「そこに何かがいる」――家の中で愛犬だけが感じ取る“邪悪な存在”。犬目線のホラー映画が傑作だった
20年間生活した東京をあとにして、故郷北海道で自然や犬との気ままなシンプルライフを楽しむアンヌさん。本連載では、40代の今だから感じる日々のあれこれを綴ります。
第88回となる今回は、アンヌさんが試写で鑑賞した映画『グッド・ボーイ』について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿です)。
猫や犬と暮らしている人なら、一度は経験があるのではないでしょうか。
誰もいないはずの部屋の隅をじっと見つめる。突然、何もない空間に向かって吠え出す。あるいは、そこに何かがいるかのように耳を澄ませる……。
「犬には人間に見えない何かが見えているのではないか」
そんな想像をしたことがある人は少なくないと思います。
私が試写で鑑賞した映画『グッド・ボーイ』は、まさにその発想から生まれた作品。実はこの映画、アメリカで大絶賛され、SNSを中心に話題沸騰。私自身絶対日本でも公開してほしいと強く強く願っていた作品なのです。
今日は語らせてください。前代未聞、犬を主人公にしたホラー映画、が誕生しました。
◆犬目線のローアングルで映し出される恐怖演出
主人公はインディーという犬。大好きな飼い主・トッドと二人で暮らしていますがトッドは病を患い、療養のため亡き祖父が残した森の中の古い家へ引っ越すことになります。
その家には不穏な背景がありました。何人もの住人が長く住めなかったこと。 祖父自身もそこで亡くなったこと。 そして祖父が飼っていたゴールデンレトリーバーが、祖父の死後に姿を消したこと。
この映画は、数々の恐怖演出を徹底した犬の目線で描いていきます。
カメラはほとんど常にローアングル。人間の顔はほとんど映らず、インディのちょっとした表情の動きや、びくっとした反応にフォーカスしていきます。説明も必要最低限。
はたしてこの家には何かあるのか、この世のものではない何かがあるのではないか……とドキドキしながら観ていく中で、ひとつ重要な要素として忘れてはならないのは「犬が見ている世界」と「人間が見ている世界」が決して同じではないということ。
◆「犬と人間の違い」が話に厚みを持たせる
劇中、インディーは祖父の愛犬だったゴールデンレトリーバーが使っていたバンダナを見つけます。すると、まるでその「先住犬」がよみがえり、いろいろとインディーに教えてくれるかのように目の前にさまざまな映像が瞬時に現れるのです。
どうやらこのゴールデンの飼い主も、つまりトッドの亡き祖父も、なにか「邪悪な存在」に苦しめられた挙句「連れていかれた」ようなのです。
「犬の亡霊が現れた!」とも思いましたが……もちろんその可能性もありますが、よく考えれば犬の嗅覚は人間とはまったく質が違うものであって、かつてどんな犬がいて、どんな時間を過ごしていたのか。人間には理解できないレベルでワンちゃんなりに感じ取っている可能性だってあるわけです。それが犬のすごさ。
この「犬と人間の違い」そのものが話に厚みをもたせ、純粋に心霊現象の話としても観られる一方で、これはインディーだからこそわかる独特な感覚なんだろうか……、実際この「邪悪な存在」って何なんだろうか、と頭をひねることになったり。
物語が進むにつれ、飼い主トッドは少しずつ攻撃的になっていきます。何か「邪悪」な存在に取り憑かれていくかのように……とまどいながらもなんとか飼い主を守ろうと奮闘するインディの姿に、もう切なさが押し寄せる……。

