野生動物の観察を目的に、標高約670メートルに設置されたライブカメラ。この日は動物ではなく、1人の男性の姿を捉えた(画像は『explore.org 2023年9月5日付X「Bear Cam saves a hikers life!」』のスクリーンショット)

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米アラスカ州南部の「カットマイ国立公園(Katmai National Park)」内にあるダンプリング・マウンテン(Dumpling Mountain)には、山に生息する野生動物を観察し、そのダイナミックな姿をリアルタイムで世界中の視聴者に届けるために、2013年からライブカメラが設置されている。このほどこのライブカメラ映像と視聴中の人々のとっさの機転が人命を救った。米ニュースメディア『USA TODAY』などが報じている。

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ダンプリング・マウンテンの標高約2200フィート(約670メートル)に設置されたライブカメラの映像は、様々なライブ映像を撮影している団体「Explore.org」により世界中に配信されており、野生のクマなどの姿を見ようと視聴者が集まる。しかし9月5日午後4時頃、ライブカメラが捉えたのは野生動物ではなく、遭難した男性がSOSの合図を送る姿であった。

X(Twitter)でシェアされたその映像には、防水ジャケットを着ながらもずぶ濡れの男性が歩いてくる様子が映っている。その後、男性はカメラに近づいて何かを話しているが、カメラには音声を認識する機能がついておらず、その声は視聴者には届かない。

最初に男性の窮地に気付いた視聴者は、ライブ映像下のコメント欄に以下のように書き込んでいる。

「午後3時30分〜3時43分、苦しんでいる人がカメラに映っている。」

さらに男性の口の動きから「help(助けて)」「lost(迷った)」などの単語を口にしていると気付いた視聴者が、次々とコメント欄に男性の状況について書き込んだ。また、シェアされた映像には映っていないが、男性は親指を下に向け、自分が良くない状況にいるような合図も出していたという。視聴者からのコメントを見たExplore.orgのスタッフは、視聴者に感謝を伝え「カットマイ国立公園のスタッフに連絡し、彼らも映像を確認しているところです」とコメントを返し、ライブ映像は一時的に一般公開が中止された。

その後、救助が必要だと判断したカットマイ国立公園側は、2人のパークレンジャーを派遣して男性の捜索を開始した。そして午後6時48分に男性を発見し、安全なキャンプ地まで連れていくことができた。男性にケガはなく、映像の後半には2人のパークレンジャーと共にしっかりとした足取りで歩き去っていく男性の姿が映し出されていた。

同国立公園で約9年間パークレンジャーとして働いていた経験があり、現在はExplore.orgで自然学者として働くマイク・フィッツさん(Mike Fitz)は、「あの日は天候が悪かったですね。風が強く雨が降っており、霧も濃かったので視界が悪かったのです。景色は見えないし、野生動物が見られる可能性も非常に低かったので、ライブ映像を見ていた視聴者がいたことに驚きましたよ」と話す。

当時、マイクさんはメイン州にある自宅にいたそうだが、同僚から連絡を受け、男性の捜索ができるかどうかを話し合ったという。「最初に男性が映像に現れてから男性を発見するまで、約3時間はその姿を見つけることができませんでした。しかし、男性は定期的にカメラの前に姿を見せており、近くに留まっていることが分かりました。良い行動でしたね」とマイクさんは男性の判断も彼自身の命を救った一因だと語った。

カットマイ国立公園の面積は約400万エーカー(東京ドーム約34個分)にもおよび、イエローストーン国立公園(約220万エーカー)とヨセミテ国立公園(約74万エーカー)を合わせた面積よりも広く、米国内最大級の国立公園の一つである。

さらにマイクさんは、「山の頂上の天候は悪いことが多く、天候が荒れていると方向感覚を掴むのが非常に難しいのです。近くに公園のビジターセンターがあったとしても、当時の天候ではまるで(男性の周囲は)別世界のように感じたことでしょう。また、同エリアは携帯電話の電波が届かないため、外の世界と通信するためには、衛星回線を使うしかありません」と、厳しい環境であると説明している。

男性が無事救出されたことを確認した視聴者たちからは、以下のようなコメントが寄せられている。

「このコミュニティの中に読唇術に長けた人がたくさんいてよかったよ。」
「私が聞き取れたのは 『助けて』と『道に迷った』だけだったけど、他の人はもっと聞き取れていたんだね。」
「この男性は、ライブカメラのマイクが自分の声を拾ってくれると思ったのだろうね。それができなかったのだから、カメラに顔を近づけて話すことを選んだんだ。結果それが功を奏したよ。」

Explore.orgでは、少なくとも180台のライブカメラを設置していると言い、野生動物の珍しい行動を捉えたこともあるそうだ。しかしマイクさんの経験上、ライブカメラの映像が人命救助に繋がったのは今回が初めてのことだという。

テックインサイト編集部では、Explore.orgが設置したライブカメラが人命救助に大きく貢献したことについてどのように感じているか、「男性がカメラの前に留まったことが良い結果につながった」と分析したベテランパークレンジャーのマイクさんにこのような場所で道に迷ったり、危険な場面に遭遇した場合どのような行動をとるべきか、さらには今回の出来事を受けて、国立公園内や人間が足を踏み入れるには危険が伴う場所でのライブカメラの持つ役割に新たな関心が高まっているかなど話をうかがうべく、Explore.orgとマイクさんに取材を申し込んでいる。

画像は『explore.org 2023年9月5日付X「Bear Cam saves a hikers life!」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)