話題の新型ヤリスですらブースに展示しない徹底ぶり

 2019年10月24日から11月4日までの12日間に渡って開催された第46回東京モーターショー2019は、目標の入場者数100万人に対して入場者数は130万人を超え、大盛況のうちに閉幕した。輸入車ブランドの出展が少なく、事前には心配された盛り上がりも、ふたを開ければ杞憂(きゆう)に終わったことになる。

 今回は東京オリンピックの関係で、おなじみの東京ビッグサイトの一部、東館が使えず、東京ビッグサイト青海展示棟、有明の新東京ビッグサイト西−南展示棟、さらにはMEGA WEBと会場が分散していたのも、これまでにない開催方法だった。

 そんななか、東京ビッグサイト青海展示棟に構えたトヨタのメインブースは、モーターショーの常識を打ち破るコンセプト、展示、演出方法だった。テーマはPLAY THE FUTURE!「トヨタは、モビリティで、人と好きをつないでいきます。スマートなだけじゃない、もっと楽しい未来をつくるために。どんな街や暮らしが、これからやってくるのか。一足先に、体験してみませんか? 遊び方は、あなた次第。さあ、一緒に未来を楽しみましょう」である。

 そして驚くべきことは、モーターショーならではの新車、市販車が1台として展示されていなかったことだ。しかしそのかわり、迎えてくれたのはT-HR3 ヒューマノイドロボット。フロアを彩るのは、TOYOTA e-Care FUTURE HEALTH CHECKER、魔法の箒に試乗体験できるe-broom FUTURE CITY FLYER、未来の“Fun to Drive”とは?を占うTOYOTA e-RACER、 ひとり乗りモビリティTOYOTA e-4me、未来のモビリティが水を運んできてくれたりするTOYOTA e-Micro Palette、移動型インフラモビリティの携帯充電スポットでもあるTOYOTA e-Chargeairなど、すべてがコンセプトカーとも異にする、未来のモビリティ中心だったのである。

 クルマを組み立てるメカニックの仕事を、小学1年生〜6年生対象に行う体験コーナーなど、来場した親子、子どもが楽しめる要素にも事欠かなかった。

 一方、会場の一部になった、普段はトヨタやレクサスの新車であふれている、FUTURE EXOPと題されたMEGA WEB会場も、市販車を一切置かず、その2階にはトヨタの未来を示すコンセプトカーが勢ぞろい。MEGA WEBでは最新乗用車公道試乗体験をスープラ、レクサスUX200 F SPORTで行っていたぐらいで、2020年2月発売予定の注目のヤリス(旧名ヴィッツ)は、あえて別会場のビーナスフォートに展示するという英断、思い切りなのである。

クルマに対して興味のない層にもわかりやすく伝えたかった

 では、なぜ、今回の東京モーターショーで、トヨタが「市販車を展示しない」ショーに踏み切ったのだろうか。トヨタの関係者はこう話してくれた。

「100年に一度の大変革期において、CASEやAIなどの概念が少しずつ浸透し、通信手段も急激に発達するなど、誰もが未来を知りたい、感じたいというフェーズに来ていると、トヨタは考えています。実際、CESやサウス・バイ・サウスウエストなど、グローバルでのイベントにもその傾向が現れてきているのです。このような背景を踏まえて、第46回東京モーターショー2019のトヨタブースをどのようにしたら、より多くの人が見に来てくださるか、もっと楽しんでいただけるかを考えた結果、未来志向のブースを企画することになったのです」。

「そこで、トヨタのブーステーマを“PLAY THE FUTURE”とし、エンターテインメント要素満載のテーマパークとして、お客さまに楽しんでもらいたいと考えました。トヨタが描く、人が主役の“未来のモビリティ社会”。e-Paletteをはじめ、さまざまな未来のモビリティを登場させ、これからどんな未来が待っているのか、見て、触れて、楽しんでいただきたいとの想いを込めたのです」。

 結果クルマ好きはもちろん、子どもや女性などクルマに深い興味を持たない来場者にも、クルマを越えた未来のモビリティ社会を間近で見せ、トヨタが提示する一足先の未来体験によって、老若男女を問わず、大いなる興味を持たせ、モビリティの未来を知るきっかけを作ってくれたのが、モーターショーの常識を覆すトヨタのブースだったというわけだ。

 こう言ってはなんだが、今回のモーターショーでもっとも盛り上がっていたのは、もしかしたら、新車、市販車を一切展示していないトヨタのブースだったりして……。さて、2年後の2022年に開催される第47回東京モーターショーで、トヨタがどのような、今、2019年に生きるわれわれが想像もできないような未来のモビリティを披露してくれるのか。そしてどんなコンセプト、演出、展示方法で挑むのか。今から楽しみでしょうがない。