引き上げが図られるフランスの現金決済の上限額

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ちょっと思い出していただきたい。最近立ち寄った居酒屋で勘定をするとき、店主はレジスターにきちんと金額を打ち込んでいただろうか。

チェーン店なら間違いなくそうしていると思うが、夫婦で暖簾を出しているような小さなお店では、金額が走り書きされたメモが渡されるだけ、ということがなかったか。

もちろん、その場合もメモと同じ金額を女将が帳簿に記載しているはずである。しかし、お店を出たあと、会計士の私はつい考えてしまう。「きちんと売り上げを管理しているのだろうか……」と。

実は先ごろフランスでは、これまで現金決済を認めていた上限額を引き下げて、今後は1000ユーロ以上の現金決済は認めない方針を決定した。これまでの上限額は3000ユーロだったので、その引き下げ幅はその3分の2に当たる2000ユーロにもなる。

対象となるのはフランス国内の商店や小売店がかかわった場合だという。そうなるとパリを訪れた日本人観光客がお目当てのブランドショップで何か買い物をして、1000ユーロ、日本円で約12万9000円以上の買い物をする際にも、カードなどで決済する必要が出てくることになる。

なぜ、このような規制が設けられるようになったのかというと、まず思い浮かぶ主な理由は脱税行為の防止である。

飲食店その他の店舗などでは、レジスターに入力された金額がそのまま売り上げ明細になり、通常経営者がこれを保管している。そして、決算期を迎えて財務諸表を作成する際にも、税務申告の際にもこのデータが元になる。

しかし、レジの記録を通さずに代金のやり取りを行えば、売り上げの記録が残らず、売り上げの除外がしやすくなる。フランスは2014年に、日本の消費税に当たる付加価値税を19.6%から20%に引き上げる計画だが、売り上げを除外してしまえば、法人税だけでなく、その付加価値税の納付も逃れることができてしまう。それに税務調査が入った際の脱税行為の証拠探しも難しくなる。

これは何も飲食店や小売店だけの話ではなく、他の業種でも代金を銀行振り込みにせずに現金で決済すれば、領収書でも発行しない限り、そのやり取りの痕跡を辿るのが難しく、不正の温床になりやすくなる。そうしたことを未然に防ぐことに、政府は日ごろから頭を痛めているわけだ。

とはいえ店主にしてみれば、「現金払いで受け取れるに越したことはない」というのが本音のはずだ。それというのも、クレジットカードで決済する場合、決済額の数%がカード会社の手数料として差し引かれるからである。

それでも多くの店がクレジットカードの加盟店になるのは、カードが使えることで、「現金の持ち合わせがないから買えない」という人が買い控えするのを防げる、つまり、機会損失を防止する狙いがあるのだ。

最後に会計士の立場から一言付け加えさせてもらえるのなら、やはりカード決済や銀行振り込みの活用などできちんとデータを残しておくことは大切だ。特に小売業など現金を扱う業種では、従業員が出来心で売り上げを誤魔化して現金をポケットに入れてしまうような不正がありえる。それを未然に防ぐための有効手段になるからである。

フランスと同じように日本でも消費税率の引き上げが予定されているが、将来的に15%、20%程度と上がっていけば、税逃れのインセンティブ(誘因)が働きやすくなり、フランスのように、現金決済に上限が設けられることになるかもしれない。ちなみに、スペインやイタリアはフランスと同じような動きを示しているそうだ。

(公認会計士・税理士 柴山政行 構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)