「近いんですが……いいですか?」真夏の午後、70代くらいの女性が申し訳なさそうにそう言ってタクシーに乗り込んできた。行き先は300メートルほど先のマンション。口の悪いSNSユーザーから、「そのくらい歩けばいい」とでも書かれそうな距離である。後部座席に腰を下ろすと、エアコンの風にほっとした表情を見せ、小さく「助かりました」とつぶやいた。その姿を見ていると、「歩けばいい」の一言で済ませてはいけない事情があるこ