『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』太田友嗣 (著) /産業編集センター

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日本って熱帯雨林気候だっけ? と思わず聞きたくなるほど、今年の夏は暑く、突然の豪雨などが多く見られ、夏が好きな私ですら「もう暑いの飽きた。雨めんどくさい」と地球に対する暴言を言ってしまうくらい心も体もぐったりしてしまう日々が続いた。

結果、いわゆる夏バテに近い症状となり、なんだかひどく疲れてしまったので気分転換にと立ち寄った書店でこの『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』を目にしたのだが、かわいいおばあちゃまたちが一斉に笑顔で携帯を空に掲げる画像を目にした瞬間、実におもしろい! と思い、すぐに手にとってしまった。

東京スカイツリー、それは634メートルの高さを有し、36,000トンの重さで東京都墨田区に聳え立ち、電波塔の役割も果たす超巨大タワーである。東京の新たな観光名所として名を馳せているこの場所には、日本全国はもちろん、海外からもたくさんの観光客が日々足を運んでいる。

私は実際に足を運んだことがないが、東京スカイツリーの袂では、その超巨大な全体像を写真に収めるべく、アクロバティックかつメッセージ性の高いポーズになることも厭わず奮闘している方々が、どうやらたくさんいるらしい。

そして、そのように頑張って撮影している人を微笑ましく撮影している方が多いことに気づき、この『現象』を世の皆さんに共有したいッ! と著者の太田友嗣さんが思ったのがきっかけでこの書籍は誕生した。いやはや、実におもしろい。

著者の太田友嗣さんは書籍作成に当たり、写真を撮られている方に掲載許可も含めインタビューをされたそうだが、様々な人がいらっしゃったそうだ。その中でも印象に残っている人について聞いてみた。

「すべての被写体の方々に人生のストーリーがあり、とても興味深かったですが、海外に住んでらっしゃる日本人の方が訪れるケースが多かったです。また子育てがひと段落した姉妹グループの方も多く『女性の姉妹は時が経っても仲がいいなぁ』微笑ましく思いました。微笑ましいといえば、近所の散歩仲間と来ました、というおばあちゃんグループもかわいかったですね。あと、個別で印象深かったのは『東武鉄道オタク』のおじいさんですね。最初は興味深く聞いていたのですが、聞いているうちに話がマニアックになってきて、ついていくのが大変でした(汗)」

書籍を見ていても、本当に多種多様な人々が写真撮影をしている様子が撮影されており、まるで禅問答のようなタイトルの書籍だが、実際のところは見ているだけで疲れた体と脳みそがいい具合に脱力していくのを感じる。

近所の散歩仲間と来たというおばあちゃまグループはこれかなぁと想像しつつ書籍を見ていると、さらにいい具合に心も体も脱力して、いつの間にか顔にアルカイックスマイルすら浮かぶ勢いだ。

写真の分類も「男子シングルス」「ダブルス」「団体戦」や他にも「外国人枠」と楽しく分けられており、その写真一つひとつにも「アグレッシブ」「21世紀」「LOVE&PEACE」「メッセージ」「紳士淑女」などレーダーチャートによって評価がついている。実におもしろい。

個人的には疲れた心と体、脳みそのリフレッシュにオススメしたい一品だが著者の太田さんにこの書籍をオススメしたい方は? と聞いてみたところ、なんともニッチなマーケットを提案してくださった。

「同棲中でちょっと最近うまくいってないカップルの方におススメしたいです(笑)。自分も経験があるのですが、同棲している部屋って必ずしも大きな部屋ではなかったりしますが、そこにこの本が1冊置いてあって、それがきっかけで会話が始まったりしたら、本当に私は本望です!」

太田さんが、この実におもしろい書籍を作ったのが垣間見えるコメントに思わずにやりとしてしまったが、確かに本書を自宅に置いていたらたまたま遊びに来ていた彼が「なにこれ!目のつけどころがいいね!」と話しだし、話題のきっかけとなったことを思い出した。仲直りのきっかけではなくても、最近会話がないカップルやご夫婦にも話をするとっかかりになるはずだ。

坂本九さんの名曲で『上を向いて歩こう』というものがあるが、上を向いて写真を撮っているみなさんは一様にとても良い顔をしている。夏の疲れをリフレッシュしたい方にも、頭を使いすぎて疲労困憊の方にも、倦怠期に差し掛かったご夫婦やカップルにもぜひともこのアグレッシブなポーズで笑顔を振りまくみなさんの写真をオススメしたい。

また、東京スカイツリーに行ったことがある人には新たな楽しみ方の一つとして、まだ行ったことのない人には行くときの楽しみのひとつとしてこの書籍を参照してみてはどうだろうか。新たなるアグレッシブかつ愛にあふれた撮影姿をした方々が東京スカイツリーの袂に増えることを楽しみにしている。
(梶原みのり/boox)