相次ぐ不祥事の遠因は

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 侍ジャパンの戦いに注目が集まる一方で、このオフの野球界では不祥事が相次いだ。プロ野球からアマチュア球界まで、立て続けに問題が発覚し、球界の体質を問う声も上がっている。春季キャンプ直前の1月27日、羽月隆太郎(広島)が指定薬物エトミデート、通称「ゾンビたばこ」を使用したとして広島県警に逮捕された。2月17日には広島地検が薬機法違反の容疑で起訴。これを受けて広島球団は24日、羽月との契約を解除している。【西尾典文/野球ライター】

【写真】“ゾンビたばこ”使用で起訴された羽月隆太郎被告とゾンビたばこの姿

上手ければ他が疎かでも許される風潮

 さらに3月4日には宮城県警が浅村栄斗(楽天)とコーチ2人をオンラインカジノで賭博をした疑いで書類送検したことが明らかになった。オンラインカジノを巡っては昨年2月、山岡泰輔(オリックス)の利用が明らかになり大きな騒動となった。調査の過程では選手、コーチ、球団関係者を含め10人以上の利用が判明している。

相次ぐ不祥事の遠因は

 3月9日には2024年まで中日でプレーしていた上田洸太朗が知人女性のショルダーバッグを盗んだ疑いで逮捕された。アマチュア球界でも2月、日大三の野球部員2人が女子生徒にわいせつな動画を送らせて拡散したとして書類送検され、同校は春季東京都大会の出場辞退を決めている。

 こうしたプロ野球選手や野球部を巡る不祥事は毎年のように起きている。なぜ同じ問題が繰り返されるのだろうか。甲子園出場経験があり、指導した選手がプロでもプレーしているある指導者に話を聞くと、次のような答えが返ってきた。

「ゾンビたばこやオンラインカジノは野球選手だけの問題ではなく社会問題だという点は最初に言っておきたいですね。ただ、こうした出来事が起きた時に注目されるのは、良くも悪くも、野球選手や野球部の注目度が高いからだと思います。さらにプレーが上手ければ他のことが多少疎かでも許されるような風潮があるのではないでしょうか。特に高校野球は一気に注目度が上がり、学校や周囲のバックアップが他の部活とは比べ物にならないことも珍しくありません。閉ざされた寮生活の中では部内のルールや空気が最優先となり、一般的な感覚とかけ離れてしまうチームもあります。伝統や注目度の高さは素晴らしいことですが、その反面で良くない部分が受け継がれている面もあると思います」

 以前、大学からドラフト1位でプロ入りした選手を取材した際、野球用具は中学時代から将来有望と見られて支援を受けており、自分で購入したことがないと話していた。普通の学生とは大きく異なる環境で育つことが、一般社会との感覚のズレにつながる側面があるのかもしれない。

「野球界の常識は一般社会の非常識」という言葉を耳にすることがある。学生時代から野球だけに打ち込み、閉ざされた世界で生きてきたことが影響している面は少なからずあるはずだ。

光が強い世界ほど影も濃くなる

 プロ野球選手を取り巻く環境が、不祥事の一因になっているという指摘もある。コーチ経験のある球界OBはこう語る。

「ある程度活躍した選手や将来有望な選手には、いろいろな人が近づいてきます。いわゆる“タニマチ”ですね。純粋に応援してくれる人がいる一方で、選手を利用しようとする人もいます。若い頃に食事などを奢って恩を売り、いざという時に頼みを断りづらくするわけです。学生時代に野球しかしてこず、世間をよく知らない選手は簡単に乗ってしまう。金銭面や人間関係のトラブルを抱えるケースも珍しくありません。最近はNPBや球団が入団時に研修を行っていますが、最終的には本人の問題でもあり、完全に防ぐのは難しい部分があります」

 DeNAの南場智子オーナーがルーキーに向けた講義で「いろんな誘惑があります。信じられないほど華やかな世界ですから」と語ったことも話題となった。成功すれば一般社会とはかけ離れた報酬を得られる一方、多くの誘惑に囲まれる環境が不祥事を生みやすい要因になっている可能性がある。

 もちろんスポーツ選手の不祥事は野球だけの問題ではない。昨年10月には日本サッカー協会の影山雅永技術委員長が児童ポルノ閲覧の容疑でフランス当局に拘束され、有罪判決を受けた。大学スポーツでも流通経済大サッカー部員の違法薬物使用、日本体育大レスリング部員の薬物問題などが報じられている。

 ただ、野球は特に注目度が高い競技である。それだけに問題が起きた時の社会の視線はより厳しくなる。

 光が強い世界ほど影も濃くなる――。そんな言葉を思い起こさせる出来事が、このオフの野球界では相次いだ。高校野球からプロまで、多くの子どもたちが憧れる存在であるだけに、球界全体でこうした問題をどう防いでいくのか。今あらためて、その姿勢が問われている。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。