幻の味となってしまった“まっ黒ラーメン” 札幌屈指の老舗で名人の味が生まれた背景に迫る 「ラー博」伝説(14)

全国のラーメンの名店が出店する「新横浜ラーメン博物館」(ラー博)は、年間80万人以上もの客が訪れる“ラーメンの聖地”です。横浜市の新横浜駅前にオープン後、2024年3月に30年の節目を迎えましたが、これまでに招致したラーメン店は50店以上、延べ入館者数は3000万人を超えます。岩岡洋志館長が、それら名店の「ラーメンと人が織りなす物語」を紡ぎました。それが、新刊『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社)です。収録の中から、 札幌の幻の味となった「名人の味 らーめん爐(いろり)」を紹介します。


札幌屈指の老舗の“まっ黒ラーメン”
新横浜ラーメン博物館がオープンして2年が過ぎた1996年の3月からスタートした企画が、「新横浜着 全国ラーメン紀行」です。そのトップバッターとして出店いただきましたのが、札幌の「名人の味 らーめん爐(いろり)」です。新横浜ラーメン博物館30周年企画「あの銘店をもう一度」では第7弾の店として、2022年11月4日からの3週間、出店いただきました。私は、ラー博がオープンする前から「爐」の存在は知っていました。だから、いつかご出店いただきたいと思っておりました。
札幌といえば、味噌ラーメンですが、こちらのお店は1951年に創業し、独特なスタイルを築きました。“まっ黒なスープ”の秘密は特製の“焦がしラード”にあります。店名にも冠された「名人の味」という言葉のように、熟練の技法でのものすごく複雑な味わいで、その味に惚れました。
なぜこのような“まっ黒ラーメン”が生まれたのか?
【「名人の味 らーめん爐」過去のラー博出店期間】
・ラー博初出店:1996年3月20日〜1996年9月30日
・「あの銘店をもう一度」出店:2022年11月4日〜2022年11月24日

熱いラーメンを求めて往復した北大生に親しまれ
1951年、創業者の大関十一郎さんは、北海道大学の学生寮・恵迪寮(けいてきりょう)の近くでラーメン店を構えました。雪の降りしきる札幌、学生は店内に囲炉裏のあるその店に熱いラーメンを求めて寮から往復し、できた学生たちの足跡道が、いつの頃からか、“爐(いろり)街道”と名付けられたそうです。

そんな北大の学生たちに親しまれた「爐」という名が、現在の屋号「爐」となっているのです。
「名人の味 らーめん爐」は1962年オープン
そんなスタートをきった「爐」でしたが、1962年、大関十一郎さんの兄である二代目の大関鉄三さんが、札幌・すすきの(札幌市中央区南4条西5条)にも「爐」をオープンします。また、親戚筋も苗穂( なえぼ)駅前に店を構え、「爐」は3店舗を構えることとなりました。

その後、鉄三さんの戦友から、いい場所があると紹介を受け移転したのが、北4条西5条(現在のアスティ45ビル付近)の店舗でした。
1987年、再開発となり、その年に竣工した札幌センタービルからの“ラブコール”を受け移転。この頃から、から、鉄三さんの長男である徹史さんがお店を手伝うようになり、2013年、札幌市西区の地下鉄・発寒南(はっさむみなみ)駅近くに移転したのでした。
「新横浜着 全国 ラーメン紀行」第1弾
新横浜ラーメン博物館が開業して2年後、オープン時から出店していた喜多方「大安食堂」が、ラー博を卒業することとなりました。このとき、「レギュラー店以外に期間限定店を設けて、より活発なサイクルで多くのお店を紹介できないだろうか」――との思いから始まったのが、「新横浜着 全国ラーメン紀行」プロジェクトです。ご当地ラーメンはもちろん、個性、話題性なども加味して、日本全国の多彩なラーメン文化を柔軟に紹介していく企画でした。その記念すべき第1弾としてご出店いただいたのが「爐」でした。

当時、すでにレギュラー店として札幌「すみれ」が出店していましたが、あえて同じ札幌の「名人の味 らーめん爐」を誘致したのは、同じ札幌のラーメンでも、実は幅広いバリエーションあることを紹介したかったためでした。それほど個性的なラーメンで、ラー博で紹介したい味わいだったのです。振り返ると、昨今の札幌で密かなブームとなっている“札幌ブラック”の、草分け的なお店であったのです。
丼ぶり一面を覆う “まっ黒スープ”の秘密
「名人の味 らーめん爐」のラーメンを初めて見た人は、「これは、イカ墨?」と、思う方もいらっしゃいますが、イカ墨はまったく使用されておりません。「名人の味 らーめん爐」には、「らーめん」と、「スペシャルらーめん」が存在します。どちらのラーメンとも、特製の“焦がしラード”が入るのですが、これがまっ黒な見た目の秘密でした。前者は野菜の旨みを凝縮したもの、そしてスペシャルらーめんには野菜+魚介類の旨みがたっぷり含まれています。

この特製の“焦がしラード”は、自家製ラードから作っていきます。市販の精製ラードでは「爐」の味が出ないとのことです。そこに、野菜やツブ貝、ホタテ貝、アサリ、イカなどを加え、強火で焼きます。強火で焼く理由は、せっかくの濃厚スープなのに、野菜や魚介類の水分によって薄まってしまうのを防ぐためです。こうして培われてきた技術こそ、屋号の前に関した「名人の味」の所以(ゆえん)なのです。

「爐」のラーメンと特製の焦がしラード
ラーメンのスープも、中華鍋を使って作り上げていきます。特製の“焦がしラード”ができ上がったら、豚骨を強火で炊いた白湯スープを加え、タレを入れスープが完成します。麺は札幌ラーメンの歴史を変えた製麺所である西山製麺の多加水熟成ちぢれ麺。力強いスープに負けない弾力とコシを兼ね備えています。

具材は「らーめん」にはチャーシュー、モヤシ、メンマ、そして「スペシャルらーめん」にはひき肉、魚介類(ツブ貝、ホタテ貝、アサリ、イカなど)と、ボリュームたっぷりです。
もちろん「らーめん」にも野菜の旨みが詰まった特製“焦がしラード”が入り、独特な味わいでクセになります。「スペシャルらーめん」の色みが黒なのに対して、「らーめん」は焦げ茶色で、スペシャルらーめんと比べ、ややあっさりとした味わいに仕上がっております。
幻の味になった「爐」のラーメン
2024年4月、店主の大関徹史さんより、「体調がすぐれないため、お店を廃業する……」というご連絡をいただきました。その後、訃報が届いたのは3カ月後の7月でした。奥さまによると、廃業を決めた1カ月後に逝去されたとのことでした。70年以上続いた、唯一無二のラーメンが、途絶えてしまったことは残念でなりませんが、私たちにできることは、未来永劫、「爐」に感謝し、その歴史とすごさを伝え続けることだと思っております。ご冥福をお祈り申し上げます。

『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』2025年2月20日発売
『新横浜ラーメン博物館』の情報
住所:横浜市港北区新横浜2−14−21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時〜21時、土日祝10時半〜21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円
新横浜ラーメン博物館:https://www.raumen.co.jp/


