【小林 雅一】AIが仕事を奪うはウソだった…米国の有力研究所が明らかにした「AI導入企業は雇用が拡大」驚きの実態

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生成AIの急速な普及に伴い、世界中の経済や労働市場にどんな影響が出るかについて激しい議論が続いている。一般的には「AIが人間の仕事を奪い、大量の失業者が発生するのではないか」という懸念の方が優勢だ。

しかし、その一方で「AIを積極的に導入している企業ほど、皮肉にも従来より多くの人員を雇用している」という一見矛盾した調査結果も報告されている。

実際のAI支出・雇用データに基づく

アメリカのランプ経済研究所は今年6月、「AIの雇用への影響を見直す(A New Look at AI’s Impact on Jobs)」と題する調査結果(レポート)を発表した。

この調査は、従来のアンケート調査をベースにした単なる推測とは対照的に、米国内の2万1559社から取得した実際の雇用・支出データに基づいている。そこには「AIを導入した企業はAIを導入しなかった企業よりも雇用を拡大している」という傾向が如実に現れている。

具体的には、従業員一人当たりの(トークン使用量など)AI支出額が最も大きい上位「3分の1」の企業(高強度の導入企業)では、AI導入後の24か月間で総従業員数が平均10.2パーセント増加した。

これに対し、AI支出の少ない「低強度の導入企業」では、統計的に優位な雇用の変化は見られなかったという。

また「AIがベテラン従業員など高スキル層の生産性を高め、逆に経験の浅い労働者を代替する」という一般の先入観や既成概念に反し、実際には高強度のAI導入企業ではエントリー・レベルの従業員数が12パーセント増加していた。

これらは職種を問わない広範な雇用拡大である。つまりAIの影響を直接受けると予想されるプログラミングなど開発業務(24か月間で11.4パーセント増)だけに止まらない。実際には営業(同9.5パーセント増)、管理・事務(7.8パーセント増)、カスタマー・サービス(8.2パーセント増)、財務・ファイナンス(6.5パーセント増)など、AIの導入による雇用拡大は幅広い職種に及んでいる。

AI導入で市場競争に勝つと仕事が増えて雇用も増える

以上の調査結果は本来「業務の省力化・効率化」を目的としたAIの導入が、逆に「雇用の拡大」につながる、という一見矛盾した傾向を示している。

これは一体、何故なのか?

最近の「AIエージェント」をはじめとするAIは、確かにコーディングや特定の定型業務を代替し、導入の初期段階において圧倒的な効率化をもたらす。

しかし、その結果として企業の競争力が高まり、市場シェアが拡大して仕事量が増加すると、企業は単に「既存の業務をAIに置き換える」だけでは済まなくなる。拡大した業務を管理・統括するためには、強力な業務用ツールとしてのAIをさらに買い足すだけでは不十分であり、どうしても「人的なリソース」が必要になるのだ。

なぜなら、ビジネスの拡大に伴って発生する複雑な問題解決、戦略的な判断、高度で微妙な顧客対応、そして組織のマネジメントや創造性を要する専門職などの領域は、現段階のAIでは完全に代替することができないからだ。

つまりAI導入による業務効率化が引き金となってビジネスの規模や市場シェアが拡大した結果、それを支えるために「人間の雇用」の波が後追いで発生する、というサイクルが生じている。

これ以前、世間の一般的な予測では、「AIは定型業務や初歩的なタスクをこなせるため、経験の浅い若手やエントリーレベルの労働者が最も早く解雇されたり、採用を抑制されたりする」と言われてきた。

しかし実際には、AIの導入によって会社の業務やプロジェクトの総量が増加したため、それを下支えするジュニア・スタッフの需要は逆に高まった。特にAIを使いこなす「デジタルネイティブな若手労働者」を企業が積極的に獲得しようとしている。

雇用創出効果にはバラツキがある

以上が(前掲の)ランプ経済レポートにおける主なポイントだが、それは他方で「雇用拡大がすべての産業や企業各社で一様に起きているわけではない」とも指摘している。

まず産業別に見た場合、少なくとも今のところ、AI導入による雇用拡大の大部分は「IT」や「ソフトウエア」など情報システム関連のセクターに集中している。

逆に「製造業」、「小売業」、「ヘルスケア」などの伝統的セクターにおいては、企業がAIを導入したとしても、現時点では総従業員数に統計的に優位なプラス効果は見られなかった、という。

その理由は、情報システム関連の産業が最もデジタル化されており、AIツールを業務プロセスに直接組み込み易いからだ。つまり「生産性の向上」から「事業拡大」へのサイクルが短いため、比較的早い時期に雇用増加のリターンが出ている、と解釈できる。

逆に伝統的な産業(セクター)では、製造や物流などリアルなオペレーションという物理的な制約があるため、AIの恩恵が雇用の増加に直結するまでに比較的長い時間がかかる、と見られる。

これは国別の違いなど、よりマクロな視点からも言える。

コールセンターやITバックオフィス、金融などのサービス・セクターが経済の大部分を占めるインドやアメリカのような国では、AIツールの導入によるプラス効果をダイレクトに受ける。逆に「製造業」に強みを持つ日本のような国では、それらの効果が表出するのは比較的遅いと考えられる。

一方、よりミクロな企業レベルで見ると、現段階において「AIの導入が広範な雇用喪失(大量失業)をもたらしている」とする実証的データは一切存在しないという。むしろ事実はその逆であり、AIに積極投資している企業(前出の高強度導入企業)ほど組織全体の規模を拡大させ、エントリーレベル(若手)の採用も増加させているというのだ。

【後編】→AI時代に恐れるべきは「失業」ではなかった…米国の最新レポートから見えた「本当に取り残される人」の特徴

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