「クォーク」は本当に素粒子か? 0.00000000000000000001mスケールまでは内部構造がないことを確認
私たちの身近にある普通の物質は、最小単位まで分解していくと「クォーク」という粒子に行きつきます。クォークは内部構造を持たず、これ以上分解できない素粒子であると考えられていますが、内部構造がある可能性も残されています。
CERN(欧州原子核研究機構)が建設した加速器「LHC(大型ハドロン衝突型加速器)」で実験を行っている国際研究チーム「CMSコラボレーション」は、過去の実験データを分析し、クォークの内部構造の兆候を調べました。
結果としては、クォークに内部構造がある兆候を見つけることはできず、クォークは引き続き素粒子の地位を維持することが分かりました。仮に、今回の実験で見逃されるような内部構造があるとしても、その大きさは0.00000000000000000001m(10のマイナス20乗m=1垓分の1m)スケールより小さい可能性が高いことになります。

原子を作る素粒子「クォーク」は本当に “素粒子” か?
私たちの身近にある普通の物質は、無数の原子の集合体です。かつて、原子はそれ以上分解できない、物質の基本要素であると思われていました。しかし実際には、原子は基本要素ではなく、内部構造を持つことが分かっています。
原子を分解してみると、中心部に原子核、外側に電子が回っているという構造であることが分かっています。原子核はさらに、陽子と中性子という2種類の粒子に分解することができます。
そして陽子と中性子は、それぞれが2種類3個の「クォーク」でできていると考えられています。現代物理学においては、クォークはそれ以上分解することができない真の基本要素であると考えられており、「素粒子」と呼ばれています(※1)。
※1…今回の記事の主題ではありませんが、原子の外側にある電子も素粒子であると考えられています。
陽子や中性子がクォークでできていることは1961年から1964年にかけて3人の物理学者が独立して提唱し、1968年にはSLAC国立加速器研究所にて実験的に証明されました。そして現在、クォークが素粒子であることは理論の基本的な柱であり、実験的にも内部構造があることを示唆する観測データは見つかっていません。
一方で現代物理学は、暗黒物質(ダークマター)(※2)のような普通ではない物質の存在をうまく説明することはできず、修正の必要性に迫られています。もしも、クォークが素粒子ではなく、内部構造があるという証拠が見つかれば、その内部構造を説明する理論を作ることを通じて、現代物理学を修正する道筋が見えてくるでしょう。
※2…直接観測することができず、重力以外ではその存在を知ることができない未知の重力源。宇宙には、観測によって見つけることが可能な普通の物質の5倍も暗黒物質が存在することが予想されています。
クォークの調査は、時空の微細構造や未知の粒子の調査にも繋がる
ところで、仮にクォークに内部構造があるとするなら、どのように証明するのでしょうか? これは、100年以上前の1911年に原子核の存在を実証した、アーネスト・ラザフォードの実験とよく似た手法を使います。
ラザフォードは、金箔にα粒子(※3)を照射し、原子の構造を調べる実験を行いました。すると、大半のα粒子はまっすぐ反対側に届いた一方、一部のα粒子は大きく軌道を曲げられたことが分かりました。大半が素通りする一方、一部だけが大きく跳ね返されることから、原子の内部には極小の塊があることが示唆されます。これが原子核です。
※3…放射線の1種、α線を構成する粒子。現在ではヘリウム4原子核であることが分かっています。
陽子の内部にクォークがあることを証明した1968年の実験も、ラザフォードの実験といくつかの共通点があります。ただし陽子の内部構造の調査では、ラザフォードの時代にはなかった加速器を使い、高エネルギーな電子を生成して実験を行いました。一般的に、小さな構造を見るには、大きなエネルギーが必要となります。

今日で最強の加速器であるCERNの「LHC」は、加速した陽子同士をぶつけることで、様々な粒子を生成する実験を行っています。陽子の衝突現場では、陽子がクォークに分解された後、重い粒子の形成と崩壊が繰り返されることで、無数の粒子のジェットとなります。このジェットは2方向に噴出する傾向があります。
クォークが素粒子であるならば、ジェットの方向や角度のような、形の性質は常に同じはずです。一方でクォークに内部構造があれば、毎回の衝突で状況が微妙に変化するため、ジェットの形に変化が生まれるはずです。つまりジェットの形を調べることで、クォークに内部構造があるかどうかを知ることができます。
また、ジェットの形に影響を与えるのは、クォークの内部構造だけではありません。例えば余剰次元や量子ブラックホールのような時空の微小構造、暗黒物質媒介粒子やアクシオン様粒子のような未知の粒子など、現代物理学の謎を解決するかもしれない予想外な未知の物理現象も、ジェットの形に影響を与えることが予想されています。
クォークは引き続き素粒子の地位を維持
LHCでの実験を行っている国際研究チーム「CMSコラボレーション」は、検出装置「CMS」にて収集された過去の実験データ、合計173万9979回分の衝突データを分析し、クォークに内部構造があることを示す兆候があるのかを分析しました。
結果としては、クォークに内部構造があることを示唆するデータを見つけることはできませんでした(※4)。このため現時点では、クォークは素粒子の立場を維持します。また、時空の微小構造や未知の粒子のような未知の物理現象の兆候も見つかりませんでした。
※4…一部のエネルギー規模にて、ジェットが理想の形からわずかにズレている兆候は見つかったものの、有意であるとは見なされませんでした。
仮に、今回の実験で見逃した内部構造があるとしても、それは1垓分の1mスケールよりも小さい可能性が高いです。1垓分の1mスケールとは、クォークが形作る陽子そのものよりも、さらに10万分の1ほど小さな世界です。
もっとも、1垓分の1mよりさらに小さなスケールでは、クォークに内部構造が見つかるかもしれませんし、未知の物理現象が眠っているかもしれません。「クォークに内部構造はない」という主流の考えとは矛盾しますが、この可能性が完全に否定されたわけでもありません。この可能性を探る調査は、当面の間は引き続きLHCが担うことになります。
LHCはもうすぐ第3期の運転期間を終了する予定で、既に新たな実験データが収集されています。そして2030年までに、実験データの収集能力を上げる改修「HiLumi LHC」を予定しています。新たな実験データによって、クォークの内部構造や未知の物理現象に関する新たな知見が得られる可能性があります。
ひとことコメント
クォークが素粒子かどうかの調査は、新しい物理現象の発見に繋がるかもしれないので、引き続き実験が続けられるよ!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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