オトクに見えるセットには落とし穴が潜んでいる!?(撮影:今 祥雄)

正月に各店の福袋をチェックしていたところ、不意に思い当たったことがある。「これは、福袋という名のついたセット販売かもしれない」と。

オトクそうな響きのある「セット」

「お得セット」「ラッキーセット」「バリューセット」等々、セットという響きはオトク感を感じさせる。同じものを単品でバラバラに買うよりは安いはず、と我々は無意識に思っているからだ。節約志向の強い人なら、なるべくオトクなものを選びたいと思うものだが、それなら単品で買うよりセットを、という選択は正しいのだろうか。オトクに見えるセットに潜む落とし穴について考えてみよう。


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セット販売には、売る側にとって2つのメリットがあるだろう。1つは、セットとして値付けをすることで、最初に大きなおカネを払ってもらえる点。

たとえば、居酒屋のメニューに「ビール+おつまみ2品で晩酌セット980円」があれば、なんとなくオトクな気がして、つい頼んでしまうもの。しかも、こうしたセットは1人ずつ頼むので、人数分の売り上げが計上できる。つまみを普通に頼めばシェアできて、もっと安く済む可能性もあるかもしれないのに、だ。

ランチセットやファストフードのセットも同様だ。単品ずつ買えば、もっと高くなると考えると、割安に見え、人はついついセットで頼んでしまう。サイドメニューはいらないので、ハンバーガーは絶対セットにしない、単品と小サイズのコーヒーを買ったほうが安く済むと豪語する人も中にはいるが、たいていの人はオトク感でセットをオーダーしているのではないか。

もう1つは、店にとって売りたいものや処分したいものをセットに組み入れることができる点だ。

最初に書いた福袋を例にすればわかりやすいだろう。欲しくなるような目玉商品を必ず入れておき、できれば早く売り切りたいものを一緒に忍ばせておく。必ずこれが入っています、という目玉、つまりスターでお客を引きつけておき、ほかの商品も引き取っていただければ余剰の在庫がはけてありがたい、となる。こちらは、売り上げを稼ぐ目的より、どんどん量を買ってほしいというところだろうか。

ビジネスホテルのプランなどでも、セットを見掛ける。クオカード付き、レジャー施設のチケット付き、缶ビール付きプランなど、ちょっとした「おまけ」がセットになっていると、つい目がそちらに向く。本来はそのおまけの代金を引いたあとの金額で泊まれるホテルを予約すれば実は値段は同じという場合もあるだろうが、いかんせんおまけありのほうが魅力的に映る。これも、目玉をエサに業者側が売りたいものを売るというパターンの変形だろう。

好きなものを選べるならセットもオトク?

筆者はよく串カツ屋で「晩酌セット」を頼む。これは、ビールと串カツ数種の組み合わせだが、串カツのネタ自体は店のおまかせだ。おまかせというのは店の都合次第でネタを決められるのだから、こちらの分が悪い。単品ではあまり売れないネタが潜ませてあるかもしれないからだ。

では、「自分で選べるセットなら、好きなものを頼めてトクなのでは?」という声もあるだろう。たとえば、「5品のうちから、好きなつまみを2つ選んでください」というパターンだ。一見、それは消費者側に選択権があるように思えるが、本当にそうだろうか。そうも言い切れない。なぜなら、その選べる5品は店側が決めているわけだからだ。

このラインナップは、「早く売ってしまいたい」つまみなのかもしれないし、あるいは原価が安く、利益率が高いつまみばかりそろえているかもしれない。客が「好きなものを選んだ」のではなく、店が「選んでほしいものの中から選んでもらった」というのが正解だろう。

洋服や靴下などの「よりどり3品買い」も、品物の選択権は客のほうにあるが、賢い買い物とは言い切れないというのが筆者のスタンスだ。3品買えば10%オフと聞いて、不要な2品目3品目を買うのは、結局ムダ遣いにつながるからだ。特に、3という数字は絶妙で、安く買えてしかも3品も手に入る、と聞くと2品買うよりオトクな気がする。

ちょっと脱線するようだが、恋愛マンガでヒロインが恋人の選択に迷うのは、誠実で一途なイケメンか、どこか悪っぽくて取り巻きも多いイケメンかの2人であり、もう1人、それと同等に存在感を発揮できる3人目のイケメンを登場させるのは、かなり難しい。恋愛マンガでも買い物でも、ナンバースリーはいなくてもよく、いても数合わせになることが多いと言えるのではないだろうか。

しかし、居酒屋で晩酌セットをついつい頼んだり、それほどほしくなかったものまで3品買ったりというのは、それほど目くじらを立てることではないかもしれない。本当に注意が必要なのは、毎月払い続ける「料金プラン」のセットだろう。

たとえば、ケータイとネット料金のセットや、ガスと電気のセットなどがそれだ。こうしたサービスは日々価格競争が行われており、安いプランや業者が次々登場するものだが、セット契約の場合は見直しが難しい。どちらかだけ外す、ということは、セットという構造上なかなかできなくなっているからだ。

以前、ガスと電気のセットプランについて取材をした際、こんな話も聞いた。割引を目玉にしたプランとして、ガスAコースと電気Aコースがセットになっているとしよう。しかし実は、この電気Aコースは、ほかのコースよりもともとの料金設定が高いのだという。もっと安い電気Bコースを現在使用している人が、セット割引のためにそっちに乗り換えることがいちばんトクかというとそうでもない。安いガスのコースを単体で探してきて、ガスと電気を別々に契約したほうが、このセットプランよりさらに安くなる可能性があるというのだ。

セットになると、途端にプランの実態が見えなくなる。見えたとしても、判断が鈍る。セット料金を見たときは、割引の文字に思考停止することなく、中身をじっくり吟味すべきだろう。毎月払い続けて固定費になるようなものならなおさらだ。

では、トクするセットの利用法は?

じゃあ、セットはすべてソンなのか? もちろん、すべてがそうとも言えない。選び方次第で、賢い買い方にも変えられる。

たとえば3品セット買いの場合。3品バラバラのものを買うのではなく、同じものを2つ、あるいは3つ使えばサブのストックとして使えるだろう。靴下なら、うち同じ色を2足買えば、片方に穴が開いても両方捨てずに済む。3種類別々のものを選ぼうとすると、つい大して気に入らないものまで買ってしまったりと苦労するが、2品プラス同じもの1つ、と考えれば失敗は少なくできる。

また逆に、自分が「売り手」の側になるときは、このセット販売を利用しない手はない。ネットオークションの達人などには、この特性を活用している人もいる。商品のパッケージに1つ目玉になる商品を入れ、ほかに単品では高く売れない品を組み合わせることで、そこそこいい売り値することもできる。

キャラクターシャツ5枚入りセットなど、まとめ売りにして量でお得感を出して高めに売る方法もあるだろう。趣味に使うものを何品か売りたいなら「初心者向けセット」と名付けてインパクトを出すのもいいかもしれないし、まさにアイデア次第だ。

最後に、先日筆者が遭遇した激安セット販売について記しておこう。地方都市でフラッと入ってみた地場の100円ショップで、「ペットボトル飲料よりどり2本で100円」という表示に出合って驚いた。これまで100円ショップのペットボトル飲料は通常100円以下には値下げできないため、ほかの小売店が激安価格をつけると価格面で負けてしまっていたのが、なるほどこの手があったわけだ。

さすがの筆者も、必ず飲む飲料で、2本で100円という安さであれば、ムダ出費とまでは言えない。さらに、手袋・マフラーなど衣料雑貨のよりどり2品で100円コーナーがあり、ここでもついつい2品購入してしまった。セット販売でも、100円ショップは最強かもしれない。