J2昇格に邁進する岐阜。指揮官・上野優作が語る「若手の成長」と「ベテランの価値」
その傍らで、2022年カタールW杯まで代表に携わった面々も、新たな環境で奮闘している。森保一監督のもとでコーチとして2年間働いたFC岐阜・上野優作監督もその1人。W杯のあと、J3の指揮官として再出発を切ったのだ。
1月のチーム始動時には、選手一人ひとりの成長を一大テーマに掲げたという。
「具体的に言うと、状況を的確に判断してプレー選択できる選手になってほしいと。そこが一番です。攻撃時にはボールを保持しながら機を見てゴールを突いていく、守備時はファーストディフェンダーからしっかりプレスをかけて守りの組織を構築していくという基本ですね。そこから入りました」
そのうえで2か月のプレシーズンを経て、3月の開幕を迎えた。序盤5戦は2勝2分1敗とそこまで悪くなかったが、4〜5月にかけて4連敗。一時は18位に沈む苦境を味わった。
「開幕直後はある程度、狙い通りにできていたんですけど、トレーニングの負荷の大きさや怪我人が重なって4連敗してしまった。得点も思うように取れず、苦しみましたね」
この時点の総得点はわずかに9。現役時代は大型FWとしてアビスパ福岡や京都サンガF.C.、アルビレックス新潟などで活躍し、第一次森保ジャパン時代も攻撃担当コーチだった指揮官にしてみれば、この状況に納得いくはずがない。改善策を見出そうと懸命に取り組んだ。
「もちろんシュートトレーニングもやりましたけど、我々が大事にしているのは、ビルドアップ、中盤の攻撃、最後の崩しの3段階。そのうちのどこが上手く行っていないかを突き詰めました。
相手陣内に人数をかけてゴール前に侵入しているか、スルーパスを供給してGKとの1対1を作っているか、中盤の崩しでは正しい立ち位置を取れているか、自分たちが狙っていた形でボールが動いているか...といったディテールをしっかりと見極めなければ、抜本的な改善にはつながらない。それを続けた結果、少しずつ結果が出るようになってきました」
その言葉通り、5月14日のカマタマーレ讃岐戦から、6月24日の福島ユナイテッドFC戦までは6試合無敗と完全復調。15節終了時点では5位とJ2昇格圏内を捉えつつある。
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2−0で勝利した福島戦にしても、確実な中盤のつなぎから左MF村田透馬のクロスが入り、逆サイドの窪田稜が詰める形で先制。村田の追加点も右サイドからの大きな展開に反応し、豪快に決めたものだった。
22歳の窪田が6ゴール、同じく22歳の田口裕也が3ゴールなど、若い力が成長しているのも、岐阜に前向きな流れをもたらしていると言っていい。
「地元メディアの方にも『チーム完成度はどれくらいまで来ていますか?』とよく聞かれるんですけど、『7〜8割』と回答しています。細かいことを繰り返して、最終的にはJ2昇格を掴みたいと思います。
若い選手が伸びているのはすごく良いことですね。一緒にカタール・ワールドカップに行った町野修斗(湘南)も、J3の北九州で実績を残して湘南ベルマーレへ行き、代表の座を掴み取った選手ですけど、そうなる選手が出てきてくれると嬉しいですけど」
上野監督は近い将来、森保監督の手元に選手を送り出すという理想像を描きながら日々、采配を振るっている様子だ。
そして、若手たちに良い影響を与えているのがベテラン勢だ。岐阜にはご存じの通り、柏木陽介、宇賀神友弥、田中順也という元日本代表トリオが揃っている。さらにJ1〜JFLの5クラブで300試合に出場している33歳のベテラン庄司悦大も良い味を出しているのだ。
5月28日のカターレ富山戦で柏木がアキレス腱断裂の重症から8か月ぶりに復帰。6月11日のアスルクラロ沼津戦から柏木・庄司のボランチコンビがスタートから出るようになると、中盤がグッと安定感を増し、上野監督の目ざすスタイルがより具現化できるようになった。彼らの存在価値の大きさを指揮官自身も実感しているという。
「彼らがいないとこのチームは上手く回っていかないと言っても過言ではありません。ウガ(宇賀神)は6月18日のSC相模原戦までリーグ全試合フル出場でしたし、順也にしても途中出場が多いものの、チーム第一で献身的にプレーしてくれます。陽介も本当に一生懸命、チームのことを考えてくれている。
それにプラスして、キャプテンの庄司ですよね。彼らはロッカールームでもサッカーの話をよくしていますし、試合中でも局面、局面で『もっとこうしたほうがいい』と積極的にコミュニケーションを取ってくれます。コーチングスタッフとしては有難い限りです」
神妙な面持ちでこう語る上野監督は、カタールW杯でも川島永嗣(ストラスブール)や長友佑都(FC東京)、吉田麻也(シャルケ)らの立ち振る舞いを間近で見てきた。その分、ベテランがもたらすものがどれだけ大きいかを肌で感じている。
その経験もあって、庄司や柏木とは密に意思疎通を図っているし、一緒になって岐阜をよくしようと努力している。それが今の上昇気流の大きな原動力となっているのは間違いないだろう。
「若い力」と「ベテラン」が上手く融合しつつある岐阜。彼らの本当の戦いはここからだ。
※第1回終了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
