インスタグラムの世界は華やかだ。だが、キラキラした投稿のために身の丈以上のお金を使ってしまう人もいる。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「ある20代の女性からキャッシングの金額が200万円になったと相談を受けた。彼女はインスタグラムでの『いいね』のために、リボ払いとキャッシングを続けていた」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

■「モデルさんですか?」と聞いてしまうような雰囲気

先日、知り合いの女性誌編集者にこんな話を聞きました。「ツイッターは日中、インスタグラムは寝る前に見る人が多いらしいです」。どういう意味かといえば、リラックスして過ごしたい夜は、激しい言葉の応酬が行われるツイッターでなく、「インスタ映え」と言われる、インスタグラムの中のキラキラした世界を見ながら過ごす人が多い、という話でした。

この話を聞いてすぐ思い浮かんだのが、派遣社員の田端加奈さん(仮名/25歳)のことでした。彼女は1年前、「インスタ映え」のために200万円の借金を抱え、人生のほとんどを費やしていたSNSのアカウントを失いました。キラキラ女子を襲った「承認欲求の罠」をお伝えします。

田端さんは私のお客さんのお友だちでした。彼女自身は資産形成などにあまり興味はなかったようでニコニコと友だちの用事に付き合っているような感じでしたが、とても感じが良く、ファッションやメイクも洗練されていたので、「モデルさんかファッション関係の方ですか?」と思わずお聞きしてしまったほど。「いえいえ〜」と顔の前で振った指先にもキラキラと輝くネイルが施されていて、思わずうっとり。「美容とか洋服が趣味なんです」と、恥ずかしそうに答えてくれました。

■実は「インスタグラマー」だった

その後なんとなく田端さんと仲良くなり、彼女がSNSの世界ではちょっとした有名人であることを知りました。いわゆる、「インスタグラマー」だったのだと思います。フォロワーが数万人いて驚きました。一緒に行ったカフェで撮った写真も、彼女の手にかかるとまるで雑誌の1ページのようにかっこよく加工され、私も気分が上がりました。

一方で少し気にかかったのは、カフェでもっとも「映える」2000円超のパフェを頼んだものの、ほとんど口もつけずに写真を撮って終わらせていたこと。彼女自身が食べたくて注文したのでなく、キラキラした日常の一コマを演出する小道具としてのパフェだったのかな、と思いました。後日、パフェとフカヒレラーメンが一緒にアップされていて、たしかにとてもキラキラしていました。

■「200万円のキャッシングに手をつけている」相談の電話

そんな田端さんから相談の連絡が来たのは数カ月後のこと。「貯金が底をつき、キャッシングの金額が200万円になってしまった」「この先どうしたらいいかわからない」と取り乱していましたが、その膝の上には最新のブランドバッグがありました。30万円もする高級品で、毎月1万円支払うリボ払いで買ったものだと言います。

たしかに、20代前半という年齢や派遣社員という契約形態、仕事内容を聞く限り、彼女の「インスタ映え」な生活は不思議に感じていた点でした。聞いてみると、キラキラ生活の実態は手取り20万円、そのうちの5万円をリボ払いに費やしている苦しい状態でした。インスタグラマーとして人気を博してはいましたが、PRのようなお金の発生する案件はごくわずかで、生活の足しになるレベルではなかったそうです。

写真=iStock.com/Victollio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Victollio

■「いいね」欲しさに出費がかさんでいった

田端さんの浪費のきっかけは、やはりSNSでした。たくさんの「いいね」が嬉しくなり、みんなに褒めてもらえるような投稿をするために最新のコスメやファッション、グルメを追いかけ、次第に出費がかさんでいったと言います。最初こそ現金で購入していましたが、すぐに足りなくなってリボ払いに移行。その返済にも困るようになって、キャッシングが200万円になってしまったということでした。

ちなみに、「30万円の買い物をリボ払い」するとどうなるか、です。田端さんの場合、金利15%の元利定額方式という支払方式を取っていて、毎月1万円支払う契約でした。支払総額は37万8000円になります。「リボ払い」は「分割払い」と異なり、残高に対してもどんどん利息がかかります。その利息と元本がきれいにゼロになるには、このケースだと38回、3年間を要するということなのです……恐ろしいですね。

果たして借金を完済したあとも、彼女はあのブランドバッグを使い続けるでしょうか? 私が悲しいのは、田端さんの消費行動が「本心」に基づいたものではないことでした。心から欲しくて、清水の舞台から飛び降りるような気持ちでした買い物は誰にもあるでしょう。私もあります。いつか飽きたり嫌になったとしても、少なくともその瞬間、自分にとって絶対に必要なものだと思えたなら、お金の使い方として間違っていないと思うんです。

■「普通の人」がキャッシングやリボ払いで苦しんでいる

しかし田端さんの場合、すべての行動が「いいね」基準になってしまっているので、例えば「流行り」や「モテ」といった第三者目線でお金を使ってしまう。こうした消費傾向は見栄っ張りの人に多くて、昔からお金が貯まらない人の典型とされています。

写真=iStock.com/courtneyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/courtneyk

キャッシングやリボ払いで苦しむ人は闇を抱えているような印象があるかもしれませんが、今はこういった本当に普通の方が多いですし、周りのファイナンシャルプランナーのお客さんにも似たケースが少なくないそうで、SNSでの「いいね」合戦の末、数百万の時計を買ってしまった人もいるとか……。

結局、田端さんは数社からキャッシングをしていたこともあり、返済をひとつにまとめてもらう処理を弁護士さんにお願いしました。返済には6、7年かかるのではないか、ということです。そして彼女が心血とお金を注ぎ込んだSNSは、弁護士さんのお世話になったことでアカウントを廃止にせざるを得なくなったとのこと。今回は免れましたが、最悪の場合、破産になる場合もありますので、リボ払い・キャッシングは決して安易に手を出してはいけません。

■SNSで「寂しさや不安を紛らわすことができた」

つい最近田端さんと会ったとき、「あんなにハマってたのに残念だったね」と声をかけると、「自分磨きっていうか、キラキラした生活を送ってたら結婚相手も見つかるかなと思ったんです」と話していました。地方から東京に出てきてインスタグラムをはじめ、「いいね」がつくようになって承認欲求が満たされ、「寂しさや不安を紛らわすことができた」という田端さんの話を聞けば、決して「自分が悪い」なんて言葉で済まされることではないと感じました。

一方で、お金の使い方だけなく、「他人からどう見えるか」と、判断のジャッジを他人に受け渡してしまうと後悔が増えるような気がします。たとえ人からしたらバカみたいな行動でも、「自分がハッピー」ならどんな結果でも納得できるのではないでしょうか。

とはいえ田端さんの場合はまだ20代。若いのでリカバリーがいくらでもききます。ぜひこの体験を教訓に、“自分軸”の人生を歩んでいってほしいと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)