「おそ松さん」過激なパロディ問題に「委縮しないで、もっとやってほしい」

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過激なパロディで注目が集まるテレビアニメ『おそ松さん』。発売予定のBlu-ray/DVDで、第1話「復活! おそ松くん」が未収録となることが公式サイトで発表され話題になっています。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが同作について語り合いました。

危険なギャグと腐女子人気で話題に!


飯田 『おそ松さん』は……ひどいよね。いい意味で。監督がアニメ『銀魂』もやってる人で、ノリとかテンポが『銀魂』そっくり。下ネタとかパロディの危ない橋を積極的に渡りたがるところが。神谷浩史が高速ツッコミ役なのは『絶望先生』みたいだけど。

藤田 そして『銀魂』と同じようにニュースになってしまうというw 委縮しないで、もっとやってほしいですね。今どきめずらしい、ぶっ飛んだ「ギャグアニメ」で、ぼくは歓喜して見ています。萌え四コマのギャグとかと違って、作品の構造や表現技法なども用いてメチャクチャやってくれている。

飯田 しかも腐女子が歓喜しまくっていてびっくりした!

藤田 声優さんの布陣から、『おそ松さん』の腐女子向け化は予測されていたんですが、まさかあんな露骨に、バカげたパロディを一話からやってくるとは思わなかった。第一話から、登場人物たちが、「おそ松くん」を現代で売れるようにするにはどうするのかの会議をするというメタ構造は笑いましたよw

飯田 どうやったらウケるか? って6つ子が話し合って『進撃の巨人』『うたプリ』『弱虫ペダル』とかを延々ネタにしてたね。

藤田 現在のアニメの状況に対する痛烈な皮肉で、ギャグも冴えていて、一話は素晴らしかった。腹を抱えて笑いころげてしまいましたよw これが未収録になるとか配信停止になると発表されていますけど、ある種の自主規制や圧力に屈したのなら、愚行です。もったいない。
 しかし、ある意味、腐女子が茶化されているのに、喜ぶというのも、不思議ですね。

飯田 腐女子諸氏は男の顔がみんないっしょでもいけるんだ、というのに驚いた。『エヴァ』で綾波がいっぱいいたの見て「きめぇ」と思うだけだった僕は修行が足りなかったようだ……。

藤田 しかし、これで二次創作でBLが書かれたら、絵面がすごそうw みんなおんなじ絵柄で、実験マンガみたいになっているんじゃなかろうかw アニメだと、声で違いがわかるけれどもw

飯田 pixivで見るかぎりでは細かい部分でみんなちゃんと描き分けてるよ。イメージカラーもあるしね。

藤田 そうなんですかw まぁ、グラサンをつけたキャラとか、特徴の違いを強調していますからね。あと、笑うのは、みんな大人になっても無職だってことですねw

飯田 年を取ったらニートになってるっていうのは『ど根性ガエル』実写版と同じパターン。島耕作みたいになってたらそれはそれでおかしいけど、無難な落としどころなんだろうね。

藤田 本作は赤塚不二夫生誕80周年記念作品であるわけで、あの過激で尋常ではない赤塚不二夫的感性は、今では割と世の中から消えかけていると思うので、こういう形で蘇ってくれて、とても嬉しいです。『天才バカボン』で、左手で書く回とか、絵を書かないでサボる回とかあって、メチャクチャで。「ギャグ」の暴走度合いが尋常ではない。その精神はちゃんと引き継いでいるなと、うれしかった。

SEALDsは『おそ松さん』にシンパシーを抱くのか


藤田 ただ、ニュースになって、地上波で放映したあとBSで放送するときに修正をしたという『アンパンマン』のパロディ(デカパンが変質者デカパンマンになる)のところは、ぼくはちょっと赤塚的なものとは違うのかなぁと個人的には感じました。
『アンパンマン』をパロディにすること自体が失礼だということは、問題ではないんですよ。もっとやれ、と思う。アンパンではなくて、ウンコを出して「かりんとう」と言って食わせようとしているところは、低レベルなギャグだけれど、赤塚的に行くなら、そこで食わせるはず。その下ネタをやっているデカパンを警察がに扮したおそ松さんが撃ち殺すというオチが「倫理的」な超自我を感じさせるところが、むしろよくない。その中途半端さが、笑いより不快感を催させるんですよ。
 その感情的にもにょるところが、視聴者の反発を生んだ感じがします。ようするに、ギャグが滑っているのであって、パロディ自体はいいんですよ。

飯田 藤田説では「ウンコを食わせたほうがよかった!」とw 地上波で流せないだろ!!!

藤田 赤塚マンガでは、もっと人は理不尽に無意味に死んでしまい、それだけだ、という徹底した哲学、もっと反倫理的な覚悟があった。ウンコも食いますよw

飯田 赤塚不二夫は60年代の学生運動の闘士にそのラディカルさが愛された人だからなあ。

藤田 そうですね。ラディカリズムの機運の後押しもあったであろう、限界まで行く感じが『おそ松さん』にも欲しい。

飯田 SEALDsは『おそ松さん』にシンパシーを抱くのだろうか……どうでもいいかw

藤田 SEALDsは行儀のいい子たちの、保守運動ですから。彼らの印象は、どちらかというと、日常系アニメに近いですよ。会って話して、デモも見物してみての感じですが。
 国会前のデモも、「クライマックスがない」し、「限界まで行かない」。それに対して、古い世代の新左翼精神を持っている活動家なんかが、不満を抱いて、「突入もしないのか!」「時間で終わって帰るのか!?」「オチがない!」って戸惑っていたので、感性の差はある感じはしましたね。余談ですが。

飯田 なんかそれはそれで、デリヘル呼んでおいて「なんでセックスさせないの? おかしくね?」って言ってるみたいで違う気もしますが。

藤田 「自分でやればいいのに」とは思いますよねw

リメイクするならこれくらい突き抜けてほしい!


飯田 今期は『ルパン3世』とか『ヤングブラックジャック』みたいにリメイク/リバイバル作品的なものをいくつかやってるけど、『おそ松さん』がいちばんふっきれてる。

藤田 割とルパンなどが穏やかなリバイバルだとしたら、『おそ松さん』は安パイ狙いではなく、冒険をしているので、一番楽しいですね。特に一話。三話以降はまたちょっと評価が変わりますがw 実際、世間での評判も良いようですね。

飯田 ギャグに反応している層(男が多い)とキャラに反応している層(腐女子層)のどっちにもウケている。それも『銀魂』っぽいけど。

藤田 赤塚に期待される過激なギャグや実験精神と、現代のアニメが商業的に成功するためのキャラ萌えの両方をうまく両立できた感じなんでしょうね。『銀魂』のエッセンスを持ってきて、大幅に原作改変してもなお、それでも原作の赤塚的ギャグの精神を受け継いでいる(ように見える)ところが偉い。原作ファン、赤塚ファンからのブーイングもないですよね? 「リヴァイがシキシマになったのは何故だ!」みたいな、俺の「おそ松」はあんな「おそ松」じゃない! みたいな怒りはないですよねw

飯田 そんなにないんじゃないかな。ヘンにおとなしくしてないからね。

藤田 マーク・スタインバーグという人の説なんですが、日本は、改変において「キャラの同一性」にはこだわるが、「物語」や「世界観」の変化はあまり気にしないようですね。アメリカはそれに対し、「物語」「世界観」の整合性の方をこだわるとか。
 キャラはわりと同一性を図像的にも維持して、物語や世界観は好き勝手にぶっ壊して、というのは、正解な感じがします。ギャグだから、そもそも物語なんてなくてもいいし。あとは、「精神」の継承の成功で測られるのかなと、赤塚ファンからは。あとは、ギャグを、高速ツッコミ系に変えたのも、この時代に合わせた調整の一種かな。

飯田 しかし赤塚不二夫ファンの世代がいまアニメ観るかっつったら観ないから、正直ほぼ無視していいんじゃないか。

藤田 そ、それは、赤塚ファンの世代は、もう死んでいるか認知症になっているっていう意味ですか!?

飯田 そこまでは言ってない。アル中でEDなだけだよ。なお藤田はホモ松さんの同人誌を冬コミで買いあさっているはずなので目撃しても「あっ…(察し)」でお願いします。

藤田 むしろ買いあさるぐらいなら、万引きするよ!(※しません) 

飯田 そしたら射殺するしか。しかし同じ赤塚作品でも『バカボン』とか『ひみつのアッコちゃん』を今リメイクしてもここまで人気にならなかっただろうから、作品選びの勝利だよね。

藤田 『バカボン』のウン十年後を描いたら悲惨なことになりますよw バカボンのパパは、もう老人じゃないですかw

飯田 バカボンのパパを介護する話とかおもしろそうだけど……暴走老人と認知症なのかもともとアホなのかわからない年寄りだらけの老人ホームを舞台にギャグなんかやったら……炎上……

藤田 でもバカボンのパパは、歳をとってもあまり変わらない気がします。『ひみつのアッコちゃん』は、『アッコにおまかせ』みたいな感じになると思います(※うそです)。
 真面目な話をすると、手塚ファンや藤子ファンに比べて、赤塚ファンは、下の世代に継続されていない感じがするので、今回のが一つのきっかけとなって、赤塚ファンが増えるといいと思います! 原作のマンガはホント今読んでもぶっ飛んでて、新鮮で面白いですよ!