松下通信工業が開発したトロンOS搭載の教育用パソコン(トロンフォーラム提供)

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[検証デジタル ニッポンの苦境]パソコンOS編<8>

 1987年、松下電器産業(当時、現パナソニックホールディングス)は新たなOS(基本ソフト)「TRON(トロン)」を搭載したパソコンの試作機開発に成功する。

 <トロン計画前進 松下電器 国産OSパソコンを開発>

 同年3月、読売新聞はそんな見出しでこのニュースを報じた。記事は「(マイクロソフトの)『MS―DOS』などがOSの国際標準となっており、日本メーカーはこのOSに合わせハード、ソフトを開発している」と説明。「トロン計画の推進で日本メーカーは、国産OSによる世界的な標準化が進むことを望んでいる」と伝えた。

 試作機の登場をきっかけに、トロンはマイクロソフトに対抗する国産OSとして関係者の期待を集めるようになる。日本メーカーだけでなく、米国メーカーも「トロンパソコン」を作り始め、実用化への期待が高まっていった。

 しかし、日米貿易摩擦という時代の大きなうねりがトロンの未来を暗転させることになる。

 「米国は、トロンOSを支援するための日本政府の市場介入について懸念を抱いている」。89年4月に公表された米通商代表部(USTR)の「貿易障壁年次報告書」。トロンは日本政府から不公正に優遇されているとして、やり玉に挙げられた。

 米政府が不公正貿易の是正を目的に作った「スーパー301条」。報告書で取り上げられた分野はその適用候補となり、厳しい制裁措置が発動される恐れもあった。

 坂村にとっては「寝耳に水」の話だった。「トロンは世界に公開していて、米国企業も自由に使える。なぜそれが貿易摩擦の対象になるのか、わけが分からなかった」

 米政府が報告書で問題視したのは、当時、政府が全国の中学校に大量に導入しようとしていたパソコンの標準仕様が「トロンに有利になっている」ことだった。仕様は通商産業省(現経済産業省)と文部省(現文部科学省)が所管する財団法人が検討を進めており、トロンに基づいた中身となることが有力視されていた。

 これでは世界的なリーダーとして認められているマイクロソフトのOSなど、トロン以外のOSは事実上調達から排除されてしまう――。米政府は、日本政府が国産のトロンを支援し、米国企業を「のけ者」にしようとしていると考えたようだった。

 当時、日本経済はバブル景気の絶頂期。「ジャパンマネー」が世界を席巻し、日本勢は自動車や半導体で米国勢を圧倒していた。トロンもいずれ米国の脅威になる恐れがある。そうみなされた可能性があった。

 突如、米国から標的にされたトロン。この出来事をきっかけに「トロンパソコン」の歯車は狂い始めていく。(敬称略、小林泰明)