【独自】「性被害者の味方」の裏切り…元弁護士・岸本学容疑者を逮捕 訴状が明かす示談金着服の手口
1300万円超に及ぶ「余罪」
元弁護士が警視庁に逮捕されたニュースが、社会に波紋を広げている。
6月17日、業務上横領の疑いで逮捕されたのは、神奈川県海老名市の元弁護士・岸本学容疑者(52)だ。
「捜査関係者によると、岸本容疑者は盗撮事件の被害女性から依頼を受けて加害者側と示談交渉を行い、’23年3月に受け取った示談金30万円を被害者に渡さず、自身の住宅ローンの返済などに充てていた疑いが持たれています。示談金が振り込まれず、連絡も取れないことを不審に思った女性が警察に相談したことで事件が発覚しました。
岸本容疑者は、過去に複数のメディアに出演したり、女性向けの法律解説書『おとめ六法』(上谷さくら氏と共著・KADOKAWA)を出版するなど、”痴漢・盗撮事件などの性犯罪被害者支援の専門家”として広く知られていました。第一東京弁護士会の犯罪被害者に関する委員も務めていたほどで、今回被害に遭った女性も、インターネット上でその経歴を知り、信じきって示談交渉を依頼していたようです」(全国紙社会部記者)
しかし、岸本容疑者の犯罪は、これだけではなかった。
実は、今回のような示談金の着服(未渡し)をこれまで何度も繰り返していたとみられる。その結果、岸本容疑者は、’25年5月23日、所属していた第一東京弁護士会から最も重い「除名」の懲戒処分を受けていたのである。
同日、同弁護士会が公式サイトで発表したリリースには、その懲戒処分の理由について、概ね、次のように記されていた。
’22年4月からの約1年間で、被害者から依頼を受け示談を成立させたが、示談金を渡さなかった示談交渉は11名に及んだ。加害者側から支払われた示談金は総額1316万円に及ぶ。それらを一切、依頼者に引き渡していなかった。それとは別に、合計42万3500円に及ぶ弁護士会の会費などを滞納。さらにはSNSで不適切な投稿を行ったり、事務所の住所変更すら届け出ないなど、その行動は弁護士としての倫理を逸脱していた。
示談金支払いを遅らせるための数々の言い訳
では、彼はいかにして複数の被害者を騙(だま)し、金銭を着服し続けたのか。FRIDAYデジタルは、今回の逮捕事件とは別の、ある民事訴訟の訴状と進行記録を入手。そこには、彼の手口と言い訳の数々が記されていた。
訴訟を起こしたのは原告Aさん。過去に強制わいせつ被害に遭い、深いトラウマを抱えていた女性である。Aさんは’21年12月ごろ、岸本容疑者に事件の示談交渉を委任した。
翌年の’22年4月1日、加害者側と400万円の示談が成立。岸本容疑者は遅くともその翌日には、加害者側の弁護人から400万円全額を受領しており、速やかにAさんの口座に振り込まれるはずだった。
だが、受領から10ヵ月が経過しても、Aさんには1円も支払われなかった。再三にわたり振り込みを催促したところ、岸本容疑者は次々と「言い訳」のメッセージを送り続けている。
〈これより日弁連援助制度の終結手続きを行いますので、終結決定があり次第、ご連絡いたします〉(訴状より。以下〈〉内は同)
〈金額が大きいことで、終結の審査が遅くなっているものと思います〉
当初は公的な制度を盾(たて)に取り、審査が遅れていると説明していた。しかし数ヵ月が経つと、その言い訳は徐々に責任転嫁へと変わっていく。
〈当方の事務の間違いにより、日弁連の終結報告書が未提出であることが判明しました〉(’22年6月)
〈通知のFAXを受信できていなかったようです〉(’22年8月)
そして’22年8月以降、今度は自身の「体調不良」を理由に弁明を繰り返すようになる。
〈現在、心身ともに不調が続いており、動くのがとても困難な常態(編集部註:原文ママ)です。来週中には、送金の手続きをさせていただきたく思います〉(’22年8月)
〈体調の不良が続いており、対応ができず誠に申し訳ありません。ご送金ですが、今週中、遅くとも来週中には、必ず手配を致します〉(’22年11月)
事務所閉鎖、そして「逃亡劇」の結末
’22年11月以降、岸本容疑者はAさんからの連絡を無視するようになった。Aさんが別の弁護士を立てて弁護士会に申し立てた紛議調停(編集部註:弁護士や税理士、司法書士、行政書士など「士業」と依頼者の間でトラブルが起きたときに、その専門家団体の中に設けられた委員会が間に入り、話し合いでの解決を目指す仕組み)にも答弁書を提出せず、期日にも出頭しなかった。
直接の交渉を断念したAさんは’23年2月2日に民事訴訟を提起。その後の裁判所の送達手続きの過程で、岸本容疑者が構えていた港区新橋の「みせばや総合法律事務所」のオフィスは、’23年3月31日をもって閉鎖されていたことが判明した。
Aさん側の住所調査の末、ようやく’23年5月に訴状の送達が完了したものの、岸本容疑者は’23年6月19日の第1回期日にも出廷していない。
日本の民事裁判では、被告が事前の答弁書も出さず期日も欠席した場合、原告の主張がそのまま認められる。この裁判でも、第1回期日からわずか2週間後の’23年7月3日には、岸本容疑者に400万円と年3%の遅延損害金の支払いを命じる判決が言い渡された。
第一東京弁護士会の岡伸浩会長は、今回の逮捕を受けて発表した談話で、
「不祥事の芽を早期に摘み取るべく市民相談窓口の機能を拡大し、不祥事の根絶に向けた努力を続けるとともに、厳正な対応を行って参ります。会員における弁護士倫理の一層の向上に努め、当会は、市民の弁護士に対する信頼確保のために全力で取り組む所存です」
との立場を示した。
性犯罪被害に遭い、前を向いて歩き出そうとした被害者たちの信頼を、弁護士が裏切り、横領した示談金は住宅ローンへと消えたのか。捜査による実態の全容解明が急がれているが、被害者たちが負った二重の傷が癒えるには、長い時間がかかるだろう。
