「男のDVD333円」の文字が目立つ「利根書店」

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「亡くなった父の遺品を整理していたら、大量のアダルトDVDを見つけて......。処分に困って、ネットで見て電話しました」

セルビデオショップ「利根書店」を展開するプリマベーラ(群馬県太田市)の広報・亀井彬さんは、このような相談が1か月に10件来ると話す。同店は、創業時から中古アダルトDVDの買い取り・販売がメイン。悩める遺族や終活をする本人のために始めたのが、「男の終活」サービスだ。

倉庫の中は見渡す限り...

亀井さんは、「終活する本人や遺族が、どうしたらいいかわからない現状がある」と考えて「男の終活」と名付け、「潜在的な社会問題」として、2021年8月から発信を始めた。わざわざ「男」とつけたのは、利根書店の利用者の多くが40代以上の男性で、同社の看板で「男のDVD」と大々的に宣伝しているが理由だ。

買い取り拠点となっている倉庫を、訪れた。正面には大小さまざまなサイズの段ボール箱が、山となって積みあがっている。

迎えてくれた亀井さんによると、1日に100箱前後が届く。倉庫内は、入口付近から最奥まで、ぎっしりだ。2023年5月時点でここに40万枚以上のDVDがあり、年間では90万枚以上が集まるというが、その9割が成人向け。近くのカートに目を向けると、肌の露出が多い写真が載る雑誌、卑猥な言葉が並んだDVDのパッケージがきれいに整頓されていた。

アイドルDVDに紛れて1本

入口にある段ボールを1個開いた。中はほとんど、アイドルのライブDVDや、昔はやった女性シンガーのCDなど一般的なものばかりだ。しかし、それらに紛れて1本、隠すかのように成人向けDVDが入っていた。遺族が送ったのだろうか、送り主は女性のようだった。

プリマベーラでは、利根書店や通販を通して、年間売上高30億円以上を達成している。裏を返せば、同社だけでこれだけの金額に上るアダルトDVD・グッズを売り上げているのだから、全国規模で考えれば所有者数や販売数はかなりの数だろう。にもかかわらず、「終活」の文脈でアダルトDVDのような「所有物」の処分に言及している報道は、ほとんどない。

アダルトDVDの買い取りは「大きいところだと、企業イメージもあって、やりづらい」のが現状だという。

女性にとってストレスに

実際、ネット買い取りへの相談として、「亡くなった兄弟の...」「親戚の...」など、遺族からの問い合わせがくると亀井さん。「相談から想像できますが、女性にとっては、これらの処分にストレスが伴うこともあるでしょう」と推察した。女性側の話として、亀井さんは次のような会話をしたことがあるという。

「当初、店と全く関係ない、50〜60代ぐらいの女性と『男の終活』の話をしたら、とても興味を示して聞いてくださいました。『そうなんだ、じゃあちょっと広めとくわ』と言われました」

この出来事から「やっぱり(本人は)、亡くなったあとのアダルトDVD・グッズの処分なんて考えないじゃないですか。まして遺族、女性はとくに考えも及ばない部分だと思いました」と語った。

子ども夫婦との同居をきっかけに

亀井さんによると、60歳以上の買い取り件数は、月に約100件にもなる。コロナ禍に入って需要が伸び、2020年はまとめての買い取り希望が増えた。亀井さんは、「同世代で現役として活躍していた人の突然の死、一気に死を身近に感じた人も多かったのかもしれません」と指摘した。20年3月の志村けんさん死去の影響もあったかもしれないという。

「最高齢利用者」となる86歳の男性は、地元のセルビデオショップが閉店したため、定期的にネット買い取りを利用するうえ、暑中見舞いなどの手紙を送ってくれるという。「終活かどうかは不明ですが、定期的に買い取りに出すことで家に残す品を最小限にとどめられているのではないかと思います」。

このほか、終活と思われる利用例では、子が親の終活手伝いとして買い取りを希望したケースや、60代男性から子ども夫婦との同居を契機とした処分希望などで利用するケースがほとんどだと話した。相談件数は増えたが、またまだ認知は不十分だという。「アダルトDVDであっても、価値を感じる人はたくさんいらっしゃる」と亀井さん、廃棄せず相談してほしいと促す。(後編に続く)