「AV女優は家を借りられない」は本当だった…職業差別による「入居拒否」まかり通る現実
今年3月、X(旧Twitter)上で1件のポストが話題となった。
内容は「AV女優や夜職をしている人間は、賃貸物件を借りるのが難しい」というもの。
このポストに対して「自分も賃貸物件の審査に落ち続けた」と同意するAV女優の声や「職業による差別ではないか」との声が寄せられた。
一方で「貸主にも借主を選ぶ権利がある」「AV女優は社会的信用がないから、借りられなくて当然」といった声も多く上がり、論争状態ともなっている。
実際に、AVや性風俗などの性産業や、水商売など夜職に携わる人間は賃貸物件を借りにくいという事実はあるのか。
ナイトビジネス業界や性風俗関連の弁護案件を多く手掛けることから「歌舞伎町弁護士」とも呼ばれる、グラディアトル法律事務所代表・若林翔弁護士に話を聞いた。(ライター・蒼樹リュウスケ)
本人がどんなに「職業による入居拒否」と感じても証明はできない賃貸物件を借りる際には、入居希望者に対する審査がある。
重点的にチェックされるのは、「経済力(家賃を支払い続ける能力があるか)」と「人間性(近隣住民や貸主とトラブルを起こさない人物か)」の2点だ。
一旦、入居が決まると、借主を追い出すことが困難になるため、物件にもよるがそのハードルは決して低くはないのが実情だ。
「AV女優や風俗嬢の場合、まず収入が不安定だと考えられてしまいます。また、職業的に印象が悪い、つまりトラブルを起こす可能性が高いと思われがちな点も、入居審査で不利になる点だと考えられます」(若林弁護士)
つまりAV女優は、入居審査で重視される2点の両方ともに引っかかりやすい職業だといえる。
しかし、貸主が入居希望者の職業によって入居の可否を決めるのは、一種の「職業差別」なのではないか、という疑念も生じてくる。
実際、入居希望者の国籍や人種、障害の有無や信仰する宗教などの理由で入居を拒否することは法律違反にあたる。過去の裁判でも「国籍を理由とした入居拒否は不法行為」とされ、損害賠償責任が求められた事例が存在している。
そう考えると、職業を理由に入居拒否するのも不法行為に当たると考えられるのだが、物事はそう簡単な話ではないようだ。
「契約は自由ですので、貸主側が物件を貸す相手を選ぶ権利もあります。また入居拒否する場合、貸主が職業が理由だとはっきり伝えてくることはまずないでしょう」(若林弁護士)
“審査落ち”だとしても、入居希望者には当たり障りのない内容を伝えるため、本当に「AV女優だから」が理由で入居拒否されたのかは誰にも断定できないわけだ。
そのため、入居拒否をどんなに理不尽と感じても、その苦境を周囲に相談しにくい状況となってしまっているといえる。
AV女優や風俗嬢は賃貸物件を借りにくい職業であることは間違いないただし、貸主側にもさまざまな事情がある。
そもそもの話として、入居審査に落ちやすいのはAV女優や夜職の人間だけでない。
俳優や芸人などの芸能人や個人事業主、非正規雇用者や高齢者、シングルマザーなども、主に「収入が不安定」な点から入居審査で断られることが多く、賃貸物件を借りにくいとされている。
そうすると、AV女優たちの訴えは「世の中に多く存在する入居拒否のひとつ」でしかないのだろうか。それとも「AV女優や風俗嬢、夜職の人間はとくに賃貸物件を借りにくい」といえるのだろうか。
「AV女優や風俗嬢がほかの職業よりも賃貸物件を借りにくい事実はあるでしょう。職業への印象や偏見によって入居拒否される例は、少なくありません」(若林弁護士)
とはいえ、知名度の高い有名AV女優の場合は、当然収入も一般的な職業よりは多いことが予想できる。経済面ではむしろ安定していると考えられる気もするが、それでも賃貸物件は借りにくいものなのだろうか。
「そういった点を見て貸してくれる貸主もいるでしょうが、たとえ知名度や収入が高くても、やはり職業的な属性から一般の方よりは借りにくいと思われます」(若林弁護士)
さまざまな職業で賃貸物件を借りにくい事実はあるが、なかでもやはり性産業や夜職に携わる人間のほうが、より賃貸物件を借りる面では不利な実情はあるわけだ。
どうしても賃貸物件が借りられない場合であっても、職業を偽ることや、いわゆるアリバイ会社(※)を利用することは避けるべきだと忠告する。
※その会社の従業員ということにしてアリバイ資料などを作成してくれる会社
「職業を偽って物件を借りると、詐欺罪になる可能性があります。また、過去にアリバイ会社のメンバーが、書類を偽造して賃貸契約を結ばせたとして詐欺罪で逮捕された事例もあります」(若林弁護士)
近年では「水商売専門不動産会社」も複数存在しており、利用すれば性産業や夜職の人間でも借りられる物件を紹介してくれる。しかし、こちらの利用に際しては注意が必要だという。
「なかには違法なアリバイ会社と提携しているような不動産会社もあります。
どうしても水商売専門不動産会社を利用するなら、その際は、しっかり情報を集めて安全な会社を選ぶことが賢明です」(若林弁護士)
「誰もが生きていきやすい社会」を作り上げることを目指すべき今回の論争では、賃貸物件が借りにくい職業の対策として「UR賃貸」など、公的な賃貸住宅を増加させるといいのでは、とのコメントも見られた。
これに対して賛成もある一方、「AV女優なんだから物件を借りにくいのは当たり前なのに、行政に頼るのはおかしい」「借りられる職業に転職すればいい」といった意見も散見した。
こうした声は「自分のことは自分で解決しろ」という自己責任論に基づくものであり、今回の論争がこれまで以上に盛り上がったのは、こうした「自己責任なのに文句を言うな」と考える人々の心を刺激したため、と考えられる。
この意見は、正しいとは言い難い部分がある。
なぜなら、「自分は問題なく賃貸物件を借りられるのだから、借りられないのは借りられない人間に責任がある」という考えから生じている意見であるためだ。
もし自分が突然無職になったら、障害を抱える身体になったら、シングルマザー・ファザーになったら……そういった借りづらい人に降りかかっている問題に寄り添う視点が、この意見には欠落している。
人間は誰でも、生きていれば年を重ね、いつかは高齢者になる。
そんな高齢者が賃貸物件に入居しようとしても審査に落ち続け、なかなか入居できない現実がある以上、この問題を「他人事」のように考えるべきではないだろう。
いつ自分の身に、今回「自己責任」として切り捨てたAV女優と同じ状況が訪れるかもしれないためだ。
むしろ「そういった状況があるのなら、どんな立場の人間でも借りやすいUR賃貸住宅を今後増やしていく必要がある」と考え、世論に訴えていくべきではないだろうか。
「AV女優だから」などと思考停止に陥ることなく、いつか自分が痛い目に遭う可能性にも想像力を働かせ、誰もが生きやすい社会を作り上げていく。苦しんでいる人を自己責任で片づける論調は、社会を息苦しく、生きづらくするだけだ。
<蒼樹リュウスケ>
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター。
