介護職に従事する外国人労働者の8割がインドネシア人が占める台湾。(写真・台湾「今周刊」)

新型コロナとの戦いで、これまで優等生と言われてきた台湾で、今、緊張が走っている。

海外由来の感染者が発見されたためだ。これは台湾への入国時に判明したものだ(さらに12月22日には、2020年4月12日以降、253日ぶりに市中感染者も発見された)。

台湾社会に不可欠な東南アジアなどからの移民

1990年代から少子高齢化対策と労働者不足解消のために推進してきた外国人労働者(ここでは特に単純労働に従事する者をいう)の受け入れだが、インドネシアを中心に感染者が相次いで発見され、急きょ12月4日から17日までの間、同国からの入国を一時停止する方針を発表したのだ。

台湾労働部によると、現在の在台移民労働者数は69万9000人。うちインドネシア人が26万5000人を占め、2020年10月までで83例の感染が発見された。インドネシア国内での感染拡大もあり、台湾CDCでは現地の状況を見ながら、18日以降については受け入れ数自体の減少も視野に入れて判断し、結局、無期限停止を発表した。

12月1日から水際対策を強化した台湾では、入国に際してすべての入国者にPCR検査など核酸検査の報告書の提示を求めている。台湾CDCの陳時中指揮官によれば、12月に入って感染が確認されたインドネシア人労働者35人のうち、21人が核酸検査の陰性証明書を所持していた。また、12月14日の立法院(国会)社会福祉・衛生環境委員会で「率直に言って、これらの検査報告書には信頼性がない」と述べ、国などの公的機関が認証する仕組みの導入が必要と考え、引き続きインドネシア側と協議を行う方針を示した。

一方、市民の間では、これが台湾国内における感染拡大の落とし穴になるのではと、不安がかなり広がっている。仮に、今後感染した入国者が増加した場合、検査などの経費負担はどうなるのか。さらに市中感染へと発展した際の医療機関のキャパシティーはどうかなど、人々の心配はこれまでになく高まっている。しかし、原因究明とともに新型コロナ発見時同様、早々に入国禁止を決定した台湾CDCの措置に、現地では肯定的というよりも、当然のこととして受け入れられているのだ。

ところで、今回、入国規制の対象になったインドネシア人は、観光目的で渡航するのではない。台湾で働くためにやって来る、いわば台湾経済の一翼を担っている労働人材にあたる人々だ。そのため、仮に入国禁止措置が長引いてしまうと、それだけ台湾国内の経済にも影響が出る恐れがある。

台湾における外国人労働者の公式な受け入れは、1991年の政府の建設プロジェクトに約1000人のタイ人建設者を受け入れたことに端を発する。その後、増減をくり返しながらも拡大していき、現在の69万9000人規模になった。1人の女性が生涯に産む子供の数「合計特殊出生率=TFR」が1.0近辺で低迷する中、外国人労働者の受け入れは、もはや議論の余地がないほど当たり前のこととなっているのだ。

その中で、現在では介護人材の多くをインドネシア人が担っている。その数は20万人以上といわれ、介護職に携わる外国人労働者の実に8割だ。今回の入国禁止措置が延長されるような事態に発展した場合、介護施設をはじめとしたさまざまな場所での人手不足が起こりかねないのだ。

台湾の介護職を支えるインドネシア

なぜインドネシア人が多く介護職に携わっているのか。一つにはインドネシア政府の積極的な労働者の送り出し政策の整備と、台湾社会におけるインドネシア人の「従順・管理しやすい」といったイメージ、さらには台湾政府とフィリピン政府間の外交的な摩擦と、フィリピン側の専門・技術労働者の送り出し政策の推進などがある。勉強熱心で、ほとんどがイスラム教徒でヒジャブを着用していることから、台湾人社会では見分けが付きやすいというのがインドネシア人労働者のイメージなのだ。

しかし、このイメージの裏にある問題は、これから外国人労働者の受け入れを検討する際に社会全体で向き合い、考えなくてはいけないことでもある。

2003年当時、台北に語学留学していた筆者の友人は、家政婦業に従事している労働者が高齢者の介護も行っており、かつ劣悪な労働環境下に置かれていることが多いことに憤りを感じ、台湾社会の矛盾を大いに感じたという。挙句に友人は、「日本人はやさしいから外国人労働者を扱えないだろう」とまで雇用主の台湾人に言われ、何とも言えない気持ちになったそうだ。

台湾では家族主義が強いため、家族介護を前提とする制度が先に構築され、家庭内に労働者が入る中で、どのような労働環境に置かれているのか、外部からはわかりづらい状況にあった。施設を中心とした介護サービスの整備はそれより遅れて進んだため、家政婦業と介護業の両方に従事する労働者が増えたと指摘する研究者もいる。

その後、2016年に法整備が進み労働環境が大きく改善され、今日、台湾が進めている本格的な多元文化社会となった。近年、週末の休日を外国人らが台北駅の同一色のタイルに座り込んで談笑する様子が取り上げられることあるが、これは多言語多文化社会のひとコマとして興味深い。

感染症への水際対策と労働力確保のバランス

しかし、労働人材として、また社会の構成者として外国人労働者は台湾でなくてはならない存在である一方、先のイメージのように、雇用主と労働者の枠組みの中では、依然として偏見にも似た状況にあることは事実だ。

日本でも外国人の就労について、技能実習制度などの既存のシステムによる受け入れ拡大や、その他の方法での模索が検討されている。台湾のような外国人労働者の「受け入れ先進国」で、いまだに残る外部から見えにくい社会問題の洗い出しも、制度や法整備を行ううえで重要な検討課題だろう。

なにより日本社会も外国人労働者が徐々に増えている中で、本格的に共存を選択した際、今後どんな問題が生じるのか、国民一人一人が再考して判断する時期にある。情報の整理と公開がこれまで以上に重要だ。

そして今回のような国境に関係なく迫りくる感染症のような危機に対し、どのような対策を講じるべきか。水際対策と労働力の安定化のバランスは、今後の台湾のアクションから学び取ることができる。コロナ渦で露呈したさまざまな問題をいま一度大切な経験として生かしていきたい。