《浪花節だよ全東信》最大債権者「近畿産業信用組合」が融資を止められなかった「たったひとつの仮説」

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全国トップクラスの巨大信用組合がなぜ…?

クレジットカード決済代行サービスを行ってきた「全東信」の破産手続開始から、まもなく1ヵ月が経とうとしている。取引先の飲食店らもさることながら、同社の金融債権者にあたる全国の地方銀行や信用金庫、信用組合にも影響が広がっている。

たとえば債権者の一行、島根銀行は7月29日に今年度の第1四半期決算(2026年4月〜6月)を発表したが、最終的な利益は7億9400万円の赤字となり、実に“25期ぶりの赤字”となった。同行は「全東信の破綻の影響で赤字となったものの収益基盤は安定していて順調に推移している」としているが、債権の取り立てができなくなる可能性を鑑みれば、やはり不安は拭いきれない――。

東京商工リサーチによれば、全東信の金融債権者は63社、負債総額は1151億円にものぼるという。この報道に際して、世間の注目を集めたのが、いわゆるメガバンクら大手金融機関が全東信との取引を縮小・撤退していた一方、多くの地銀や信金、信組が融資を続けていた点だ。

そのため、金融庁や金融業界の関係者らからは「なぜ全東信の与信管理をきちんとできなかったのか」とする批判の声が挙がったと聞く。中でも批判の的となったのが、約219億円もの債権額を有する最大債権者「近畿産業信用組合」、通称「きんさん」だった。

筆者のような関西圏以外の人間には馴染みが薄いと思われる「きんさん」だが、同社は預金量1兆6079億円、貸出金1兆2047億円(2025年3月期)を誇る、全国トップクラスの巨大信用組合だ。それだけに「なぜ全東信の業績悪化や架空計上を、これほどの金融機関が見抜けなかったのか」という疑問が残る。

「きんさん」を救ったMKタクシーという存在

その理由に近づくためには、まずは「きんさん」の成り立ちと、今日に至るまでの歴史を知る必要がある。

「きんさん」の歴史は、1953年、京都市で芸術家や芸能家、芸術愛好家の職域信用組合「日本芸術家信用組合」として設立されたことから始まる。その後、「日芸信用組合」、「京都シティ信用組合」と名称の変更がありつつ、2000年に経営難に陥るのだが、ここで経営支援という形で手を差し伸べたのが「MKタクシー」(MKグループ)の創業者である、故・青木定雄氏その人だった。

ここでMKタクシーについても触れておきたい。同社は1960年に京都で創業した「ミナミタクシー」をルーツとしている。その後1963年に同じく京都にあった「桂タクシー」の経営権を譲受し、1977年に合併。同年、2つの頭文字を取って「MK(エムケイ)」とし、エムケイ株式会社を設立し、今に至っている。

さて青木氏率いるMKタクシーは、昔から高いと批判されていたタクシーの基本運賃を京都で唯一、値下げ活動を行っていた会社でも知られる。乗客や地元民からその姿勢を高く評価されており、筆者も京都で働いていた際には「安くてマナーが良い」との評判をよく聞いた。

日本におけるタクシー業界全体の規制緩和も、“業界の異端児”と称された青木氏による運賃値下げ闘争から始まったと言われている。

地域ごとに統一された運賃体系だった業界に一石を投じるべく、1982年にエムケイは当時の運輸省(現国土交通省)を相手取り、運賃値下げ裁判を提起。一審ではエムケイ側が勝訴、二審で和解が成立した結果、1993年に規制緩和され、タクシーの「運賃の多様化と需給の弾力化」が実施された。

両者の蜜月関係は表面上、立ち消えたが…

これを受けて青木氏は一躍有名になったわけだが、その改革実績を引っ提げて、今度は金融機関の支援に乗り出すこととなる。それこそが前述した「きんさん」の救済だったわけだ。

「きんさん」の代表理事会長となった青木氏は2001年以降、大阪商銀をはじめ、京都商銀や関西興銀の事業譲渡を受け、同社の営業基盤拡大を図っている。

ちなみにこの時、パチンコ国内最大手「マルハン」の創業者・韓昌祐氏を代表とする「ドラゴン銀行」との間で競争入札が繰り広げられたのだが、青木氏サイドに軍配が上がる。それだけ「きんさん」再生への本気度は高かったのだろう。そして2005年にはエムケイの経営を息子に承継し、自身は「きんさん」の会長職に専念したというわけだ。

こうしてMKタクシーと「きんさん」との間でしばらく続いた蜜月関係だったが、ほどなくして解消されてしまう。原因は、引き継いだ信用組合の破綻処理に公的資金が投入されていたため、近畿財務局の検査が毎年入っていたのだが、その中で不適切な行為が発覚したためだ。

それは、ファミリー企業への不明朗融資、青木氏に利する違法融資、公私混同の経費処理などで、これにより2004年に業務改善命令を受けている。また、青木氏の三男を組合理事長に昇格させるという「世襲による組合の私物化」も問題視され、青木氏も2013年の理事会において「きんさん」の会長職を解任。同社から青木ファミリーは一掃されたというわけだ。

全東信もタクシーも“夜の街”には欠かせない

ここまでの時点で、ある考えを導くことができる。それは「きんさん」とエムケイ、ひいてはMKタクシーとの深いつながりだ。今でこそ両者の直接的なつながりは見られないが、「きんさん」の発展は青木氏の功績によるものが大きく、長い歴史に基づいた強い結びつきがある。

周知の通り「全東信」の加盟店には、キャバクラやクラブ、スナックといった水商売の店が多く、いわゆる“夜の街”から頼られる存在だった。そしてMKタクシーもまた、関西圏の夜の街界隈に必要不可欠な存在でもあった。

全東信がダメになれば、当然夜の街の客足は減少し、その結果、「恩義ある」MKタクシーにまで影響が及んでしまう――。「きんさん」にとって全東信への巨額融資は、イコール中小飲食店事業者への間接的な資金繰り支援、そしてMKタクシーへの“還元”だったというわけだ。

全東信の業績悪化を「きんさん」が事前に見抜けていたか否かは分からない。だが仮に、見抜けていても融資を止められなかった状況だとしたら……。そこには“浪花節”とでも言うべきか、ある種の義理人情が重くのしかかっていたのかもしれない。

全東信の破産後、経営への影響を心配される「きんさん」だが、以前から内部留保の積み上げで常に不測の事態に備えてきた。盤石な財政基盤ゆえ、現在も特別相談窓口を設置し、売上代金の入金遅延やキャッシュレス決済手段の確保などに懸念が生じる可能性のある事業者支援に取り組んでいる。今回の処理で大変だろうが、せめて中小事業者への積極的な支援継続を期待したい。

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