皇室典範の改正に向けて、議論が加速している。特に国論を二分しているのが、旧宮家の男子を養子に取る「養子案」の是非だ。月刊誌『文藝春秋』の最新号では、政治学者・御厨貴氏、作家・林真理子氏、元首相・野田佳彦氏が皇室典範改正の重要論点を深掘りした。

【画像】政治学者の御厨貴氏は、天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議で座長代理を務めた

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どの宮家の養子になるのか?

 林 不思議で仕方ないのは、「旧宮家の男子」から養子を取る話が決まろうとしているのに、皆さんは誰をイメージしているのか、という点です。どこかでひっそりと、知的に暮らしている一家がいると思うのかもしれませんが、情報が全くない。実際は普通のサラリーマンも多いというではないですか。


左から林真理子氏、御厨貴氏、野田佳彦氏。皇室典範改正への動きが急に動き出した中、3人が一堂に会した ©文藝春秋

 御厨 具体的な議論をしていないんですから、イメージできるはずがない。年齢制限や人数を設けるのか、養子に入れる期間を区切るのかなど前提も分からない。流れてくるのは「可能性がある男子は2人いる」とか「もう内諾を得ている」とか怪しげな説だけです(笑)。

 野田 どのくらいの人数が適正規模なのかも考えないといけませんよ。少なすぎれば結局は皇統が途絶える。多すぎると混乱が起きて、政争の具になる。相当慎重に制度設計しなくてはいけない課題なんです。

 御厨 法的にもスッキリしませんよね。「法の下の平等」という憲法の基本原則でやってきたはずなのに、特定の家柄の男性だけを皇族にするのは問題ないのか、という課題もある。

 野田 憲法十四条が定める「門地による差別」じゃないかという議論がありますよね。これについて衆議院法制局は両論あるという言い方をするんですが、内閣法制局は「大丈夫だ」と、皇室を扱う憲法の第一章は国民の権利を扱う章と関係なく存在するという解釈で超法規的にお墨付きを与えている。有力な憲法学者にも違憲だと言う人もいるんです。

 林 それはそうでしょうね。

 野田 さらに、どの皇族の方の養子に入られるのかも、全く議論されていません。天皇と直接血縁のある直宮(じきみや)の秋篠宮家はあり得ないとすると、常陸宮家、三笠宮𥶡仁親王妃家、三笠宮家、高円宮家の4宮家が候補になる。でも引き受ける宮家があるのか疑問ですよ。そのうち、昨年9月に突然作られた「三笠宮𥶡仁親王妃家」の信子さまは、麻生太郎・自民党副総裁の妹。高市政権の「利害関係者」とも言えます。

 御厨 三笠宮𥶡仁親王妃家に養子が取られたら、麻生さんが天皇の外戚になり、平安時代の藤原氏のようになる。政治的権力者と天皇の権威との距離がぐっと近くなって、皇族の政治的中立性が揺らぐ可能性もある。

 野田 かといって、常陸宮さまは90歳とご高齢ですし、他の宮家の妃殿下や女王殿下にとっても、生まれてからずっと民間で暮らしてきた養子に「皇族としてのあり方」を細かく伝授していただくのもご負担になる。

 御厨 具体的な議論をすると反対が出るから、大枠だけで通せばあとは何とかなるだろうと、高市政権は考えているんでしょう。実際、そう嘯いている官僚と話したこともあります。この国の政治がときどきやる、一番まずい進め方なんですよ。

そもそも「旧宮家」とは何か

 林 そもそも「旧宮家」がどういうものかも、伝わっていないと思います。私は小説を書くためにずいぶん調べましたが、宮家と言っても「1000年にわたる天皇家の藩屏」という表現が正解だとは思ってないんです。

 江戸時代、細々と脈を繋いできた宮家ですが、ほとんどは僧籍に入っていた。ところが、維新のときにお寺にいた彼らを無理に還俗(げんぞく)させると、彼らは側室たちとの間に多くの子供をもうけ、伊藤博文らも増えすぎた皇族による弊害に苦言を呈すほどになって、結局長男以外は皇籍を抜けて華族になると定められました。それでも4家だった宮家は終戦前には11家にまでなっていました。

 野田 「80年前まで皇族だった」とはいえ、男系という血統でたどると、室町時代の崇光天皇まで約700年さかのぼらないといけない遠縁ですね。

(2026年5月18日収録)

※この続きでは、「愛子天皇ブームの問題点」についても語り合っています。約9000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年7月号に掲載されています(御厨貴×林真理子×野田佳彦「拙速改正で日本を分断するな」)。

■御厨貴(みくりや・たかし) 1951年、東京都生まれ。東京大学名誉教授、政治学者。オーラル・ヒストリー研究で知られ、天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議では座長代理を務めた

■林真理子(はやし・まりこ) 1954年、山梨県生まれ。作家、日本大学理事長。『李王家の縁談』(文春文庫)、『皇后は闘うことにした』(文藝春秋)では立場に葛藤する皇族の姿を描いた

■野田佳彦(のだ・よしひこ) 1957年、千葉県生まれ。中道改革連合顧問。93年に衆院議員に初当選。2011年からの首相在任中、皇族減少へ対応するため女性宮家創設の議論をとりまとめた

(御厨 貴,林 真理子,野田 佳彦/文藝春秋 2026年7月号)