在がノブだ。アッパー層に抗う彼はすこし危うい陰の気配がある。一番の場合は、とことん明るく純朴に、何があってもめげずに権威に対抗していく、その対比が鮮やかだ。

 ノブの行く末には想像を絶する展開が待っている。そしてノブの存在が、医師としての一番にひじょうに大きな影響を与えることになるのだ。え、うそ、そんな、という展開である。

 ノブの最大の見せ場は第7回。ノブのいた児童養護施設の友人・南野風(高橋一生)が脳の病気で目が見えなくなり、 SMHに入院する。風(藤井風よりも前に風という名前の人がいた)の入院にはある陰謀が関わっていて……。

 第7回を起点に最終回まで、これでもかと盛り上げていくのは、よき時代の連ドラである。それにしてもノブが一番に差し入れるとあるブツが、のちのち重要な役割を果たすとは誰が思ったことであろうか。

(文=木俣冬)