(※写真はイメージです/PIXTA)

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老後の生活設計において、多くの人が直面するのが「住まい」と「家計」のバランスです。長年親しんだ我が家や自家用車を持ち続けることは安心感につながる一方で、修繕費や維持費といった予期せぬ支出が老後資金を圧迫する要因にもなり得ます。ある夫婦の決断を見ていきましょう。

築40年の団地で見つけた「老後不安の解消法」

築40年を超える公営住宅に暮らすのは、佐藤昭雄さん(74歳・仮名)と妻の和子さん(71歳・仮名)です。室内には必要最小限の家具が置かれ、テレビ、食卓、本棚があるのみです。

昭雄さんは長年、中堅広告代理店で営業職を務めました。転職による厚生年金の空白期間や役職定年があり、受給額は現役時代の想定を下回りました。現在の年金受給額は、夫婦合わせて月約23万円(額面)です。住み替え前、二人は戸建ての持ち家で暮らしていましたが、和子さんは当時の懸念を次のように語ります。

「住宅ローンこそ完済していましたが、毎年届く固定資産税の通知や、高騰する火災保険の更新料が重荷でした。それ以上に不安だったのは、一度に数百万円単位の費用がかかる屋根や外壁の修繕です。退職金はローンの完済に充てたため、十分な貯蓄があるとは言い難い状況でした。次の大規模修繕を終えれば、自分たちの介護や医療に充てる資金がさらに厳しくなる。その現実を考え、資産を整理して固定費の安い場所へ移るのが最善だと判断しました」

公営住宅への住み替えを検討しましたが、入居には「持ち家がないこと」が条件となるため、2人は自宅を売却して資産を整理することを決断。さらに引越しを機に、自家用車も処分しました。

「以前は家や車を所有していれば安心だと思っていましたが、いつしか、維持管理をいつまで続けられるかという不安に変わっていった。現在は徒歩と電車での移動が中心ですが、歩行時間が増えたことで以前よりも健康になった気がします」と昭雄さんは言います。和子さんも、市民農園での栽培や図書館の利用といった、お金をかけない趣味を楽しんでいるそうです。

家賃を含めて月10万円。これが現在の夫婦の生活費です。年金の手取り額約20万円から差し引いた残りの10万円は、将来の予備費として毎月貯蓄に回しています。

「現役時代よりも、今のほうが生活への安心感・安定感があります。10万円で生活できるという確信がありますし、年金の余剰分で将来への備えができていることも大きい」と語る昭雄さん。最後には「まさか『持たないこと』が自分たちの正解だとは思わなかった」と結びました。

「持ち続けるリスク」を回避し、年金内で収まる家計を再構築

佐藤さんが直面していたのは、住宅を持ち続けることで発生する支出の不確実性です。

総務省『家計調査(家計収支編)2025年平均』によると、高齢夫婦無職世帯の1か月の消費支出は26万3,979円で、平均的には4万2,434円の不足が生じています。住居費は月1万7,739円とされていますが、この数値は持ち家と賃貸を含む平均であり、固定資産税や数十年単位で発生する大規模修繕費は年次平均に分散されるため、実際の資金負担は見えにくくなっています。築40年前後の戸建て住宅では、屋根や外壁、配管の更新に一度で300万〜500万円程度の支出が必要になる場合があります。

また、厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』では、老齢厚生年金受給者の平均月額は15万1,061円とされています。夫婦で年金を受給していても、こうした突発的な住宅修繕費は老後資金を大きく減少させる要因になります。

このような状況を踏まえると、佐藤さん夫婦が行った住宅の売却と公営住宅への住み替えは、将来発生する可能性のある住宅関連支出を最小化し、毎月の支出を予測しやすくする選択といえます。

住宅を保有し続けないことを選び、生活費を年金収入の範囲に収まる水準に調整したことで、毎月の収支に余裕が生まれました。さらに自家用車の維持費も見直した結果、月10万円程度の余力を確保できたと考えられます。こうした余力は、将来の介護費や医療費が増えた場合の支出に充てることができ、精神的な安定にもつながるはずです。