勝訴しても払ってもらえない!「財産開示」手続き「逃げ得」はありうるの? 弁護士が解説
「民事裁判で、相手を訴えた時に、裁判とか、判決を無視する人がいるじゃないですか」ーー起業家・投資家として知られる「けんすう」こと古川健介氏が、法律が変わっても賠償責任を免れる抜け穴があるのではないかと問題提起したXの投稿が話題になりました。
以前は、裁判に負けても支払わないといった「逃げ得」がまかり通りかねない状況でしたが、これに対応するために「財産開示手続」が2019年の法改正で大きく強化されました。
けんすう氏は、この「財産開示手続」でも判決から逃れる抜け道があるのではないかと問題提起。「法律とかに詳しい人に質問です」と呼びかけていました。どういうことなのか、基本から解説します。
●そもそも財産開示って何?いつから改正?
財産開示手続きは、裁判所が債務者(お金を払う側)を呼び出し、預貯金・不動産・給与などの財産状況を申告させる制度です。2003年からある制度ですが、当時は無視しても「30万円以下の過料」(行政上のペナルティ)にとどまり、刑事罰ではなかったため実効性が乏しいと批判されていました。
2019年(令和元年)に民事執行法が改正され、2020年4月1日から施行されました。改正後は正当な理由なく出頭しない、または虚偽の申告をした場合、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(民事執行法213条1項5号・6号)という刑事罰が科されることになりました。「行政罰」では前科はつきませんが、刑事罰となって前科がつくようになったのです。
●裁判が終わっていないと使えない?確定判決が必要?
申立てができるのは、すでに強制執行(差し押さえ等)ができる状態にある場合です。確定判決のほか、仮執行宣言付判決や公正証書(執行証書)を持っている場合も対象となります。
一方、裁判が終わっていない段階や「念のため相手の財産を調べておきたい」という場面では申立てはできません。
申立てをすると、裁判所が財産開示手続きの実施を決定し、債務者を呼び出します。債務者は財産開示期日に出頭し、財産について申告する、というのが基本的な流れです。
●無視したら?「知らなかった」と言い張れば逃げられる?
財産開示の呼び出しを無視したらどうなるでしょうか。裁判所からの通知を受け取らず「知らなかった」と言い張れば、財産開示しなくていいし、刑事罰も逃れられるのでは?と思うかもしれません。
しかし、これはそう簡単ではありません。
たしかに、刑罰を科すためには「故意」が必要です。裁判所からの通知を一切受け取らず、「財産開示手続きが行われていることを一切知らなかった」と主張することで、「財産開示手続きを無視した」という認識(つまり故意)がなく無罪である、という主張をすることが考えられます。
しかし、「一切知らなかった」という主張はそう簡単には認められません。
裁判所が呼び出しを送っても相手が受け取らない場合、「付郵便送達」という方法がとられます。書留郵便に付して発送した時点で送達の効力が生じる方法で、相手が実際に受け取ったかどうかに関係なく、法律上は「送達した」ことになります。
けんすうさんは、「警察は『付郵便送達なんで、相手方がその呼出しについて知らない可能性もありますよね、だから故意があったとは言えないですよね』となるので、基本的に告訴が不受理になると思うんですよね」と指摘しています。
ですが、実際には、故意が認められる可能性は十分にあると考えられます。以下、簡単に理由を説明します。
まず、この付郵便送達は、他の送達ができない場合に行われるものです。そこで、付郵便送達をするまでに、「本当に送達ができない状況なのか」が調査されます。
具体的には、債務者がその住所に実際に居住しているかどうか確認するため、電気・ガスメーターの稼働状況、郵便受けの郵便物の状況、表札の有無などを記録した調査報告書が裁判所に提出されます。この結果、「その住所に確かに住んでいる」のに「何度送達しても受け取らない」という経緯が記録として積み重なります。
直接債務者が配達員に面と向かって「裁判所からの郵便物を受け取りません」と言っていなかったとしても、そのような経緯が積み重なると、「知らなかった」という言い訳は認められにくくなります。
むしろ「その場所にはいるはずなのに送達を拒絶した」という認定がされるリスクがあります。
次に、告訴というのは、あくまでも犯罪が行われている可能性がある場合に、捜査を開始するきっかけですので、告訴をする側で犯罪の成立要件を全て立証する必要は当然ありません。
この点は警察官も誤解して不当に告訴を受理しないケースがありますが、故意の有無は警察が捜査によって明らかにすべきことです。
債務者が不当に告訴を受理しない状況なのかどうかは、警察が捜査によって明らかにすべきことです。
●近年の逮捕例など
判例集などに登載されている裁判例は見当たりませんでした。これは、近年の改正であり件数が少なそうであることや、仮に起訴されたとしても略式起訴となっているからではないかと推察されますが、逮捕の報道はいくつかあります。
2026年1月28日には、香川県で裁判所からの財産開示の呼び出しに出頭しなかった建設業の男が逮捕されています。
2026年2月には、財産開示に応じず裁判所に出頭しなかった疑いで新潟市東区の29歳の男が逮捕されたと報じられています(NST新潟ニュース、2月15日)。
また、2026年1月には、仙台で、訴訟で確定した賠償金を支払わなかった47歳の女性が裁判所からの財産開示の呼び出しに応じなかった件で、いったん不起訴となったものの、検察審査会で不起訴不当の議決がされ、その後略式起訴されたことが報じられました(読売新聞オンライン、1月9日)。
●財産開示を無視されても終わりではない
また、2019年の改正では、債務者から財産開示を受けるだけでなく、「第三者からの情報取得手続き」も新設されました。
これは、債務者本人ではなく、金融機関(預貯金・株式等の情報)、市町村や日本年金機構(給与・勤務先の情報)、法務局(不動産の情報)といった第三者に、裁判所の命令で直接照会できる制度です。債務者の協力は一切不要です。
財産開示を無視されても、この手続きで財産を調査して差し押さえを実行できる可能性があります。
以上のように、財産開示を「無視してしまえば意味がない」とはいえないわけです。けんすうさんが心配されているような事態には、そう簡単にはならないと考えます。
