【武藤 正敏】韓国内で「もう限界」…! 文在寅政権の「死に体」はもう止まらない 風向きが大きく変わった

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韓国・ソウルで10月3日に行われた大規模デモは、文在寅政権に対する韓国国民の「異変」を印象付けるものだった。この日のデモは文在寅大統領と者国法相を糾弾するもので保守派が主導するものだったが、じつはその5日前に行われた革新派による「文政権擁護デモ」をはるかに凌駕する規模になったのだ。いま韓国内で文在寅大統領への「風向き」が大きく変わりつつある――そのリアルな実態について、元在韓特命全権大使の武藤正敏氏が最新レポートする。

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予想外だった文在寅「糾弾デモ」

文在寅大統領と者国法相をめぐる革新対保守の対立は、街頭での激しい示威活動によって収拾が付かない局面に発展する様相を呈してきた。

これは文在寅大統領が就任後進めてきた「積弊清算」という政治方針によって、国民の間の分裂が極限に達しようとしていることの証左でもある。

文在寅大統領は積弊の清算と称して、これまで保守政権が成し遂げた「漢江の奇蹟」を教科書から削除するなど、国民分断の政治を繰り広げてきた。しかも、国政の3権立法、行政、司法を全て掌握し、言論に対する関与を強め、さらには最後の関門である検察も改革することで、文在寅大統領に反抗できない体制を作り上げようとしている。

これに保守系が立ち上がったのが、10月3日韓国の開天節の日(檀君が古朝鮮を建国したとする日)の者国辞職、文在寅政権糾弾を掲げたデモであり、これは文大統領の掲げる「積弊の清算」への抵抗でもあろう。

もともと、街頭における示威活動は進歩派が得意とする分野である。

しかし、3日の野党保守派の集会は、予想をはるかに超える規模で、韓国の主要各紙はいずれも驚きを持って報じている。

「ローソク集会」以来の大規模

保守派のデモは、9月28日の革新系が江南の瑞草洞(ソチョドン)で行った、「文在寅大統領、者国法相守護集会」をはるかに超える規模であった。

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瑞草洞集会は幅40メートルある8−10車線道路を1.2km程度の区間で行われた。これには全国各地からバスをチャーターして市民が駆け付けたといわれ、労働組合など組合員を相当動員していたものと思われる。

これに参加した人員は、主催者発表で80万ということであるが、韓国のマスコミが参加者を枠で囲い計算し、それを全体の規模に広げる形で集計すると10万人規模だと言われる。

これに対し、保守派の集会は光化門から南大門を経てソウル駅までの2.1kmの10−12車線道路で開かれ、その一帯にある光化門前の広場、ソウル市長前の広場も人波で埋め尽くしており、さらに横にも広がっていたともいう。

主催者発表で200万人、自由韓国党発表で300万人と言われており、これは誇張と思われるが、人数を少なく見積もる警察が非公式に推計したところでも50万人と言われている。

これだけの規模の集会は朴槿恵弾劾の際の最も大規模であったローソク集会以来の大きな規模だと言われており、保守派のこうした集会に、者国の子供の不正入学に腹を立てた市民らが自発的に参集したと報じている。

これに加え、高麗大、延世大、壇国大、釜山大などの学生を中心とする全国学生連合も光化門広場の集会とは別に、ソウル市内の大学路のマロニエ広場でローソク集会を行い、者国法相の辞任を求めたが、大学別でなく、大学連合の集会として開かれたのは今回が初めてである。

政権与党に広がる「不安」

与党共に民主党はこの集会の規模に大きなショックを受けたようである。

保守派集会の参加者について聞かれた与党議員は、「保守のキリスト教系がお金を払い、自由韓国党が総動員を掛けた結果」であるとコメントした。民主党は、光化門集会は「政治扇動」だと糾弾している。

しかし、与党共に民主党系がバスを連ねて地方からの参加者を動員している。これは労働組合が組合員を動員した可能性を連想させるものであるが、このことは不問として一方的に保守系を非難しているのは如何なるものか。光化門集会参加者は、インタビューを聞く限り、受験を控えた学生の両親であったり、者国法相の不道徳的な行動に反発し自主的に集まった人も大勢いた。

それにもまして、自主的に大学路に集まった学生たちの声をどう聴くのであろう。

保守系集会に動員があったと激しく非難するのはそれだけ、ショックが大きかったということであろう。民主党内には、「率直に衝撃を受けた。今後もっと大変なことになる」と懸念する声も聞かれるという。

さらに、韓国の国会が果たすべき役割を果たしていないから街頭闘争、場外闘争になるとの批判も聞かれた。ただ、反省して欲しいのは、こうした街頭闘争で保守党政権を叩いて弾劾にまで追い込んだのが共に民主党である。

それだけに政権与党は3日の光化門広場一帯の集会が政権与党に対する一層激しい批判につながらないか懸念しているのであろう。

者国をかばい過ぎた「代償」

そもそも者国法相守護のための集会を行ったのは革新系である。

さらに文在寅大統領は、国連総会出席から帰国後、「厳正かつ人権を尊重する節制された検察権の行使が何より重要だ」として検察の捜査に介入し、者国長官の自宅を11時間捜索したことに不快感を示した。

しかも、革新系は瑞草洞集会で者国長官をサポートし、文在寅大統領の検察批判に呼応して捜査に圧力をかけた。

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この結果、者国法相の夫人は休日である3日に非公開で検察に呼ばれ取り調べを受けたが、健康上の理由により供述調書も作らないまま、8時間後には帰宅を許された。加えて、者国夫人は翌日の検察の取り調べにも健康上の理由で出頭しなかった。

こうした文在寅大統領の圧力や、世論の後押で、捜査に手心を加えさせようとしてきた政権側の目論見をくじくのが今回の光化門集会の圧力である。

者国辞任を求める大きな世論の流れのなかで、朴槿恵弾劾集会と同様な規模の集会が開かれたことにより、文在寅大統領にとって捜査に不満があっても、うかつに関与できなくなる状況になってしまった。

集会の要求は者国辞任ばかりではなく、これを任命した文在寅大統領にも者国罷免を求めるものである。既に文在寅大統領は者国法相を庇い、そのスキャンダルに深入りしすぎてしまった。

文在寅大統領としては、者国法相の捜査がさらに進み本人の逮捕となれば政権に対する打撃が大きいので、何とか防ぎたい、そのため検察改革の具体案を作るように検察総長に指示したりしてけん制しているが、同時に者国法相の事件がさらに広がり政権の基盤を脅かすのは避けたいところであろう。

既に者国法相の事件に大統領がさらに関与するとなると文在寅大統領への抗議活動に転嫁しかねないところまで来ている。痛しかゆしの状態である。

文在寅「レームダック化」の始まり

それもこれも場外闘争で保守党政権を揺さぶってきた付けが回ったということであろう。

それに加えて、積弊の清算で保守系の人々を敵に回していることも反発を強めている。

文在寅大統領、者国法相を支持する勢力は危機感を強め、5日の集会に大規模動員を図った。革新系市長のいるソウル市は集会が長引けば地下鉄の運行時間を延長するなど、革新系が動員し易いように便宜を図っている。

ただ、こうした対立構図で、問題が収拾に向かうことはないだろう。

確かに、革新系は者国法相に関する状況が不利になってから、団結力を示し、世論調査でも文在寅大統領支持は若干高まった。

しかし、現在不満を高めているのは保守系であり、保守系の熱気が強いことは否定できない。これが一層高まれば、政権への影響は大きいであろう。韓国で最も革新色が強いハンギョレ新聞がこうした場外闘争のやり方に批判を始めている。

今度の光化門集会は、文在寅レームダック化の始まりなのかもしれない。

文在寅大統領は明らかに者国法相に対する捜査に不快感を示し、検察の捜査はやりすぎだと婉曲にではあるが批判していた。これに公然と立ち上がったのが市民たちである。

大きな転換点

文在寅大統領に不満を持つものは多い。

行政も政治も経験のない政治闘争家を大挙して行政の幹部に押し込まれ、うまくいけば彼らの手柄、失敗すれば行政官の失敗と批判されてきた公務員。仕事にやりがいをなくしていた公務員も大統領の圧力の下では何も言えない日々が続いていた。しかし、今市民が立ち上がったことに拍手喝采していることであろう。

今後、政治闘争家の支持があってもサボタージュが増えていく可能性がある。実務経験が乏しく政治闘争家ばかりしてきた人の政権は公務員の協力が得られなくなれば、実際の問題として何もできなくなるのではないか。

言論界も、ハンギョレ新聞の若手記者が者国事件について報道を抑制している幹部に反対して立ち上がった。

また、経済界も文在寅大統領には大きな不満を持っているが、政府の圧力を懸念して声を上げられずにいた。それを懸念した政権は大統領と財界首脳との会議を開いたが、これまで韓国経済を痛めつけてきた成長よりも分配を重視する政策を変える様子は見られない。

これでは財界の不満を払拭できるとは思わない。財界も文在寅大統領を見限りつつあり、新規投資は国内ではなく海外で行うようになっている。

大統領の権限は強い。それだけに大統領に力がある間は誰も逆らうことはしない。しかし、大統領に力がなくなった時には一斉に反発してくる。次の政権になって、文在寅政権を振り返った時、この保守派の集会の動きが大きな転換点となったと言われるようになるかもしれない。