仕事を効率的に進めるには、どうすればいいか。元マイクロソフト執行役員の越川慎司氏は「ビジネスパーソン7500名を対象にしたアンケートでは、なんと87%が『社内会議を改善すべき』と会議の効率・効果ともに思わしくないという答えが出た。まずは会議に手をつけるべきです」と説く--。

※本稿は越川慎司『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)を再編集したものです。

写真=iStock.com/joka2000
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joka2000

■ビジネスパーソン87%が実感「社内会議を改善すべき」

クロスリバーでは、29社16万人の「働き方の改善」を支援しているなかで、どのようなことに時間が費やされているかを調査しています。ビジネスパーソン7500名を対象にしたアンケートでは、なんと87%が「社内会議を改善すべき」と会議の効率・効果ともに思わしくないという答えが出ました。

時間通りに終わらない、アクションが決まらない、部長の独演会が止まらない、といった意見が多数集まりました。

そこで、多くの時間を奪う「ムダな社内会議」を改善すべく、クライアント企業11社の社内会議を総計8000時間以上かけて録画し、分析しました。すると、会議がうまくいかない原因も明らかになっていったのです。

■「情報共有」の会議を毎週開催するムダ

まず、会議には3種類しかありません。「情報共有」か「意思決定」、そして「アイデア出し」です。3種類の会議のうち最も評価が低く、効果が出ていなかったのは「情報共有」の会議です。

越川慎司『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)

驚くべきことに、「情報共有」の会議の約30%でアジェンダ(議題・目的)が設定されておらず、全員がイスに座ってから「議題のある人?」と聞いている始末でした。目的が決まっていなければ、もちろんアウトプットは出ません。とくに「定例会議」がこの傾向にあり、メンバー同士で集まることが目的になっていました。

確かに、チームで共通の目標を達成すべく士気を高めるうえでも、メンバーで集まって議論することも重要です。しかし、こういった単に情報を共有するだけの会議を毎週開催する必要はありません。

組織として実行するための意思決定、課題解決のアイデア出しに注力する会議なら意味があるでしょう。しかし、情報共有のためなら、対面の会議はなるべくダイエットすべきです。

■20%の資料は読まれずにゴミ箱へ

また、社員1000名以上の企業で1時間の経営会議をするのに、現場の社員たちは平均73時間かけて準備し、その65%は資料の作成に費やしているという調査結果が出ました。

その結果を見ると、会議スケジュールは10分刻みにアジェンダがセットされ、各部門の代表が情報を共有して終わり、というパターンが圧倒的に多かったのです。さらに「頑張ってたくさん資料を作れば評価されるのではないか」という妄想を持つ社員がいることで、経営会議での資料の枚数は増えていきます。

しかし、追加調査をしたところ、作成された資料の40%は経営会議で使われませんでした。ページをめくられることすらない資料も20%以上あり、作成時間はムダだったのです。

こういった経営会議の問題を根本的に解決するには、「決める会議」に変える必要があります。

アンケートからも明らかになったように、現状として、経営会議のほとんどが「情報共有」の場になっており、コストパフォーマンスはきわめて低いです。

■資料のフォーマットを決めれば負荷が減る

経営会議には、各部門の意思決定者が出ているわけですから、共有された情報に対して、評論家のように意見を言うだけでなく、批判をする場合は対案を示すなど、建設的な会議を行なうことが求められます。現場では調整できなかった組織をまたぐ決めごとや、会社の戦略に関わる意思決定をズバズバとスピード感をもって決めていかないと社会や市場の変化に乗り遅れます。評価軸を決めて「GO」か「NO GO」かをしっかり決める、という意識を持ってみてください。

また、経営会議の資料のフォーマットは統一し、作成のルールを決めましょう。たとえば、「各アジェンダはA3用紙1枚でフォントサイズは18ポイント以上とする」というルールにすれば、役員も作成者も負荷が減ります。重要な部分が一目瞭然で、忖度して資料を作成する時間が減ります。

■情報共有はいまやチャットで十分

そもそも「情報共有」だけであればSlackなどのITツールを使えば、目的は達成できます。その「情報共有」に教育・啓蒙が伴うのであれば集まる必要もありますが、すべての「情報共有」の会議がそうではないはずです。

弊社では、「情報共有」の会議をゼロにしました。共有すべき情報はすべてデジタル化して、メンバーがネット上で即座に確認できるようにしています。以前は、オンライン会議で情報共有を行っていましたが、デジタル化しても問題はなく、むしろ会議の時間が減って自由な時間が生み出されました。

「情報共有」の会議では、まずアジェンダが決まっていなければ、目的に沿ったアウトプットは出ません。もし会議の主催者がアジェンダを事前に設計していたとしても、それが参加者に伝わっていなければ同じく成果は出ません。暗闇の山道で、地図も懐中電灯も持たずに目的がわからないまま歩き続けると不安で帰りたくなるのと同じです。

そこで、クライアント企業の会議の改善策として、アジェンダを開始24時間前に参加者へ周知し、必要な情報交換は会議までにチャットなどで行ってもらうようにしました。このルールを約9000名に2カ月間試してみたところ、定例会議の開催時間が半分になり、社内会議に費やす時間はトータルで18%減少しました。ムダな会議が見事にあぶり出され、改善されたわけです。

■イノベーションは「アイデア出し」から生まれる

それに対して、「アイデア出し」の会議は対面のほうが効果的であることがわかったため、その時間は8%ほど増えました。

「アイデア出し」の会議を増やしたことで、トラブル発生時に迅速に対応できるようになったり、イベント集客の新企画が出たことにより観客が増えたり、会議から生み出される価値は増えていきました。

だからこそ、本当に集まって行うべきかどうか、対面式の会議の必要性を見直すべきです。弊社では、この3年間で26社の新規ビジネスの開発に関わり、19件で計62億円の新たな売上を生み出しました。その19件では、どこが起点となっていたのかを、関係者にヒアリングしました。すると、会議室での発言が起点になったのはたったの2件。残り17件は会議室の外で起きていました。そのうち14件は、会議室手前の通路での会話が起点になっていたのです。つまり、会議の前後に他部門のメンバーに対して「今ちょっといい?」と話しかけたのが起点だったわけです。

■かしこまって座っていてもアイデアは出ない

この結果から、イノベーションを生み出す“新結合”の起点は会議ではなく「会話」であることがわかりました。会議室に大勢が集まって席に座り、かしこまった状態で斬新なアイデアが出るでしょうか。よくあるのが、上司がメンバーたちに向かって「何か良いアイデアを出せ」と指示して、部下が勇気を出してアイデアを出しても、すぐにその上司が「それは現実的ではない」「それは予算がないからダメ」などと、ことごとく否定していくパターンです。そうなると、メンバーは黙っていたほうが安心だと思って何も発言しなくなります。

カジュアルな会話は、アイデアを出しているときに否定されにくく、一度すべてを聞いてから判断する傾向にあります。会議よりもカジュアルな会話のなかのほうがアイデアは出やすく、その大量のアイデアの中にこそ、質の高いものが含まれているのです。ムダな会議をやめて、メンバー間の会話の機会を増やしましょう。

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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
クロスリバー社長
国内および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立。ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら利益を上げていく「稼ぎ方改革」の実行を支援している。『超・時短術』(日経BP)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)など著書多数。
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(クロスリバー社長 越川 慎司)