「信頼される人」とは…外交官だった私が外務省を辞めると決めたときにかけられた言葉
岡田武史さんが創設したFC今治高校里山校には、主体性を学ぶ「ヒストリック・キャプテンシップ養成講座(HC講座)という授業がある。その講師のひとりであり、今治出身の原ゆかりさんが、10の項目にわたってHC講座の授業を行った。その内容と、高校生が受け取った内容をレポートする。
ヒストリック・キャプテンシップ養成講座(HC講座):ヒストリック・キャプテンシップとは、正解のない世界の中でも、自分の信念をもって目標に立ち向かい、次の歴史を切り開く、FC今治高校が理想とする新しい形のリーダーシップ。みんなの上に立って引っ張っていく従来の強いリーダー像ではなく、仲間の隣に立ち、ともに悩み、同じ目線で同じ方を向いて考える。強さだけでなく弱さもあわせ持ち、人間くさく、たくさんの人に応援されて前に進んでいく。――そんな生き方をしてきた各界の先駆者をゲスト講師に招き、対話を行う授業のこと。
原ゆかりさんは東京外国語大学を卒業後、外務省に入省。在職中の2012年にガーナ北部ボナイリ村を拠点にNGO MY DREAM. orgを設立し、村の発展に伴走してきた。2015年、外務省を退職後は、NGOの活動と並行し、三井物産ヨハネスブルク支店での勤務、アフリカ企業での勤務を経験。2018年独立し哲学とストーリーのあるアフリカの高品質商品を取り扱うProudly from Africaを運営している。
まさに主体的に海外で学び、仕事を選んできたひとりだ。「10の項目」とは以下の通り。
1)自分のルーツを尊敬し、誇れる自分でありたい
2)独りよがりな「正義」に求心力はない
3)愚痴る前に、まずは信頼される自分になる
4)無知を自覚する、驕っていないか問い続ける
5)当事者を置き去りにしない
6)解決策に飛び付かず、問題・課題発見を大切にする
7)レジリエンス高く生きる
8)自分の思考に責任を持つ(AI等にドライバーシートを譲らない)
9)助手席で寄り添う存在でありたい
10 )モヤモヤの奥にはニーズがある
短期連載第3回は果たしてどのようなことを語ったのか。
高校生に圧倒的に人気のあったテーマとは…
FC今治高校里山校のヒストリックキャプテンシップ講座(HC講座)冒頭に、どのテーマを優先的に話すかを決めるために、生徒たちに10個の選択肢の中から気になるテーマに投票してもらいました。
中でも、今回のテーマ「愚痴る前に、まずは信頼される自分になる」は、圧倒的に人気のあったテーマでした。入学して1ヵ月弱というタイミングで、自分に重ねたのか、周りの誰かに重ねたのか、何か響く言葉だったのだろうなと思います。
信頼されていない人の主張は受け止められ方に根本的違いがある
17年前、外務省に入省する前の私は、国の政策や外交関係に文句ばっかり垂れていました。入省直前、それを見透かしたようなメッセージを、外務省の先輩からもらいました。
「色んな声に呼応することも必要ですが、先ずは仕事で一人前になることがスタート地点です。
僕自身仕事が一人前になっているとは思っておらず、毎日が勉強ですが、とにかく信頼されるに足る人間になることが先ずは重要だと思います。
外務省に限ったことではないですが、組織や組織内の人に対して批判的になることは馬鹿でも出来ますが、結局は信頼関係です。
信頼されている人の主張と、されていない人の主張は、受け止められ方に根本的な違いがあります」
痛いところを突かれたなと、赤面しました。以後、文句垂れたくなった時は、この言葉を思い出すようにしてきました。
インターンで滞在した念願のガーナに配属
2013年、念願叶って在ガーナ共和国日本大使館に配属になりました。その前年にインターンで滞在した経験から、ガーナに戻ってきたいという想いを強く抱き、多くの方々に力添えをいただいた結果の配属でした。
大使館での主な業務は、広報文化外交と兼轄国シエラレオネとの関係全般、そして通訳業務でした。大使館での仕事が私は本当に大好きで、既存のことにも新しいことにも積極的に取り組んだ2年を過ごしました。そしてその在職中、着任前年のインターンの際にお世話になったガーナ北部ボナイリ村のリーダー達とNGO MY DREAM. orgを立ち上げ、仕事終わりや週末にボランティア活動を続けました。
この時もやはり、先輩のメッセージが常に胸にありました。「仕事を疎かにしてボランティアばかりしている」とだけは、絶対に思われたくなかった。先ずは仕事で一人前になる、信頼されるに足る人間になる、ということを胸に刻み、人一倍の仕事をしようと心がけて目の前の仕事に取り組んでいました。
その仕事ぶりがどう評価されていたかは当時の上司や同僚のみぞ知るところですが、認めてもらえたのかもしれないな……とやっとホッとしたのは、上司や同僚がNGO活動拠点であるボナイリ村を訪れてくれた時のことでした。
農林水産省ご出身の大使が村を訪れてくださった際には、農業プロジェクトに取り組む村のリーダー達の説明に耳を傾けながら意見交換に参加し、助言くださいました。雨量の少ない土地で、どうやって土を耕し肥やし、収穫量が少しでも上がるような農業ができるのか、その後の村の農業の発展を後押ししてくださったことをとても感謝しています。
ちなみに、今年6月に訪れたボナイリ村では、大使が指導してくださった内容がしっかり畑の姿に投影されていました。約15年前には硬く平らだった土地が、今ではしっかり耕され、畝も作られ、丁寧な農業が定着しています。灌漑設備が整っていないため雨水頼みな点は変わらずですが、「天水にさえ恵まれれば収量は期待できる」と、手をかけることの重要さと意義を村人たちが話してくれました。
話を戻します。当時大使館の担当業務を二人三脚で担っていた同僚は、NGOの活動の一環で整備したMY DREAM幼稚園の記念式典に駆けつけ、優秀な成績を収めた生徒への表彰状を一緒に渡してくれました。ご家族揃って来てくれ、村の子ども達とも汗だくになりながらたくさん遊んでくれました。
霞が関には戻らず、ガーナでの活動を続けたい
人に恵まれ仕事も充実していましたが、2年ちょっとの大使館勤務を終えるタイミングで、私は外務省を離職することを決めました。霞が関に戻らず、ガーナのNGOの活動を継続していきたいから、というのが理由でした。
大使館から去る時に大使や同僚が寄せてくれたメッセージもまた、今の私の大事な一部になっています。その一部を抜粋してご紹介させてください。
「原さんがこれから進む道は、原さんにとって新しいものですし、まして私には未知の分野です。ただ、人の集まりの中で、人を相手に仕事をすることは同じでしょう。他の人がどう考えるか想像することと、生じている問題の本質は何かを捉えることは、私が心掛けてきたことです」ー大使
「全ての始まりは困難というヘブライ語のことわざがありますが、何事も最初は我慢のいることが多いと思います。我慢することは始まりだけではないかもしれない。それでも持ち前のセンスとパワーで乗り越えながら、豊かで楽しい人生を続けてください」ー同僚
今の自分が信頼されるに足る人間になれたかと自分に問うてみると、まだまだだと思うことばかりです。きっとそのための努力は、果てしなく続くのだと思います。
文句を垂れたり愚痴りたくなることは、毎日あります。そして言葉にもしてしまいます。でも、傍観して批判し続けるのではなく、そうじゃない世の中作りの一助となれるように、自分ができることすべきことは何か、そのために積み上げていくべき知識や知恵を学びと経験を通じて得ながら、共に取り組む仲間の思いを汲み取りながら、信頼される人間でありたいと願い続けています。
”Be the change you wish to see in the world.”
これは、非暴力と不服従で民主化運動を率たマハトマ・ガンディーの言葉です。見たいと願う世界を実現するために、自ら変化を生み出す人間となれ。大好きな言葉であり、自分もそうありたいと大事にしている言葉です。
(FC今治高校生からのコメント)
「信頼されている人の主張と信頼されていない人の主張は受け止められ方の根本的な違いがあります。という外務省の先輩に言われたという話が記憶に残りました。フィルターがかけられた状態になってしまうんだなと気づきました。だから信頼を勝ち取るにはまず相手が大事にしているところを理解して、自分も大事にしていけば信頼が少しずつできていくのかなと思いました」
「信頼を積み重ねることの大切さを感じた。」
「信用、信頼という言葉を聞いてそこからたくさん調べました。途中で講義を聞くのを忘れて調べまくってしまうほどに、『信頼』『信用』という言葉は、自分自身の心を大きく動かしました。『信用』は過去の実績や客観的評価に基づいて信じること(根拠重視)。『信頼』は人柄や将来の行動を期待して信じること(期待重視)(無条件に任せる)」
「信頼されるにはどんな行動や発言をしたらいいのかを考えさせられた。色んな声に呼応することも必要、でもまずは何かで一人前になることがスタート地点。毎日が勉強だから、自分自身が成長できるよう、また信頼されるような人間になるために日々過ごしていきたい」

