インド首相、「挙式は国内で」 イラン戦争で新たな圧力

(CNN)インド西部ムンバイに住むシュバンギ・セスさん(29)は子どものころ、イタリアの高級リゾート地、コモ湖畔で結婚式を挙げるのが夢だった。
米俳優ジョージ・クルーニーさんと弁護士の妻アマルさん、歌手ジョン・レジェンドさんとモデルのクリッシー・テイゲンさんのような有名人も挙式した場所だ。
だがセスさんは年が経つにつれ、伝統と文化を優先するようになった。
今は「伝統的で地に足のついた結婚式がいい」と、インド国内での挙式を望んでいる。
モディ首相がこれを聞いたら喜ぶことだろう。首相はインドの文化と経済のために、外国での結婚式を慎むよう改めて呼びかけている。
首相は最近の集会で「外国旅行を兼ねた結婚式が急増しているが、これは相当の外貨支出を伴うことを考えてほしい」と訴えた。
「結婚式を挙げるのに、我が国インドほど美しく、神聖な場所はないはずだ」
モディ首相は通貨ルピーを守ってさらなる経済ショックを和らげるために、外貨準備高を維持したいと考えている。
首相の呼びかけは今新たに始まったわけではないが、イラン戦争をきっかけとする経済的圧迫に直面して優先度を増している。
インドは石油、ガス需要の約90%を中東などからの輸入に依存する。エネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡をめぐる緊張で、その供給が途絶えたり輸入コストが上昇したりする懸念が高まり、もともと弱いルピーにますます圧力がかかっている。
首相は国民に、燃料を節約してリモートワークを活用し、旅行先に国内を選ぶよう呼びかけてきた。
インドは世界有数の金消費大国だ。金は幸運をもたらし、世代を超えた冨を築くと信じられているが、首相は国民に対し、金の購入も1年間控えるよう求めた。
ルピーは戦争で5%あまり下落し、アジアで最も弱い主要通貨となっている。
国外、そして国内での盛大な結婚式インドの結婚式業界は華やかな映画シーンやセレブ文化、SNSの影響を受け、ここ10年で劇的に変化した。
結婚式は何日も延々と続くことが多く、米投資銀行ジェフリーズの最近の報告によると業界の規模は1300億ドル(約21兆円)に達している。これはインドの消費者市場として、食料品および日用品に続く2番目の規模で、米国の結婚式市場に比べると2倍近いという。
神聖な儀式や文化遺産と演劇的なショーが融合したインドの結婚式は、同国のソフトパワーが躍動する場でもある。
インド随一の大富豪の息子、アナント・アンバニさんは24年、西部ジャムナガルとムンバイできらびやかな式を繰り広げた。招待客には米タレントのキム・カーダシアンさんと妹クロエさん、米メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)、米マイクロソフトのビル・ゲイツ元CEO、モディ首相らが名を連ね、歌手リアーナさんが出演した。
その数年前には女優プリヤンカー・チョープラーさんが歌手ニック・ジョナスさんと、北西部ジョードプルの豪華なウメイドバワン宮殿で贅沢(ぜいたく)な結婚式を挙げた。
豪華挙式のプランを手がけるビクラムジート・シャルマさんはCNNとのインタビューで、華やかさを保ちながらも国内で無理のない式を挙げたいというカップルが多いと述べた。
ジェフリーズの報告によると、インドでは毎年800万〜1000万件の結婚式が実施される。シャルマさんのチームは昨年、28件の結婚式を企画した。このうち外国での挙式は3件だけだった。
シャルマさんはCNNに「インドでの挙式件数やその規模、1件あたりの費用はかなり拡大している」と語った。
もう1人のプランナー、モニル・シャーさんもCNNとのインタビューで、国内での挙式を選ぶカップルが「目に見えて」増えていると話した。
「インドで製造」から「インドで挙式」へ右派ポピュリストのモディ首相は、ヒンドゥー至上主義と野心的な近代化政策を組み合わせ、経済発展と自立、国家の誇りを掲げてきた。
14年から政策の柱とする「メイク・イン・インディア」(インドで製造)は、輸入への依存を減らし、国内の製造業強化を図るスローガンだ。その約10年後には、結婚式業界への新たなスローガン「ウェド・イン・インディア」(インドで挙式)を打ち出していた。
最近はイラン戦争による経済的影響が加わり、石油の買い控えや在宅勤務を愛国的行為として奨励している。
これに対して野党は、インド経済の脆弱(ぜいじゃく)性という根本的な問題への対策にはならないと反発してきた。
だがセスさんが国内での挙式を選んだのは、政治的な決断ではない。
セスさんは婚約者と2人で何カ月もかけ、自身のヒンドゥー教とかれが受け継ぐシーク教の伝統を融合させる結婚式を計画してきた。外国での豪華な結婚式に多額の費用をかけることも避けたかった。
2人は今年、「ピンクシティー」とも呼ばれる北西部の美しい都市ジャイプールで結婚式を挙げる。
ジャイプールはインドで人気の結婚式スポットのひとつだ。華やかな宮殿や歴史的な砦(とりで)を背景に、伝統的、近代的な祝祭が何日も繰り広げられる。
「インドには、外国ではなかなか得られない居心地の良さがある」と、セスさんは強調した。
