【加藤 久美子】【大阪万博で独占受注のバス会社】「EVモーターズ・ジャパン」の事業譲受をする企業が現れた…「不具合連発のEVバス会社」を支援するワケ
不具合が連発していたEVバス
今年3月末、大阪メトロは万博関連バスとして購入したEVバス約190台を、すべて使用中止にすると発表した。現在、バスの多くは富山県内の巨大リサイクル工場に移動している。
EVバスを輸入販売したのは、北九州市に本社を置く株式会社EVモーターズ・ジャパン(以下・EVMJ)だ。同社のバスは高価格に設定されており、大阪メトロの購入費用は総額約90億円に上った。ただ一方で、40億円以上の補助金も出ていた。
万博に一社独占で公式採用された初の国産EVバスという実績を持って、EVMJは全国の自治体やバス会社にも盛んに営業を行っていた。しかし、EVMJバスの品質は低く、万博バスでは2023年から早くもブレーキホースなど重要保安部品の不具合や欠陥が多発していた。カタログに記載された航続可能距離は290キロなのに、実際は100キロ以下しか走らないといった不満もドライバーから続出。高額な充電器もほぼ使い物にならなかった。
さらに昨年9月1日には、大阪市内で導入されていた「愛中和E1」という超小型バスで、ハンドルが効かず分離帯に激突する事故が発生。大阪メトロでは事故翌日から愛中和E1の使用をすべて中止し、その後復活もしていない。
そのほか、全国各地でブレーキチャンバーの脱落やモーターフランジの破断、溶接不足による部品脱落など不具合が続出していた。
この状況を受け、2025年9月、国交省もついに317台の全台検査を命じ、35%にあたる113台で不具合が見つかっている。
ちなみに、EVMJバスは中国では販売も走行できていない。最低限の安全基準である「3C認証」を取得していないためだ。「輸出専用」としてのみ中国内での製造が許可されている。
EVMJを事業譲受した会社とは…
EVMJに対しては、3月末に大阪メトロから「190台不使用宣言」が出されたうえ、「契約解除による約100億円の購入代金の返還」も求められていた。EVMJは4月中旬に東京地裁へ民事再生法の適用を申請。負債総額は約57億円に上った。
そんななか、8月4日夕方、衝撃のニュースが入ってきた。EVMJの事業を譲受する会社が公表されたのだ。
事業を譲受する会社は1947年創業の自動車部品会社「イクヨ」である。負債57億円をのぞき、EVMJバス事業を譲受するという。リリースでは〈EVMJが保有する土地、建物、機械、設備等の EV バス事業に関する資産を同社より取得する予定〉としている。加えて、EVMJが販売した EV バスの製品保証も承継する。
なお、EVMJの事業譲受についてはこの3ヵ月間、様々な憶測が飛び交っていた。具体的な会社名があがったことも3〜4社ある。とくに、中国との自動車ビジネスを行う企業にとってはEVMJ本社(北九州市若松区)の立地は魅力的だ。中国からの車両を載せたRO-RO船(車両が自走で乗降できる構造の船)が週2〜3回到着する下関港からは、40〜50分で移動が可能。小規模ながらテストコースも備わっており、巨大な工場も魅力的だ。ちなみにEVMJは'22年頃、この工場で年間1600台のEVバスを生産すると発表していたが、現在まで1台も生産されていない。100億円かけた巨大工場は全国から返品されてきた電気バスで埋め尽くされている。
EV全体のイメージが悪くなってしまう
譲受を発表したイクヨのトップは孫峰氏(49歳)。WeChatで孫氏に連絡すると、すぐに返事があった。EVMJの事業譲受について取締役会で決議されたという。その後、孫氏から電話があり、約1時間にわたり話を聞いた。
孫氏が語る。
「国交省の全数検査の結果からも、品質が充分でないEVバスがあることはわかっています。本当に大阪メトロ様にも大変な迷惑を掛けました。税金の無駄遣いと思われることもあったでしょう。大阪メトロは大きな会社ですから190台の不使用を決定できました。安全を第一に考えた勇気ある素晴らしい決断だと思います。しかし、小規模なバス事業者や地方自治体は品質に不安があってもすぐに使用をやめることは難しい。予算的な問題もあるでしょうし、配車の調整も困難です。補助金返還も気になるところでしょう。だからまずは、現在も走っているEVMJバスを不安なく使用できるようメンテナンス体制を整えます。そして、EVMJ社員(現在は約60名)の雇用を守ること。まずはここからだと考えています」
現段階で公表できることは少ないとのことであったが、EVMJの事業譲受をした後、目指すところについても語ってくれた。
「日本は欧米やアジアの国と比較してEVの普及がかなり遅れています。その理由の一つにEVの品質があります。
EVMJバスのように低品質のバスが万博で使われ、全国各地で不具合やトラブルも多数発生しており、このままでは、EVバスはもちろん、EV全体のイメージが悪くなってしまいます。日本においてもきちんとEVのメンテナンスができること。安全で使いやすい公共交通として定着し、日本で信用を重ねていくことが健全なEV普及につながると考えています」
孫氏によると譲渡実行は11月ごろを予定しているが、「遅くとも年内には実行を完了したい」とのことだった。孫氏に話を聞いた範囲では、EVMJに対するデューデリジェンスがしっかりと行われたのかどうか、気になる点がいくつかあった。譲渡が実行されるまでに、もうひと波乱あるかもしれない。
孫氏によると、譲渡実行は11月ごろを予定しているが、遅くとも年内には実行を完了したいとのこと。「EVMJにデューデリジェンスはしっかりしましたが、まだ不明な点などもあります。 11月の正式譲渡までにすべて確認し、クリアして行きたいと思います。そして、外部専門家と既存従業スタッフの力を合わせて、全力でメンテンナスをし、保修サービスできる安心安全体制を構築します」と語った。
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