文在寅大統領

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 どうせ「近くて遠い国」なのだから好きにさせておけばいい。韓国を突き放して見るムキもいるようだが、そうも言っていられない事態が起きている。同国で「ゲシュタポ法」とも評される法案が可決され、「反日左派政権」の永続が現実味を帯び始めているのだ。

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 人生には常に面倒がついて回り、容易に払拭できるものではない。だが、ある特殊な人にだけはそれが可能であることを、我々は今、改めて思い知らされようとしている。その例外的な「特権階級」のことを、別名「独裁者」と呼ぶ――。

「(日韓の)両国間協力関係を一層未来志向的に進化させていきます」

 今月7日、韓国各地に生中継された新年の演説で、文在寅(ムンジェイン)大統領(67)はこう宣言した。しかし、そう呼びかけられたところで、おそらく安倍晋三総理が笑顔で彼の手を固く握りしめる場面は訪れないだろう。なぜなら、民主国家のリーダーである安倍総理が、「独裁者」と仲良く手を携えることはないからだ。

文在寅大統領

 曲がりなりにも韓国だって「自由と民主主義」を掲げる国ではないか、その国のトップを独裁者呼ばわりするのはあまりに礼を失していやしまいか――そんな声も聞こえてきそうだが、なにしろ文氏に独裁者の烙印を押しているのは日本ではなく、当の韓国なのである。目下、同国ではそれほどの「異常事態」が進んでいるのだ。

「昨年末の12月30日、韓国の国会で『独裁法』とでも言うべき恐ろしい法案が可決されました。大統領や国会議員、また判事や検事といった高位公職者とその家族を捜査・起訴する、『高位公職者犯罪捜査処(公捜処)』なる特別な独立機関を設置することが決まったんです」

 こう解説するのは、ある韓国ウォッチャーだ。

「何が恐ろしいかというと、公捜処は従来の検察よりも上位に位置付けられ、政府高官などに関する捜査を独占的に行う点にあります。例えば政府高官のスキャンダル情報を掴んだ場合、検察はそれを公捜処に報告しなければなりません。そして公捜処はその捜査・起訴の権限を検察から奪い取れます。さらに公捜処の長官は大統領が任命する上、職員にも文氏寄りの左派弁護士が居並ぶことになると予想されているんです」

 とどのつまり、こういうことである。

「現在、尹錫悦(ユンソクヨル)検事総長率いる検察は、三権分立のもとで『たまねぎ男』と呼ばれるチョグク氏の疑惑を調べ、また大統領府にも捜査をかけるなど、文氏周辺に攻め込もうとしていますが、今後そうした捜査は、言わば大統領直轄の公捜処が行うことになり、大統領自身やその周辺に害が及びそうな捜査を打ち切ることが可能になってしまうんです」(同)

「虐殺人事」

 日本に置き換えて考えると、東京地検特捜部が安倍総理、あるいは側近の国会議員が汚職をしているとの情報を掴み、密かに捜査を行おうとしても、特捜部は求めに応じて公捜処にその捜査権を譲らなければならない。そして、繰り返すがその公捜処の長官は国のトップが任命する。つまり、安倍総理の「お友だち」。その人物が長を務める組織が、安倍総理や側近議員を起訴するか否か、独自に判断できることになるのだ。

 要は、為政者の意向で政府高官に関する捜査を容易に「握り潰す」ことが可能なシステムが、韓国ではできあがってしまったのである。これぞ、専制を誘発する「独裁法」と言うしかあるまい。事実、

「韓国の検察は、公捜処への捜査情報報告義務を〈毒素条項〉と批判し、新聞も〈政権を掌握する勢力の思惑に振り回される悪法〉〈(これでは)『生きた権力』を捜査することはできない〉〈(法案通過に)加担した議員たちは『独裁共犯』〉などと厳しく非難しています」(同)

 龍谷大学教授の李相哲氏もこう指弾する。

「公捜処の設置によって、文氏は政権サイドのスキャンダルを握り潰すだけでなく、対立する野党議員を逮捕・起訴し、野党の弱体化も図れることになります。左派政権の継続を望む文氏にとって、これほど都合の良い組織はありません。そもそも、憲法で起訴権は検察だけに認められており、公捜処は違憲組織です」

 イヤなあん畜生を恣意的に葬り去ることができるのだから、やはり独裁的法律と言わざるを得ないのだ。

 だが逆に考えると、三権分立を無視するような超強大な権限を持つ公捜処を作れば、保守陣営への政権交代が起きた暁には文氏自身が返り討ちに遭う懸念もあるように思えるが、

「文氏は公捜処を駆使して、政権のスキャンダルを揉み消し、野党の政敵を逮捕・起訴することで、政権交代は起こらない、起こさせない前提で動いている。実際、文政権与党の『共に民主党』のイヘチャン代表は、『20年、政権を続ける』と豪語しています」(同)

 朴槿恵(パククネ)氏の例を持ち出すまでもなく、韓国では大統領の座を退くと必ず疑獄に巻き込まれて哀れな末路を辿る悲惨な歴史が続いてきた。だが、政権交代なく左派政権が続き、自分の「味方」が公捜処の長官を務める限り、文氏はこの歴史に名を連ねずに済むという寸法である。そして、

「まるでゲシュタポのようだと批判されながらも文氏が公捜処の設置を急いだのは、チョグク氏に関する検察の捜査が進んでいる上に、他にも文政権の主要メンバーの関与が疑われているスキャンダルの捜査が進行中であるせいだと見られています。政権側に危機感が募っていたんです」(同)

用意は「周到」

 とはいえ、現実に公捜処の組織が立ち上がるまでには時間がかかり、早くて7月になると言われている。それまでの「空白の期間」だけは、文氏は「憎き尹検事総長」による捜査のメスに怯えなければならない。だが、そこに関しても文氏は「周到」だった。

「文氏の子飼いである女性法相が、『チーム尹』とも呼ばれチョグク捜査などを進めてきた検事32人を、今月13日付で一挙に地方に飛ばすなど左遷してしまったんです。この恐怖人事は、韓国では『虐殺人事』と呼ばれ、メディアでも〈検察人事の暴挙〉〈尹検事総長の手足を切った〉と酷評されています」(前出の韓国ウォッチャー)

 組織と人事をフル活用し、決して自身に刃が向けられることがない体制を作る。まさしく独裁者に相応(ふさわ)しい横暴と言えよう。

 さらに、文氏の権力維持への執念、言い換えると我田引水の狡猾さにはすさまじいものがあり、

「さすがに公捜処の設置には保守の野党が強硬に反対しました。そこで文氏は選挙制度改正を『エサ』に、四つの小政党を味方に引き込んで公捜処法案を成立させる『奇策』に出た。韓国では4月に国会議員選挙が予定されていますが、小選挙区では勝ちにくい小政党が票を伸ばしやすいように、これまでよりも比例代表で議席がとりやすくなる選挙制度に変える法案を、公捜処の件と合わせ重要法案として処理したんです」(同)

 その結果、公捜処の設置を勝ち取った上に、

「小政党はもともと左派系でしたが、選挙制度を自分たちに有利に変えてもらった『恩義』から、選挙後はますます文政権に協力的になるでしょう」(李氏)

 つまりは文氏の「一挙両得」。そして組織、人事、選挙、「三位一体」での独裁体制構築……。

「週刊新潮」2020年1月23日号 掲載