「人類のため」はウソだった…イーロン・マスクが裁判で暴露した時価総額100兆超「OpenAI」創業者の”ウラの目的”
先月末から米カリフォルニア州オークランドの連邦地方裁判所で始まった、イーロン・マスク氏とサム・アルトマン氏らOpenAI関係者による巨額の法廷闘争。世界のIT産業とAI(人工知能)の未来を左右する歴史的な裁判は、今週月曜「時効によりマスク氏の訴えを却下する」という呆気ない幕切れに終わった。
これは事実上、アルトマン氏らOpenAI側の勝訴である。ここに至る経緯を追うと、OpenAIやグーグルなどトップ企業によるAI開発競争の実態と今後の行く末が見えて来る。
時価総額100兆円を超える営利企業へ
事の始まりは2015年12月に遡る。イーロン・マスク、サム・アルトマン(現OpenAI・CEO)、グレッグ・ブロックマン氏(同社長)ら6名の実業家・技術者らは、当時AIの研究開発で世界をリードしていたグーグルがAI技術を独占するのを警戒し、それへの対抗軸として非営利の研究団体OpenAIを立ち上げた。
その設立時に彼らの間で交わされた約束は「人類の利益に資する安全なAIを開発し、その成果を人類(世界)に無償で公開する」という利他的なものだった。
しかし間もなく、生成AIなど現代AIの基盤となる「大規模言語モデル(LLM)」の開発・運用には、膨大なコンピューティング資源と天文学的な資金が必要になることが判明。ここから組織の方向性をめぐる激しい内部抗争が起き、その権力争いでアルトマン氏らに敗れたマスク氏は2018年、OpenAIを離脱することになった。
その後、アルトマンとブロックマン両氏ら経営陣は、LLMに必要な巨額の資金を調達するために「利益上限付き(Capped-profit)」の営利子会社「OpenAI LP」を設立。これを当初の非営利団体「OpenAI Inc.」の傘下に置く、という奇策に出た。
こうして奇妙な統治形態に生まれ変わったOpenAIは同じく2018年、マイクロソフトから約10億ドル(当時の為替レートで1300億円以上)の巨額出資を引き出し、この資金を元手にLLMの研究開発を進めた。この技術をベースとする「ChatGPT」が2022年11月末にリリースされると、瞬く間に世界的な生成AIブームを巻き起こした。
その後、OpenAIは(創業当初の公益法人的な側面を残しつつも)実質的には、ほぼ完全な営利企業へと再編を進め、その企業価値(株式時価総額)は今や約730億ドル(約110兆円)まで膨れ上がっている。
しかし、これを「慈善団体の略奪」と見なしたマスク氏は2024年にOpenAIとアルトマン氏らを提訴。翌2025年には訴状を修正し、被告にマイクロソフトも追加した。そして先月末、ついにその裁判(公判)の火ぶたが切って落とされたのだ。
この裁判でマスク氏は最大1500〜1800億ドル(21兆円以上)もの損害賠償が(営利企業化された)OpenAIから同社を統治する非営利団体に支払われること、アルトマン氏を同社取締役などの役職から解任すること、さらにOpenAIを本来の非営利研究団体に巻き戻すことなどを求めている。
OpenAIは「慈善団体」強盗
裁判初日、冒頭弁論に臨んだ(マスク氏ら)原告側のスティーヴン・モロ主席弁護士は「(アルトマン氏ら)OpenAIの幹部が慈善事業を盗んだ」と訴えた。
「それは言わば美術館の(内部にある)売店が、館内に展示されているピカソの絵を盗んで売るようなものです。こんなことが許されたら、(OpenAIだけでなく)あらゆる慈善事業は破綻してしまいます」
これに対し(アルトマン氏ら)被告側のウィリアム・サヴィット主席弁護士はマスク氏の提訴を(イソップ童話に由来する)「酸っぱい葡萄」にたとえて次のように批判した。
「マスクは負け惜しみを言っているに過ぎません。そもそも彼が我儘(わがまま)を通そうとするから、こんな事態になったんです。私のクライアント(アルトマン、ブロックマン氏ら)はマスクがいなくなった後も勇気をもってOpenAIを経営し、それを成功させました。マスクはそれが気に入らないだけです」
同弁護士は続けて「マイクロソフトが2018年にOpenAIに10億ドルを投資したときも、マスクは最初何も言いませんでした。彼がブツブツ不平を言って(OpenAIやアルトマン氏を)攻撃し始めたのは、(2023年に)ChatGPTが世界的に大ヒットした後のことです。つまり彼は嫉妬しているだけです」と述べた。
イーロン・マスクは「きこり」だった
この冒頭弁論の翌日となる公判2日目の証言台には、マスク氏本人が原告側による最初の証人として立った。
この証言台でマスク氏は、かつて一時的に「樵(きこり)」として働いていた経験も含め、OpenAI設立に至るまでの自身の形成期について語った。これには法廷内にいた多くの人たちが驚かされた。
マスク氏は「私は冷酷なビジネスマンではなく、(樵のような)多様な経験をもとに『人類を助けたい』という信念を持つに至ったのです」と訴えた。こうして延々と30分以上も自分の人生について語り続けたマスク氏は、そこからOpenAIに攻撃の矛先を向けた。
「この訴訟は極めてシンプルです。『慈善団体を盗むのは許されない』ということです。もしもアルトマンらOpenAI経営陣の行為が許されるなら、アメリカ全土の慈善団体が盗まれることにお墨付きを与えるようなものです」
マスク氏とグーグル創業者との確執
証言台のマスク氏はその後、自身と(グーグル共同創業者の)ラリー・ペイジ氏との間の逸話を披露した。
それによれば、マスク氏がかつて「AIが人類を滅ぼすリスク」についてページ氏と議論した際、ペイジ氏はそのリスクを軽視すると同時に、「もしも(人類に代わって)AIが生き残るなら、それでもいい」と述べたという。
逆にAIよりも人類を優先するマスク氏を、ペイジ氏は「種差別主義者(speciest)」と呼んで非難した(つまりAIも人類と同じく『一つの種族』であり、それを差別するのは良くない、という意味)。このペイジ氏の反応に、マスク氏は強い違和感と激しい憤りを覚えたという。
マスク氏はまた「OpenAIを設立した主な理由は(ペイジ氏が事実上の指揮をとる)グーグルに対抗するためでした」とも打ち明けた。
「あの会社(グーグル)は利益の事しか考えていません。ましてや、その利益を世界と共有しようなどと考えることはあり得ません。ですから私はOpenAIを設立することで、(グーグルに代わって)それをしようと思ったのです」
その後、マスク氏らの設立したOpenAIが当時グーグルに所属していた天才的AI研究者イリヤ・スツケヴァー氏を引き抜いたことにペイジ氏は激怒した。これ以降、マスク氏とペイジ氏は一切口をきかなくなり、今でも絶交状態が続いているとマスク氏は証言した。
