対向車線を走行中の大型貨物車と衝突した(heisj / PIXTA)※写真はイメージ

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「会社の飲み会に参加したあとの事故」は、労災になるのか?

この問題は、働く人にとって決して他人事ではない。労災が下りるためには、事故が「業務上」発生したことが必要だが、飲み会は「自由参加」とされていることが多い。しかし、表向きはそうであっても、上司から強く誘われれば、実際には断りにくいことがある。

今回紹介するのは、従業員が歓送迎会に参加したあと、車で事故に遭い亡くなった事件である。

妻が労災を求めたが、労働基準監督署は労災と認めず、地裁・高裁も遺族側の請求を退けた。しかし、最高裁で逆転勝訴。労災にあたると判断された。

以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、金型にクロムメッキを施す事業などを営む会社(従業員7名)の工場で、営業企画などの業務を担当していた。

■ 部長の強引な誘い
12月のある日、部長が突然「明日、子会社の研修生の歓送迎会をやろう」と言い出した。Aさん以外の従業員は全員「参加する」と答えたが、Aさんは仕事が忙しく、この誘いを断った。

しかし、部長は粘った。歓送迎会当日も、再びAさんに対して参加を打診した。Aさんは部長に対して「社長に提出する営業戦略資料を作成しなくてはいけない。明日が提出期限なので参加できない」と答えた。

しかし、まだ部長は粘った。「今日が最後だから、顔を出せるなら、出してくれないか」と言い、さらに「資料が完成していなければ歓送迎会終了後にキミと一緒に資料を作成するから」という趣旨も伝えた。上司にここまで言われたら断れないであろう。

■ 歓送迎会当日
部長は、会社の車で研修生たちを飲食店に送り届けた。そして午後6時30分ころ宴会がスタート。そのころ、Aさんは工場で資料作成をしていた。

「もうこんな時間か、そろそろ行かないと」という感じであろう。Aさんは仕事を一時中断して、作業着のまま会社の車で店へ向かった。

店に到着したのは午後8時ころ。Aさんはその席上で総務課長に対して「終わったら工場に戻って仕事をします」と伝えたところ、課長から「食うだけ食ったらすぐ帰れ」と言われた。隣に座った研修生からビールを勧められても断った。

■ 事故発生
歓送迎会は午後9時すぎにお開きとなった。Aさんは仕事が残っているにもかかわらず、酩酊状態の研修生を車に乗せてアパートまで送り届けることにした。そのあとは工場に戻って仕事をするつもりであった。

しかし、アパートに向かう途中、対向車線を走行中の大型貨物車と衝突し、頭部外傷が原因で亡くなった。

これについて、労働基準監督署が労災と認めなかったため、Aさんの妻は訴訟を提起した。

争点は「この宴会は業務だったのか?」だ。労災が下りるためには、事故が「業務上」発生したことが必要である。

裁判所の判断

結果は、以下のとおりとなった。

× 地裁:妻の敗訴
× 高裁:妻の敗訴
○ 最高裁:妻の勝訴

以下、それぞれの判断について詳しく解説する。

【× 地裁と高裁の判断】

■ 歓送迎会への参加は業務ではない
地裁と高裁は以下の理由により「歓送迎会は従業員有志によって開催された私的な会合だ」「参加に業務遂行性は認められない」と判断した。

〈理由〉

参加を命じられていたとはいえない 不参加により何らかの不利益が生じたともうかがわれない とすれば、参加するかどうかはAさんの自由だった 会社が費用負担したからといって直ちに業務になるものでもない

■ お開き後の運転も業務ではない

私的な会合のあとにXさんが任意に行った運転である

【○ 最高裁の判断】

しかし、最高裁で妻が逆転勝訴した。

■ 業務遂行性が認められるケース
最高裁は、大前提として、過去の最高裁判例を根拠に「事業主の支配下」にあった場合は業務遂行性が認められると提示した。

「労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「災害」)が労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要」(十和田労基署長事件・最高裁昭和59年5月29日判決)

■ 本件に当てはめるとどうか
それを前提として、裁判所は「Xさんは事故の際、会社の支配下にあった。よって業務遂行性あり」と認定した。理由は以下のとおり。

〈理由〉

参加せざるを得ない状況だった(部長からの強い意向で参加を促された) お開き後に工場に戻ることを余儀なくされた状況(部長の「手伝う」発言、提出期限を延長するなどの措置はとられず) 歓送迎会は会社の事業活動に密接に関連していた(子会社の研修生との親睦を図るもの、費用は会社の経費から支払われていた、会社の車で送迎が行われた) お開き後アパートまで送ることも会社からの要請といえる(本来は部長が送る予定だった、アパートと工場の距離は約2km) 最後に

本件で重要なのは、「飲み会だから労災は下りない」わけではないという点である。会社の飲み会は、ただの親睦の場に見えることもある。しかし、その背後に、会社の意向や業務上の必要性がある場合は、業務遂行性が認められ、労災が下りるケースがある。参考になれば幸いだ。